岩田剛典 王子様から“異能の俳優”へ ~『Vision』『名も無き世界のエンドロール』から紐解く~

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ライター:加賀谷 健
岩田剛典 王子様から“異能の俳優”へ  ~『Vision』『名も無き世界のエンドロール』から紐解く~
『名も無き世界のエンドロール』©行成薫/集英社 ©映画「名も無き世界のエンドロール」製作委員会

「三代目J SOUL BROTHERS from EXILE TRIBE」(以下「三代目」)のパフォーマーとして2010年から活動している岩田剛典は、今や俳優としての顔の印象が強くなっている。今年2021年、「Be My guest」というコンセプトでソロ活動を本格始動させた岩田は、なぜひとりのアーティストとしてのイメージとスタイルを確立できたのか。彼がこれまで出演してきた映画/ドラマ作品から、その軌跡を紐解いていきたい。

『Vision』の「奇跡」から

「三代目」のパフォーマーとしてのデビュー当初は、王子様キャラで人気を集め、“岩ちゃん”という愛称で親しまれる爽やかなイメージ路線だった。2013年に舞台「あたっくNo.1」で初めて演技の場を踏んだことから映画やドラマ作品に精力的に活動していく岩田だが、映画初主演作品となった『植物図鑑 運命の恋、ひろいました』(2015年)では、やはり彼の持ち前の爽やかスマイルが画面を活気づけ、彼が演じた“樹”というキャラクターには、どことなく岩田自身の素の姿が鮮やかに投影されていた。

そうした王子様路線から「EXILE TRIBE」の全勢力を注いだ一大プロジェクト『HiGH & LOW』シリーズ(2015年~)を経て、大きくシフトしていくのが2018年だ。この年、「僕の生きてきたすべてを懸けた」と本人が語る『去年の冬、きみと別れ』と、カンヌ映画祭の常連であり世界的な評価を得ている河瀬直美監督の『Vision』が全国公開され、岩田は俳優としての本格的なスタートを切った。

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公開順は前後するが、『Vision』から説明していきたい。奈良・吉野の山林に暮す山守の智(永瀬正敏)。彼は予言通り、フランスからやって来たエッセイストのジャンヌ(ジュリエット・ビノシュ)との運命的な出逢いを果たす。ある日、突然森の奥に鈴(岩田剛典)という謎の青年が現れる。彼が一体どこから来たのかは、まるで分からない――。

河瀬監督の地元で、大自然の生命力溢れる壮大な物語が描かれる全編に何とも不思議な空気が流れた作品だ。監督特有のドキュメンタリータッチの画面の中で、のびのびと演技をする岩田の姿が活き活きと描かれており、何より岩田とフランスの名女優ビノシュの共演が実現したこと自体、夢のようだった。夢か現か、ほんとうに分からないけれど、知らず知らずのうちに引き込まれていってしまうのが『Vision』の作品世界である。

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では、「Vision」とは何か? それは1000℃の熱とともに現れ、人類全体の痛みを消すという。ジャンヌが鈴にそう説明するVisionは、997年に一度の転生の奇跡であるらしいのだが、それを見る(体験する)ことと同時に、私たちは、ビノシュと岩田が映画の中の役を超えて、純粋に言葉と言葉による対話を通じて国境を越えていく奇跡に立ち会うことになる。

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岩田にとってかけがえのない体験となったビノシュとの共演が、彼にとってのVisionとなった。山林が燃え上がり、炎のサークルに取り囲まれる鈴の姿。ジャンヌは水は必要ないと言う。ここにVisionが出現したのだろうか。程なくして火が鎮火し、水や木々が静かにざわめき出す。ジャンヌは焼跡で鈴を抱きかかえる。見つめ、見つめ返すビノシュと岩田の表情。恍惚とした表情の鈴が思わず呟く「母さん」という一言。彼は何を思い、何を発見したのだろう。

開巻から全編が謎に包まれた本作にひとつの答えを与えるなら、ビノシュに抱きかかえられる岩田自身もまた俳優としてのこの先のVisionを得て、転生したわけだ。

「鬼面」の表情

『Vision』によって俳優として転生するためには準備段階が必要だった。王子様路線を進んでいた彼がこんな奇跡を体験するために、そのキャラクターを象徴する“岩ちゃんの爽やかスマイル”を封印した『去年の冬、きみと別れ』は、あまりに衝撃的すぎた。恋人のための復讐劇を描いた切ないサスペンスである本作で岩田は、復讐を固く心に誓う主人公の姿を通して異様な雰囲気を醸し出した。

冬の海辺、点字で書かれた彼女からの手紙にライターで火を付けて、過去の自分に別れを告げようとする恭介の恐るべき表情が炎に照らされる。怪物になると言うように、文字通り「鬼面」が浮かび上がる忘れがたい場面。これまでの“爽やかな岩ちゃん”からは全く想像のつかない姿に、大きな衝撃を受けたファンも多かったはずだ。

本作の恭介役は、演技派へとシフトチェンジしたかと思われる意気込みの熱演だが、役柄の二面性を表現する「鬼面」の表情を見て思うのは、複数のペルソナを使い分けて演技に多面的な厚みを持たせているわけではなく、表情を映した「面」が状況に合わせて、その都度付け替えられている印象が強いことだ。役者が被る面が付け替われば、身体がそれに応じて自然と表情が変化する能面の、あの不思議を思う。岩田がまさに鬼の面を付けた能楽師のように「異能の俳優」としての新たな歩みを進めはじめた矢先に、『Vision』の奇跡がやって来たのだった。

「異能の俳優」として

「三代目」のオーディション時からプロデュースを担当してきた音楽プロデューサー・松尾潔が2021年に出版した念願の小説「永遠の仮眠」。岩田はそのカバービジュアルに起用されているが、新潮社による松尾との対談記事の中に興味深い発言があった。

本来の自分は、岩田剛典という商品を客観的にみているというスタンスなんです。

(※出典:新潮社 波 2021年3月号

この発言を少し深堀りしてみると、能楽の大成者である世阿弥が「花鏡」で述べた“離見の見”のことではないかと思った。演じる自分の立場と観客の立場を踏まえて全体を客観的に見なければいけないことを意味する世阿弥の言葉だが、自らを“商品”と語る岩田の俯瞰的な視点は、古来から受け継がれてきた芸能論に根ざしている気がする。

能楽の世界では、あの世とこの世をシテ(主役)とワキ(相手)を演じる能楽師が自在に行き来する。面を付け替えることで表情が感情に追いつき、現実と映画とのふたつの世界の境界を曖昧にしてしまう岩田の異能は、能楽師に由来しているとしか思えない。そうした特性は、『空に住む』(2020年)で、現実世界から遮断された高層マンションの空の上の生活を営む人気スター俳優として見事に体現され、さらに役柄と作品世界とがうまくマッチしたのが『名も無き世界のエンドロール』(2021年)だった。

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©行成薫/集英社 ©映画「名も無き世界のエンドロール」製作委員会

最愛の人のための復讐劇が描かれる本作は、『去年の冬、きみと別れ』と物語的に似た作品だが、岩田演じる主人公・キダの孤独はより一層強くなっている。

『名も無き世界のエンドロール』©行成薫/集英社 ©映画「名も無き世界のエンドロール」製作委員会

中学生の頃から、キダ、マコト(新田真剣佑)、ヨッチ(山田杏奈)の三人は強い友情で結ばれていた。高校を卒業し、腐れ縁で修理工場で一緒に働くマコトに真っ赤なポルシェを預けた金持ちの娘リサ(中村アン)とは住む世界が違うとキダが話す時、マコトはむしろ世界は隔てられているだけだと言う。

『名も無き世界のエンドロール』©行成薫/集英社 ©映画「名も無き世界のエンドロール」製作委員会

だがキダは、明らかにマコトやヨッチとは異界に属している。自動車修理工から転職した彼が、裏社会で暗躍する闇の世界の住人になったこと。高校生だった頃に三人で訪れた夕日の海で「近くて遠いところから」とヨッチに語る彼の台詞もまた、“離見の見”の視点に立った人生観であったこと。爆破された部屋の窓から放たれる火の粉が、空に弧を描きながら最後の輝きを放つ光りを見つめる。おそらくこの世ではない世界の横断歩道を、手を繋いで渡るマコトとヨッチを静かに見守る。「名も無き世界」の「エンドロール」は、こうしたキダの無表情によって締めくくられるしかなかった。この無表情こそ能面が持つ最大の特性だ。

『名も無き世界のエンドロール』©行成薫/集英社 ©映画「名も無き世界のエンドロール」製作委員会

岩田は『名も無き~』で、能楽が理想とする“幽玄”の境地に達したようにさえ思う。そして2021年7月より放送中のTBS火曜ドラマ『プロミス・シンデレラ』で岩田が演じる老舗旅館の若旦那役もまた、着物姿で能楽師のようなすり足によって「異能の俳優」としてのイメージとスタイルを確立している。

文:加賀谷健

『Vision』はAmazon Prime Videoほか配信中
『名も無き世界のエンドロール』『去年の冬、きみと別れ』はNetflixほか配信中
TBS火曜ドラマ『プロミス・シンデレラ』は毎週火曜よる10時より放送中

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