戦争は始めるよりも終わらせるほうが難しい……『リービング・アフガニスタン』は不良ソ連兵団の蛮行を暴く“狂気の”アフガン戦記

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ライター:大久保義信
戦争は始めるよりも終わらせるほうが難しい……『リービング・アフガニスタン』は不良ソ連兵団の蛮行を暴く“狂気の”アフガン戦記
『リービング・アフガニスタン』©Pavel Lungin’ Studio

実話ベースのアフガン撤退物語

荒涼とした山道を歩く老人と少年の頭上を、対空ミサイルに追われたスホーイ戦闘機が超低空で飛び抜ける――冒頭のこのシーンで好事家のハートを鷲掴みにする『リービング・アフガニスタン』は、アフガニスタン戦争末期のソ連軍を描いたロシア映画です。

『リービング・アフガニスタン』
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かつてソビエト連邦という大国がありました(1991年に崩壊)。そのソ連は1979年、アフガンに軍事介入します。アフガン社会主義政権に武装蜂起したイスラム勢力を鎮圧するための軍事介入でしたが案の定(?)、泥沼化。峻険な山岳地帯でのゲリラ戦に巻き込まれ、増援を送り込んでも損害が増えるばかりで(容赦ないソ連軍の攻撃によるアフガン国民と国土の被害も酷かった)、ソ連は軍事的にも経済的にも民心的にも疲弊していきます。

『リービング・アフガニスタン』©Pavel Lungin’ Studio

八方塞がりに陥ったソ連軍は、アメリカのベトナムからの撤退(トンズラ)とまったく同じように、アフガン国内の問題を何もかも放り出して、1989年2月に撤退するのです。

さて『リービング・アフガニスタン』は、1988年が舞台です。撤退準備を進めるソ連軍狙撃師団(「歩兵師団」のこと)に、イスラム武装勢力に撃墜され捕虜となったパイロット奪還命令が下されます。と言うのも、そのパイロットは師団の将軍の息子だったからです。公私混同な命令ですが、このストーリーはアフガンで活動していた情報機関員ニコライ・コヴァレフの回想録が基にされているとのことです。

『リービング・アフガニスタン』©Pavel Lungin’ Studio

混沌の戦争を描く

アフガン戦争! 捕虜奪還!! となると、例えば同じくソ連のアフガン戦争を描いた『アフガン』(2005年)、あるいはアメリカ軍とソマリア武装勢力との激闘を描いた『ブラックホーク・ダウン』(2001年)のような大バトル映画を期待しますが、『リービング・アフガニスタン』は変化球的に攻めてきます。

ストーリーの中核的存在の情報員ニコライは、精鋭部隊で奪還作戦を遂行するのではなく、イスラム武装勢力に身代金支払いを持ち掛け、捕虜解放とソ連軍撤退までの休戦を図るのです。

『リービング・アフガニスタン』©Pavel Lungin’ Studio

この“現場中間管理職の孤軍奮闘”的なニコライの活動と合わせて、狙撃師団兵士の日常、共闘しているようで対立している各部族勢力、保身に躍起のアフガン政府担当者などが点描的に描かれていきます。やや散漫な感もありますが、こうしたエピソードの積み重ねによって、無責任と混乱の坩堝と化していた1988年のアフガン国内の様子が浮かび上がってくるのです。

『リービング・アフガニスタン』©Pavel Lungin’ Studio

ちなみに軍隊というよりチンピラ集団のようなソ連兵ですが、「打ち切りが決定されたプロジェクトの整理業務を押しつけられた自分」を想像すると共感できるかもしれません。まぁ物資横流しや虐待は絶対にやっちゃ駄目ですが……。

『リービング・アフガニスタン』©Pavel Lungin’ Studio

続々登場するソ連兵器

戦闘シーンも短いながら高密度です。冒頭で戦闘機スホーイを撃墜するのは、アメリカが秘密裏に供与したFIM-92スティンガー地対空ミサイル。2007年公開の『チャーリー・ウイルソンズ・ウォー』は、この個人携行式地対空ミサイル供与の史実を軽妙に描いた快作です。

ソ連兵が乗る装甲車は装輪式装甲兵員装甲車のBTR-80。なぜ装甲に守られた車内ではなく車体上に乗っているかというと、地雷や対戦車兵器で攻撃された時に脱出できずに車内で焼け死ぬのを避けるためです。そんな彼らが持っているのはカラシニコフ突撃銃ですが、史実通りに口径5.45㎜に小口径化したAK-74やAKS-74(折畳みストック型)、そしてショートバージョンのAKS-74U。

『リービング・アフガニスタン』©Pavel Lungin’ Studio

対戦車擲弾発射器としては、お馴染みのRPG-7だけでなくRPG-26とRPG-27も登場しますが発射音(の効果音)がありがちな「ブシュー」ではなく、「バンッ」とか「ボムッ」となっていて、発射器後方に一瞬だけ噴き出すブラストと合わせて、さすが本家本元、リアルです。

『リービング・アフガニスタン』©Pavel Lungin’ Studio

そうしたハードウエアだけでなく、谷間に小麦粉を散布して粉塵爆発させるゲリラ戦法も描写されていて、現地にいた情報員回想録がベースならではのディティールと言えるでしょう。この粉塵爆発とは、石炭粉・砂糖・小麦粉・綿やアルミの粉末などが空気中に一定の割合で混じった時に火花などをキッカケに大爆発するもので、今でも倉庫などで起きてしまうことがあります。

『リービング・アフガニスタン』©Pavel Lungin’ Studio

『リービング・アフガニスタン』は、アメリカ製戦争映画で描かれるアメリカ兵とは一味も二味も違う、ソ連軍将兵の気質=文化のようなものが垣間見れる興味深い映画です。ですが、劇中で語られる「戦争は、始めるよりも終わらせるのがはるかに難しい」という言葉は、洋の東西を問わない真理ではないでしょうか。

『リービング・アフガニスタン』©Pavel Lungin’ Studio

文:大久保義信

『リービング・アフガニスタン』はCS映画専門チャンネル ムービープラス「特集:決死のミリタリー・アクション!」で2021年2月放送

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『リービング・アフガニスタン』

ソ連・アフガン戦争末期の1989年。第108自動車化狙撃師団に極秘指令が下される。将軍の息子である戦闘機パイロットが、イスラム組織ムジャヒディンの捕虜になったのだ。敵地に潜入して激戦を繰り広げる兵士たち。一方、KGBはムジャヒディンとの人質交換取引を模索していた。

制作年: 2018
監督:
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