短パン1丁の特殊部隊“ダッコン”に戦慄!『ハンバーガー・ヒル』は“終わっている戦争”で命を散らせた若き兵士たちの凄惨な実話

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ライター:大久保義信
短パン1丁の特殊部隊“ダッコン”に戦慄!『ハンバーガー・ヒル』は“終わっている戦争”で命を散らせた若き兵士たちの凄惨な実話
『ハンバーガー・ヒル』©1987 RKO Pictures Inc. All Rights Reserved.

『ディア・ハンター』『地獄の黙示録』と並ぶ傑作がリバイバル上映

ベトナム戦争は、その終決後(1975年に南ベトナムが無条件降伏)しばらくの間、アメリカ映画の主題になりませんでした。1978年公開の『ディア・ハンター』(傑作)はロシア系庶民の物語ですし、翌1979年公開の『地獄の黙示録』(豪華な傑作)は19世紀末の小説「闇の奥」の舞台であるアフリカをベトナムに置き換えたもので、“ベトナム戦争の映画”とは言えないと思います。

それが、最前線の兵士の生態と戦闘を再現した『プラトーン』(1986年)によって“ベトナム戦争映画ムーブメント”が興るのです。それは10年かけて沈殿した澱(おり)が一気に噴き出したかのようでした。そのなかでも『ハンバーガー・ヒル』(1987年)は、ベトナム戦争映画トップ5に入る作品です。

『ハンバーガー・ヒル』©1987 RKO Pictures Inc. All Rights Reserved.

“終わっている”戦争に徴兵されて

『ハンバーガー・ヒル』は、1969年5月のアシャウ渓谷・937高地(数字は標高から)を巡る激戦の実話がベースになっています。

すでに前年の1968年、アメリカはベトナムからの段階的撤退を宣言していました。一向に好転しない戦局、腐敗し内紛を繰り返す南ベトナム政府、加速する反戦世論に、アメリカ政府も嫌気が差していましたし、なにより経済への悪影響が看過できない状況だったからです。

つまり、この戦いに投入された兵士たちは「自国民の支持もなく、勝利なく終わることが分かっている戦争に徴兵(当時のアメリカは徴兵制)された若者たち」なのです。彼らの心境は、劇中に流れるイギリスのバンド、アニマルズの「朝日のない街」と見事にシンクロしていて、この歌が流れるシーンは見所のひとつでしょう。

北ベトナム特殊部隊「ダッコン」

映画序盤において、ディラン・マクダーモット演じるフランツ軍曹がFNG(ファッキング・ニュー・ガイ=クソ新兵)に戦場の厳しさ、そしてベトコン(NLF/民族解放戦線の俗称)のタフぶりを訓示します。

その背後で陣地潜入要領を実演する「ハン」という名前のベトナム人は、北ベトナム特殊部隊「ダッコン(Dac Cong)」だった人物と思われます。捕虜になるか転向するかした結果、新兵教育に協力しているのでしょう。

彼の姿を見て「短パン1枚で特殊部隊?」と思うかもしれませんが、事実、ダッコンは短パンに半袖シャツに裸足、ときには短パンに裸足で活動していたのです。もちろん、通常はダッコンもちゃんとした(?)装備を身につけています。

でもアメリカ軍や南ベトナム軍基地に侵入する際は、裸に近い軽装になって環境に溶け込みつつカッターで鉄条網を啓開、そこから小火器やRPG(対戦車擲弾)を手にした後続のダッコンが突入したのです。

裸足なので足元にも敏感になるし、短パン1丁なので鉄条網に服を引っ掛けることもないのですが、擦過傷から雑菌が入って感染症に罹らなかったのでしょうか……。

『ハンバーガー・ヒル』©1987 RKO Pictures Inc. All Rights Reserved.

物量を駆使して描いた戦場シーン

撮影は、『地獄の黙示録』や『プラトーン』と同じくフィリピンで行なわれました。そしてこれが、UH-1ヘリコプターはもちろん、雰囲気タップリのトラックやバスをはじめM41軽戦車やM113APC(装甲兵員輸送車)、そして大勢のエキストラを動員してベトナム戦争という空間を見事に再現しているんです。

近接航空支援を担うのはF-4ファントム戦闘機。オーストラリアのベトナム戦争映画『デンジャークロース 極限着弾』(2018年)ではCGで登場しますが、こちらはCGが無かった時代の映画なので、本物の(フィリピン軍の)F-4ファントム戦闘機が超低空で飛び抜けます。もちろん砲爆撃の爆発は仕掛けですが、爆風で撮影カメラのレンズが一瞬震えるほどで「これ大丈夫なのか?」と心配になるぐらいのド迫力です。

『ハンバーガー・ヒル』©1987 RKO Pictures Inc. All Rights Reserved.

凝縮されたリアリズム

ヘリボーンのシーンでは、歩兵を地上に展開させるUH-1が地上から50センチ程度の空中でホバリングを保っていることに注目してください。これは完全に接地させてしまうと緊急離脱が難しくなってしまうからなのですが、撮影に協力したパイロットの腕前に脱帽です。M60D機関銃を構えるドア・ガナー(ヘリ機銃手)の絶妙な姿勢や銃身の向け方も、お見事と言うほかありません。

さらに支援砲撃(105ミリ榴弾砲か)を要請すると、まず発砲音が微かに響き、砲弾の飛翔音がしてから着弾爆発というリアルな描写もあって、まるで記録映像を観ているかのようです。なお、空き箱や木枠などのゴミが散乱した背景描写もポイント。戦場というのは大量のゴミが出るものなのです。

『ハンバーガー・ヒル』©1987 RKO Pictures Inc. All Rights Reserved.

それにしても、大勢の両軍兵士が入り乱れて泥濘の山の斜面で死闘を繰り広げる場面は、その爆発と銃撃の量も相俟って、いったいどのように撮影を統制したのか、アメリカ映画界の組織力のようなものを感じます。

『ハンバーガー・ヒル』にはドラマチックな人間模様や起承転結はありません。名もない凡庸な兵隊の目線に撤し、抑制の効いた演出と演技が紡ぐ、戦場再現映画なのです。

『ハンバーガー・ヒル』©1987 RKO Pictures Inc. All Rights Reserved.

文:大久保義信

『ハンバーガー・ヒル』は2021年4月16日(金)よりシネマート新宿、シネマート心斎橋ほか公開

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『ハンバーガー・ヒル』

機銃掃射によって挽肉にされる地獄の日々……。迫真のリアリズムで胸をえぐる実録ベトナム戦記、ジョン・アーヴィン監督『ハンバーガー・ヒル』。『プラトーン』『フルメタル・ジャケット』に比肩するスケールと迫真性を有する戦争大作が、日本初公開から34年を経てよみがえる。

制作年: 1987
監督:
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