連続殺人鬼と名匠F・アキンの驚くべき関係が判明!? 『屋根裏の殺人鬼フリッツ・ホンカ』制作秘話

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ライター:BANGER!!! 編集部
連続殺人鬼と名匠F・アキンの驚くべき関係が判明!? 『屋根裏の殺人鬼フリッツ・ホンカ』制作秘話
ファティ・アキン監督『屋根裏の殺人鬼フリッツ・ホンカ』

ドイツに実在した連続殺人鬼を描いた衝撃作『屋根裏の殺人鬼フリッツ・ホンカ』(2019年)が2020年2月14日(金)より公開! 脚本・監督を手掛けたのは、トルコ系移民二世としてドイツ・ハンブルクに生まれ、若干30代にして世界三大映画祭(ベルリン国際映画祭、カンヌ国際映画祭、ヴェネチア国際映画祭)で主要賞受賞の快挙を成し遂げたファティ・アキンだ。現在も地元ハンブルクに暮らすアキン監督から、衝撃描写満載の本作にまつわる驚きのエピソードを聞くことができた。

『屋根裏の殺人鬼フリッツ・ホンカ』©2019 bombero international GmbH&Co. KG/Pathé Films S.A.S./Warner Bros.Entertainment GmbH

「父にホンカについて聞いたら『路面電車で一緒になった』って(笑)」

―本作の主人公フリッツ・ホンカは、ドイツでは有名な殺人鬼ですか?

いいや(笑)。僕が生まれて現在も住んでいるハンブルク(※ドイツ北部、ベルリンに次ぐ規模の都市)では、彼は民話的な存在になっているんだ。それはドイツでの興行成績を見ても分かるんだけど、北部に行くほど数字が良くて、南部に行くほど下がっていった。中でも数字が良かったのがハンブルクなんだ。ホンカはあくまで“ハンブルクのもの”ということだね。

『屋根裏の殺人鬼フリッツ・ホンカ』©2019 bombero international GmbH&Co. KG/Pathé Films S.A.S./Warner Bros.Entertainment GmbH

―ドイツには、古くは1800年代のフリッツ・ハールマンや、1960年代のアルミン・マイヴェスなど、有名な殺人鬼がいますね。

そう、たくさんいるんだよね……(笑)。なぜホンカを選んだかというと、まずはハンブルクという物理的な繋がりがあるから。ホンカはこの地域で生まれて、1970~1975年の間に実際に殺人行為に及んだ。それは僕の住んでいる地域だったんだ。僕の父が1966年に、母が1968年に引っ越してきて、1973年に僕が生まれた。だから父にホンカの話をしたら、「ああ、知ってるよ。路面電車で一緒になったし」って(笑)。そんな存在なんだ。

『屋根裏の殺人鬼フリッツ・ホンカ』©2019 bombero international GmbH&Co. KG/Pathé Films S.A.S./Warner Bros.Entertainment GmbH

「殺人鬼の下階に住んでいたギリシャ人家族が、なんと友人の親戚だったんだ」

とても奇妙だったのが、僕の友人でアダム(・ボウスドウコス)という俳優がいるんだけど、彼はギリシャ系移民で、『ソウル・キッチン』(2009年)という作品で主人公のジノスを演じている。彼にこの原作小説の話をしたら、「(犯行現場となった屋根裏部屋がある)ホンカのアパートの下の階に住んでたの、誰だか知ってる? 僕の伯父の家族だよ……」って言うんだ。「ウソだろ?」って思ったけど、本当だった(笑)。つまり、この映画に登場するギリシャ人家族の少女は、アダムのいとこにあたるんだ。そこで「ぜひ出演してほしいんだけど」と相談したら、「え、ホンカに!?」とか言うから、「いやいや君にだよ!」って(笑)。それで下階のギリシャ人家族の父親を彼に演じてもらったんだ。

『屋根裏の殺人鬼フリッツ・ホンカ』©2019 bombero international GmbH&Co. KG/Pathé Films S.A.S./Warner Bros.Entertainment GmbH

―アダムさん、かなり雰囲気が変わられていたので気づきませんでした!

もう3人の子どもを持つ父親だからね(笑)。『ソウル・キッチン』を撮った頃は、ちょうどレストランを手放したばかりだったんだ(※当時アダムさんが実際に経営していた)。経営している頃は毎日忙しくしていたけれど、今は座りっぱなしで1日中Netflixを観ているような毎日だから……いや、ぜんぶ冗談だよ! あれは彼の役作りさ(笑)。そうだ、見せたいものがあるんだ。

(アダムさんが持っていたという叔父家族の写真を見せながら)これは70年代に撮られた写真なんだけど、アダムの一番上のお兄さんや、彼のいとこも写っている。この部屋の壁紙を見てほしいんだけど、映画ではカーペットも含め、この写真から再現したんだ。でも、彼の家族もまだ事件のトラウマを抱えているから、さすがにこの写真は公表させてもらえなかったね。

『屋根裏の殺人鬼フリッツ・ホンカ』©2019 bombero international GmbH&Co. KG/Pathé Films S.A.S./Warner Bros.Entertainment GmbH

―当時の実際の写真を見ると、映画のディテイールがますますリアルに感じられて寒気がしますね……!

ハハハ、そうだよね(笑)。この映画を作るにあたって「ファティ・アキンは、なぜこの題材を!?」と言われはしたんだよね。でも、まさに今この写真から感じてもらえたように、僕にとってはすごくパーソナルな題材なんだ。僕自身にとっての悪夢であり、恐怖心を描いた作品でもある。だって、自分のすぐ近くでこんな事件が起こっていたんだから、遠いハリウッドでアンソニー・ホプキンスが演じていたような存在(※ハンニバル・レクター)というわけじゃないんだよ!(笑)

『屋根裏の殺人鬼フリッツ・ホンカ』©2019 bombero international GmbH&Co. KG/Pathé Films S.A.S./Warner Bros.Entertainment GmbH

「最高のスタッフが70年代を再現したリアルなセットを短期間で用意してくれた」

―本作で描かれる70年代のファッションや小道具、街の様子なども、監督ご自身の当時の記憶や、リサーチされたものでしょうか?

今回は製作にあまり時間が取れなかったんだけど、最高のスタッフが頑張ってくれたんだ。僕が彼らにお願いしたのは一つ、「できるかぎり、リアルにしてほしい」ということだけ(笑)。5週間しか準備期間がなかったのに、ものすごいスピードで見事にリアルなセットを用意してくれたよ。なぜリアリティを求めたかというと、リアルであればあるほど観客に“信じて”もらえる。信じてもらえれば、より怖いと思ってもらえるから。

『屋根裏の殺人鬼フリッツ・ホンカ』©2019 bombero international GmbH&Co. KG/Pathé Films S.A.S./Warner Bros.Entertainment GmbH

今回のスタッフは『愛より強く』(2004年)からずっと一緒に仕事をしてきた仲間なんだけど、本当に最高のスタッフで、バーのセットなども短い期間のなかでスタジオ内に建て込んでもらった。実際のバーで撮らなかったのは(※ホンカが娼婦たちに声をかけていたバー“ゴールデ ン・グローブ”は現在も営業中)、撮れなかったというのもあるけれど、僕自身そこでは撮りたくなかったんだ。なにしろ居心地が悪いし、こういった作品は、監督として全てコントロールすべきだと考えているから。ジョン・カサヴェテスのようにカメラを担いでシネマ・ヴェリテ(※観客にカメラの存在を意識させる手法)的に撮るようなタイプの作品ではないしね。

『屋根裏の殺人鬼フリッツ・ホンカ』©2019 bombero international GmbH&Co. KG/Pathé Films S.A.S./Warner Bros.Entertainment GmbH

そうやって少しずつコントロールすることで恐怖を構築して、シーン毎に観客に感じてもらいたいものをしっかり捉えていかないといけない。だから、ひとつひとつを押さえていった感じだね。

「もし初めて人間をバラバラにしたら? どうしても滑稽さがにじみ出てしまうと思う」

―本作はハインツ・ストランク氏による小説が原作ですが、映画ではどこまでが事実で、どのあたりがフィクションでしょうか?

10代のカップルに関する部分はフィクションといって良いだろうね。原作小説の一部にもそのエピソードがあって、彼らがホンカの行きつけのバーを訪れるところも描かれている。ただホンカとのつながりはそれだけで、僕は脚本家でもあるから脚色するにあたって、映画作家として、その2つの糸をどうしたら繋げられるか? と考えた。そして、なにかしらポジティブなものを感じさせて終わるのが良いんじゃないか、と思ったんだ。

そう考えたときに、ホンカの執着の対象となった少女、つまり被害者の女性たちの若かった頃を象徴する存在にした。少年の方は、ホンカ自身の若かった頃を象徴していると見てもらってもいいと思う。それらは映画を観てすんなり見て取れるようにはなっていないけれど、そう解釈してもらうこともできるんじゃないかな。そして、あの少女の存在が希望になればと思った。まあ、かなりダークな作品だから、その希望もほんの少ししか感じられないかもしれないけどね……(笑)。

『屋根裏の殺人鬼フリッツ・ホンカ』©2019 bombero international GmbH&Co. KG/Pathé Films S.A.S./Warner Bros.Entertainment GmbH

―監督にとって悪夢のような存在だというホンカですが、この映画では、そんな彼がどこか滑稽に見えてしまう瞬間もあります。

原作を書いたストランクはコメディアンとしても知られている人で、テレビや舞台で活躍しているんだ。同じ原作をもとにした90分の舞台劇があるんだけど、完全にコメディになっていてガッカリしてしまった。原作と違うじゃないか! って(笑)。ただ、原作にあったユーモアはこの映画にも少し残ったと思うし、それが滑稽に見えてしまった理由じゃないかな。

例えば実際に人間の首を切り落としたり、人体をバラバラにするということを“初めて”やった人がいたとする。でも、もし人体の構造を知らなかったら ― もちろん恐ろしい行為ではあるんだけど ― どうしても滑稽さがにじみ出てしまうんじゃないかと思うんだ。あとは観客として映画を観た場合に、恐ろしい作品の中にも時に軽妙なシーンや笑いが差し込まれていたほうが、スクリーンに映し出されているものを追いやすくて、僕はありがたいと思うタイプなんだよね。

ファティ・アキン監督『屋根裏の殺人鬼フリッツ・ホンカ』

「ファスビンダー監督のある作品が戦後ドイツの素晴らしいリサーチ素材になった」

―映画の冒頭から衝撃的な描写がありますが、そんなシーンでもポップな音楽が流れます。それは演出上の狙いだったんでしょうか?

もし僕がホンカだったら……っていう例えも変だけど(笑)、人間の首を切り落とすという行為を想像してみたところ、やっぱり僕には無理だったんだ。じゃあどうするか? と考えたときに、お酒を飲みまくらないとできないだろう、と。それに、最初に首を切り落とすシーンで大きな音がしてしまうんだけど、あれは観客に恐怖を与える効果を狙ったものであり、同時にホンカ自身にもその音は聞こえているわけで、彼はそれに耐えられないんだ。だから気を紛らわすために、お気に入りの曲を大音量で流してノコギリの音が聞こえないようにしている、というシーンだね。

僕は全てのことに音楽を寄り添わせたいタイプだから、それでこの映画では“大音量で音楽を流す”という行為につながったんだ。事実かどうかわからないけれど、原作小説の中では冒頭のシーンで流れる音楽がホンカのお気に入り、という設定になっているよ。

『屋根裏の殺人鬼フリッツ・ホンカ』©2019 bombero international GmbH&Co. KG/Pathé Films S.A.S./Warner Bros.Entertainment GmbH

―劇中で使用される楽曲は60~70年代のものが多いですが、全て監督と音楽担当のFM・アインハイトさんがチョイスされたものですか?

僕自身はその時代の音楽はあまり詳しくなくて、子どもの頃にヒットしていた曲くらいしか知らなかった。ほとんどがドイツの曲か、イタリアの曲のカバーだったね。でもリサーチをしているなかで、ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー監督の作品をいくつか観たんだけど、中でも『四季を売る男』(1971年)という作品が、その時代のスピリットを上手く捉えているように感じたんだ。70年代に関しては、この作品以上に素晴らしいリサーチ素材はないと思えるくらい、正確に戦後のドイツというものを捉えていた。その映画や劇中で使われていた曲や、インスピレーションを得たものから曲を選んでいったんだ。

『屋根裏の殺人鬼フリッツ・ホンカ』©2019 bombero international GmbH&Co. KG/Pathé Films S.A.S./Warner Bros.Entertainment GmbH

僕はいつも、使用楽曲を決めて権利関係も全てクリアにしてから撮影に入って、現場でその曲を使える状態にする。なので「このシーンではこの曲」というのを俳優たちとも共有していて、今回もそうしたんだ。長回しを多用する場合は、シーン毎に使用する曲を参考にしてもらったり、後から曲を乗せてミックスするのではなく、実際に撮影現場でスピーカーから曲を流すこともある。アインハイトには劇中曲の作曲だけでなく、選曲においてもリストを見ながら意見をもらったよ。

ファティ・アキン監督『屋根裏の殺人鬼フリッツ・ホンカ』

『屋根裏の殺人鬼フリッツ・ホンカ』は2020年2月14日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほかロードショー

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『屋根裏の殺人鬼フリッツ・ホンカ』

1970年代、ハンブルク。留年が決定したペトラがカフェでタバコを咥えると、突然、男が火を差し出してきた。男はペトラが去った後も、その後ろ姿をじっと見つめている。

バー<ゴールデン・グローブ>。
カウンターの端にいつもフリッツ・ホンカは座っていた。女に酒を奢ろうと声を掛けても、「不細工すぎて無理」と振られるだけ。注文もせずにひとりでポツンと座る中年女にフリッツが一杯奢ると、そっと横にやってくる。「私はゲルダ。ありがとね」。フリッツとゲルダは店を後にする。

フリッツの部屋。
ゲルダには30歳になる独身の娘がいるらしい。「ぽっちゃりして、可愛い子よ。肉を売っているの」 「面白いな。娘を連れてこい」。ゲルダの娘に会うことを夢想するフリッツ。

バー<ゴールデン・グローブ>。
いつまでたってもゲルダは娘を連れてこない。フリッツは3人で飲んでいる娼婦たちに声をかける。「俺の家に来い。酒ならいくらでもある」。ひたすら酒を飲み続ける女たちは、言われるままにフリッツの家へ入っていく。

ある日、フリッツは車に突き飛ばされる。それを機会に禁酒するフリッツ。夜間警備員の仕事につき、真っ当に生きようと心に誓うのだった……。

制作年: 2019
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