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なぜ人が人を喰らうのか? タブーに踏み込む最新食人ホラー『人肉村』から、新旧「食人映画」の歴史を振り返る

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ライター:#多田遠志
なぜ人が人を喰らうのか? タブーに踏み込む最新食人ホラー『人肉村』から、新旧「食人映画」の歴史を振り返る
『人肉村』©2020 UNIT XIX INC ALL RIGHT RESERVED

文化風習的側面から描かれた食人映画

「人が人を喰う」という行為は古来から人間の歴史に度々登場する。タンパク質の確保や強い敵の力を得るため、また相手を死後も嘲笑するため、など歴史上には様々な意図を持った食人行為があったが、その多くは人が文明化していくに従い、また未開の地に宗教的倫理観が持ち込まれることで「野蛮である」と廃れてきた。そのタブーは小説だけでなく、映画の中でも描かれている。その多くは、ホラー的な要素として登場することが多い。

食人行為を描いた映画として、未開地域や奇妙な風習などを描いたドキュメンタリースタイルのいわゆる「モンド映画」は欠かせない。その中で食人行為は扇情的な題材として扱われている。代表的な例としては『残酷人喰大陸』(1974年)などが挙げられるだろう。海外旅行などまだハードルが高かった頃、モンド映画には疑似的な世界観光旅行の側面があった。未開の地に残る人肉に喰らいつく未開部族の姿は、知らない世界の奇妙な風習を見たい、という見せ物小屋的な好奇心を大いに刺激したはずだ。

残酷人喰大陸 [VHS]

そして、なんといっても『食人族』(1980年)だ。日本では『E.T.』(1982年)と同時期に公開されたので、宇宙人と少年の交流映画からあぶれ、人食い部族を見てしまった人が多数発生し、大ヒットを記録した。その結果激しくショックを受け、その後の人生に影響した者多数、という転換点的な映画になっている。この作品は消息不明になった撮影隊の遺したフッテージ、というドキュメンタリータッチで展開していくが、野蛮人のショッキングな食人シーンも描いているものの、原住民の野蛮性より、彼らの姿を撮って大儲けしようというゲスい文明人が「野蛮人相手なら何やってもいいべ」と蛮行の限りを尽くし、気のいい彼らの逆鱗に触れ食肉にされてしまう、という「果たして真の野蛮人はどちらでしょうか?」という社会への問題提起、文明批判がなされている。

『人喰族』(1984年)や『食人帝国』(1980年)など、食人映画は大ヒットによってその後もジャンル映画の一つとして作られ続けたが、最近でも環境問題や自然破壊など現代的な問題も内包した『グリーン・インフェルノ』(2013年)などがあった。

「食人行為を含む殺人者」を描いた作品群

そして、もう一つのジャンルとしては「食人行為を含む殺人者を描いたもの」がある。死体損壊やネクロフィリアをするようになった開祖的な存在として挙げられるエド・ゲインは、『サイコ』(1960年)のモデルになった。彼らシリアルキラーの歴史において、人肉食は絶えず登場する行為だ。殺人鬼ジェフリー・ダーマーの事件など、今でも多くの人肉食にまつわる連続殺人者の実話が映画化されることは多い。

変わったものとしては、人肉パイを作って売っていた実際の事件をベースにした『血に飢えた断髪魔/美女がゾクゾク人肉パイに』(1970年)などがあるが、これは実は最近のメジャー映画の元ネタになっている。ティム・バートンの『スウィーニー・トッド フリート街の悪魔の理髪師』(2007年)である。ポップなテーマに姿を変えてはいるものの、人肉食テーマは意外なところに転がっているものである。

実際の事件を下敷きにしていたもう一つの有名な映画が、ホラー映画の金字塔『悪魔のいけにえ』(1974年)だろう。ゲインの事件をベースにしている本作、直接の人肉食シーンはないものの、死肉の転がる食卓シーンや、肉用のフックに無造作に犠牲者を突き刺しぶら下げる様、そして人体に振り下ろされるチェーンソー。数々のショック描写は「肉」としての人間、を想起させるのに十分だった。この傾向は続編『悪魔のいけにえ2』(1986年)でより顕著となり、殺人家族の家長が人肉チリソースで州のコンテストを受賞するという予想もつかなかった展開を見せる。

同種の作品、というか問題作としては、ペットフード業者が墓暴きをして死体使ったら元手かからないから丸儲けだとバンバン墓を掘り起こしご遺体を挽き肉に変えまくって大儲けしていたら、しっかり人肉の味を覚えた町中の猫たちがミャーミャーと人々を襲い始める、という『人間ミンチ』(1972年)という怪作もあり、猫派必見の作品だ。

『悪魔のいけにえ』から始まった食人+「田舎はおっかない」映画

『悪いけ』がエポックメイキング的なのは、食人映画にさらにアメリカ特有のジャンル映画の要素を加えていることだろう。それが「ヒルビリー映画」だ。一言でいってしまえば「田舎もの映画」、「田舎はおっかない」映画だ。その土地独特の方言、風習などは都会からやってきた者にとっては面食らう物ばかり。しかも、それが自分に害をなすものだったとしたら……。このジャンルもまた南部人が北部の人間を誘い込み、様々な祭りの催しの中で殺していくハーシェル・ゴードン・ルイスの『2000人の狂人』(1964年)などが挙げられるだろう。日本映画でも、かつては『九十九本目の生娘』(1959年)などこのジャンルに入る映画は存在していたし、大枠で言えば『大魔神』(1966年)シリーズでさえその括りに入る。

また、『悪いけ』にはテキサスという独特なワイルドさを持つ地域を描いた、「地方映画」としての側面もある。この区分には、アメリカ南部の沼地地帯や、蒸し暑さのため肌も露わな美女、ムーンシャインと呼ばれる高純度の密造酒など、その土地の文化を色濃く描くことでその地域での収益が見込める、そんな「南部映画」「沼地映画」という地域限定的なジャンル映画も作られていた。密造酒のシーンは、南部の兄ちゃんが活躍するTVドラマシリーズ『爆発!デューク』(1979~1985年)や、『欲望のバージニア』(2012年)など多くの作品で描かれている。

そういったジャンル映画テイスト溢れる映画群は、かつてのドライブインシアターでかかっていた「グラインドハウス」的存在だったが、メジャーでジャンル映画的な素材を扱った歴史の転換点的作品、スティーヴン・スピルバーグの『ジョーズ』(1975年)が世界的に大ヒット。また、次第にアメリカ全国にショッピングモールが出来、映画館もシネコン化していく。レンタルビデオ屋の登場で、どこの地方で全国同じものが手に入るようになった。いわば文化の均一化が進んだおかげで、そういったローカルな話(ジャンル)は成立しにくくなっていった。

『悪いけ』の流れを汲む最新食人映画『人肉村』

その傾向はインターネットや、通販が普及し、映画を家にいながらにして見られるようになった現在はより顕著だろう。また、田舎を恐怖の対象にしたり偏見の目で見るという作品自体、今の時流からは制作自体なかなか難しい。まぁクレームは必至であろう。しかし今回、田舎×人肉という『悪いけ』の流れを汲む、力強い新作映画が公開される。それが『人肉村』だ!

『人肉村』©2020 UNIT XIX INC ALL RIGHT RESERVED

車の故障で立ち往生した2組のカップル。レッカー車を頼みにガソリンスタンドまでたどりついたが、そこは食人兄弟の経営する店だった。そこにカップル間の浮気などの疑念が存在し、引き裂かれたカップルたちの運命は、よりサスペンスフルなものになっていく。

『人肉村』©2020 UNIT XIX INC ALL RIGHT RESERVED

本作に登場する“食人兄弟”は社会性はあるし口も立つが、そのぶん狂っているというか弁舌で相手を威圧し実務担当のオーウェン、気は優しいが頭は回らない暴力担当の弟オズワルド、「もっとも凶暴」と兄たちに監禁され姿さえ見せない末弟オックスフォード……キャラ立ちは抜群だ。人肉兄弟を演じたのは実はイギリス出身の役者だが、アメリカ南部訛りをうまく再現している。人肉兄弟の冷静なときの理論的な狂気と、激したときの爆発的狂気の二面性のギャップ、イカレた台詞などで、「ああ、この人たちは常人のルールが通用しないのね」と思わせる、そんな説得力がある熱演である。

『人肉村』©2020 UNIT XIX INC ALL RIGHT RESERVED

高圧的で支配的な母に育てられた兄弟、というあたりはエド・ゲインの生い立ちを思わせる。『悪いけ』はもちろんのこと、砂漠に立ち往生した家族のキャンピングカーを食人家族が襲う『サランドラ』(1977年)や、凶暴な兄弟が女性を誘拐監禁する『恐怖のいけにえ』(1980年)などを想起させる。本作は今までのヒルビリー食人系映画をうまくインスパイアしつつ、オマージュを様々な過去ホラー作品に捧げつつ映画化しているのだ。

『人肉村』©2020 UNIT XIX INC ALL RIGHT RESERVED

スプラッター的表現を直接見せるよりも、歴代の犠牲者の写真などの小道具、過去に長年監禁されて妊娠させられた女性の見せる拘禁反応などで精神的なショックを加えるなど、表現にも工夫の跡が伺える。また、厳しい冬が来てまた酷暑の夏も来る、という舞台設定など、この世界観は中々に魅力的である。また新たな『悪いけ』的な世界観を構築していると言える『人肉村』、続編などシリーズ化もちょっと期待したいところだ。

『人肉村』©2020 UNIT XIX INC ALL RIGHT RESERVED

まさかのゲーム化も進行中! 今後の食人映画はどうなる?

メジャー映画はファミリー層を意識し、よりレーティングもキツくなった。そして田舎も世界中から少しずつなくなっていく。食人ホラー、田舎ホラーの活躍の場は少なくなっていく一方だ。

しかし近年、食人業界では気になるニュースがあった。なんと『食人族』のゲーム版が発表されているのだ! 期待して待っていたが続報もなく企画消滅かと思ったが、いつのまにか「BORNEO: A Jungle Nightmare」とタイトルを変え鋭意開発中のようだ。『食人族』の名前が使えなくなってしまったのか……。しかし貴重な食人ホラーゲーム、期待して待ちたい。

また、今後は欧米だけではなくアジア、アフリカ映画などさまざまな地域から食人、人肉映画が出てくるのではないかという予測もできるだろう。実際インドで本格的な食人映画『Cannival(原題)』なども制作されている。地球上にまだ未開の荒野や田舎など食人文化が残っていそうな場所がある限り、このジャンルのネタは尽きないのだ。

文:多田遠志

『人肉村』は2021年8月20日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷、池袋シネマ・ロサ、新宿武蔵野館ほか全国公開

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『人肉村』

緑に囲まれた郊外の一本道、ドライブ旅行を楽しんでいた男女4人の若者たちが、車の故障で孤立してしまう。そして、彼らを森の陰から“獲物”として狙う者たちがいた。その村に住むワトソン一家は、道に迷った者たちを拉致し、捕獲した男は食料にし、女は繁殖のための道具として利用していた。やがて、一家の襲撃が始まり、若者たちは次々と捕らえられ、監禁されていく。果たして彼らはこの地獄から逃げ出すことができるのか!?

制作年: 2020
監督:
出演: