ベトコンvs豪軍 衝撃的な接近戦術とは? 軍装や武器を徹底考証『デンジャー・クロース 極限着弾』

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ライター:大久保義信
ベトコンvs豪軍 衝撃的な接近戦術とは? 軍装や武器を徹底考証『デンジャー・クロース 極限着弾』
『デンジャー・クロース 極限着弾』© 2019 TIMBOON PTY LTD, SCREEN QUEENSLAND AND SCREEN AUSTRALIA

「今どき、この種の戦争映画を作る奴がいるのか!?」――最近の戦争映画では「自省の精神」とかで、敵国(敵兵)への“目配り”が欠かせなくなっています。もちろん、それは大切なことではありますが。

そんな風潮(?)のなかで『デンジャー・クロース 極限着弾』は、現場の自国軍将兵の目線に撤して「あの時・あの場所で・彼らはこう戦った」に焦点を絞った、ド直球勝負なメイド・イン・オーストラリアのベトナム戦争映画です。

『デンジャー・クロース 極限着弾』© 2019 TIMBOON PTY LTD, SCREEN QUEENSLAND AND SCREEN AUSTRALIA

その苛烈さが語り継がれる「ロングタンの戦い」

この映画は、1966年8月の南ベトナム農園地帯でオーストラリア/ニュージーランド軍108名とNVA(North Vietnam Army/北ベトナム正規軍)およびNLF(National Liberation Front/南ベトナム民族解放戦線:俗称ベトコン)推定2000名が激突した、「ロングタンの戦い」の史実をベースとした作品です。

『デンジャー・クロース 極限着弾』© 2019 TIMBOON PTY LTD, SCREEN QUEENSLAND AND SCREEN AUSTRALIA

ベトナム戦争は、介入した外部勢力にとって「必要のなかった、間違った戦争」でした。それはオーストラリアにとっても同じで、このロングタンの戦いも広く語られることはなかったとのことです。それが、史実を知ったプロデューサーのマーティン・ウォルシュらの尽力で、ようやく映画化となったのです。

『デンジャー・クロース 極限着弾』© 2019 TIMBOON PTY LTD, SCREEN QUEENSLAND AND SCREEN AUSTRALIA

この映画のもうひとつの特徴は、スクリーンから醸し出されるオーストラリア人気質。我々が見慣れているアメリカ戦争映画に登場するアメリカ人とは、文化や歴史からの相違なのでしょう、なにかどこかが違うのです。とくに兵隊同士、あるいは将兵間の愚直なまでの団結力は印象的です。

『デンジャー・クロース 極限着弾』© 2019 TIMBOON PTY LTD, SCREEN QUEENSLAND AND SCREEN AUSTRALIA

衝撃的な戦術「奴らのベルトにしがみつけ!」

ここで戦いの推移を説明するとネタバレになってしまうので、ひとつの戦術を解説してみましょう。

アメリカ軍などの強みは、圧倒的に強力な航空戦力と砲兵戦力でした。事実、強烈な砲爆撃に叩かれてNVA/NLFは甚大な損害を出しています。そこでNVAが採った戦術が「hug the belt(ハグ・ザ・ベルト=ベルトにしがみつけ)」でした。

『デンジャー・クロース 極限着弾』© 2019 TIMBOON PTY LTD, SCREEN QUEENSLAND AND SCREEN AUSTRALIA

敵兵のズボンのベルトにしがみつくほどの至近距離~もちろんこれは比喩ですが~での歩兵戦闘に持ち込んでしまえば、敵味方が接近し過ぎているためアメリカ軍は砲爆撃できなくなってしまうのです。だから劇中のNVA兵は「銃砲撃に怯まない」のではなく「着弾地点から、オーストラリア兵の方向に逃げている」のです。

こんな戦いを仕掛けられたら、損害覚悟で砲爆撃するしかありません。『プラトーン』(1986年)のクライマックスや、『ワンス・アンド・フォーエバー』(2001年)の中盤で描かれる「俺たちごと爆撃しろ!」――すなわち「デンジャー・クロース=至近着弾」です。

『デンジャー・クロース 極限着弾』© 2019 TIMBOON PTY LTD, SCREEN QUEENSLAND AND SCREEN AUSTRALIA

もっとも「hug the belt」戦術は自軍損害を織り込んだ一種の人海戦術であって、NVAは常にアメリカ軍らよりもはるかに多くの損害を出しています。それでも、フランス相手のインドシナ紛争時代に「1名のフランス兵を殺すのに10名のベトナム人が死んでも、先に音を上げるのはフランスだ」と語ったホー・チ・ミンの冷徹な言葉通り、(北)ベトナムは勝利したのです。

『デンジャー・クロース 極限着弾』© 2019 TIMBOON PTY LTD, SCREEN QUEENSLAND AND SCREEN AUSTRALIA

となると「民族解放のため戦い抜いたベトナムは勇敢」と称賛したくなりますが、それは「大義のために身命を捧げるのは当然」という、いつかどこかで聞いたスローガンになりがちなので、用心しましょう。

『デンジャー・クロース 極限着弾』© 2019 TIMBOON PTY LTD, SCREEN QUEENSLAND AND SCREEN AUSTRALIA

すぐれた武器考証に注目! カラシニコフに混じってStG44が!!

もちろん、軍装や武器考証はハイレベル。仰天したのは、第二次世界大戦中にドイツが実用化した世界初の突撃銃「StG44」(口径7.92㎜×33)を手にしたNVA兵士がいることです。事実、ソ連は大戦中に鹵獲(ろかく)したドイツの武器弾薬を、北ベトナムに供与していました。おそらく、現地でオーストラリア軍はStG44を確認していたのでしょう。

『デンジャー・クロース 極限着弾』© 2019 TIMBOON PTY LTD, SCREEN QUEENSLAND AND SCREEN AUSTRALIA

そして終盤の白兵戦で、折畳み式スコップを手にするオーストラリア兵にも注目です。白兵戦のような混乱と興奮のなかでナイフで人を刺すというのは難しく(刺されて収縮した相手の体からナイフや銃剣を引き抜くのも難しいそうです)、むしろ本能的に振り回してブン殴るスコップの方が使い易いのだとか。第一次世界大戦の塹壕戦でスコップや手斧が重宝されたのは、有名なエピソードです。

『デンジャー・クロース 極限着弾』© 2019 TIMBOON PTY LTD, SCREEN QUEENSLAND AND SCREEN AUSTRALIA

こうした戦術・武器だけでなく、驟雨が止むと鳥や虫が再び鳴き始める、という自然描写もナイスです。

凄惨な戦いが繰り広げられたロングタンの戦いですが、正規軍(NLFはゲリラですが)同士ががっぷりと四つに組んだ、ある意味“真っ当な戦争”でした。今でも現地にはオーストラリア軍が建立した記念碑が残っているそうです。しかも、それはベトナム社会主義共和国に存在する、唯一の外国軍将兵の碑なのだとか。それはもしかしたら、ベトナムがロングタンの戦いを「軍事作戦」として評価しているからかもしれません。

『デンジャー・クロース 極限着弾』© 2019 TIMBOON PTY LTD, SCREEN QUEENSLAND AND SCREEN AUSTRALIA

文:大久保義信

『デンジャー・クロース 極限着弾』は2020年6月19日(金)より新宿バルト9ほか全国ロードショー

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『デンジャー・クロース 極限着弾』

1966年8月18日未明、南ベトナム。ヌイダット地区にあるオーストラリア軍司令部の基地がベトコン部隊による迫撃砲の急襲を受ける。翌朝土砂降りの雨、雷鳴が轟くなか発射地点を突き止めるため偵察に向かったハリー・スミス少佐率いるオーストラリア軍D中隊。その小隊に属する兵たちは徴集兵で、平均年齢21歳と非常に若く経験が圧倒的に不足していた。

中隊長である少佐は、素人同然の徴集兵を率いることに意義を見出せず、准将に特殊部隊への異動を希望するも却下されていた。士気がままならないなか、第10、11、12の3小隊に分かれて前線を進む。ロングタンのゴム園に差し掛かると第11小隊がベトコン兵と遭遇。交戦となるがベトコン兵は散り散りに逃げて行く。安心した小隊は前進するも、既にベトコン兵の大軍に囲まれてしまっていた。自らの命を顧みないベトコン兵は容赦なく機関銃掃射で襲い掛かる! 四方八方から銃撃を受け、戦闘開始からわずか20分で28人構成の小隊のうち半数以上が負傷。味方からの応援部隊も近づけない平坦なジャングルで小隊は絶体絶命の状況に追い詰められてしまう。

ベトコン兵から放たれる機関銃の嵐の中、少佐は遂に基地へ指令を出す。目前にいる敵へ後方から迫撃砲を撃つ要請をしたのだ。「責任は取る。極限着弾(デンジャー・クロース)を要請する」。それは味方に対して超至近距離で撃つことになり、小隊が全滅してしまう危険な作戦である。

一方基地本部では、応援の大隊を出撃させるかの判断をする時が迫っていたのだった……。

制作年: 2018
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  • BANGER!!!
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