故チャドウィック・ボーズマン熱演! Netflix『マ・レイニーのブラックボトム』 若き名優の遺作にしてブラックムービーの王道

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ライター:斉藤博昭
故チャドウィック・ボーズマン熱演! Netflix『マ・レイニーのブラックボトム』 若き名優の遺作にしてブラックムービーの王道
Netflixオリジナル映画『マ・レイニーのブラックボトム』独占配信中

『ブラックパンサー』の偉大な功績

やや強引な言い方かもしれないが、ハリウッドのひとつのジャンルとなっているのが、アフリカ系アメリカ人(黒人)が経験した人種差別を扱った映画。ここ数年、ダイバーシティ(多様性)が強くアピールされる風潮の中、さらにこのジャンルは多様化され、傑作が量産されるようになった。

アカデミー賞でも、2013年に『それでも夜は明ける』が作品賞を受賞したあたりから急激に高評価の作品が続き、作品賞ノミネートでは「常連」のジャンルとなった。2014年は『グローリー/明日への行進』、2016年は『ムーンライト』と『ドリーム』がノミネートされ、前者は受賞。2017年は『ゲット・アウト』、2018年は『グリーンブック』、『ブラック・クランズマン』、『ブラックパンサー』がノミネートされ、『グリーンブック』が受賞を果たした。このうち、『ドリーム』と『グリーンブック』だけは、白人の監督による作品。ゆえに『グリーンブック』が作品賞に輝いた際には「白人目線で人種差別を描いているのでは?」という論議も起こった。

『ブラック・クランズマン』のスパイク・リー監督は、キャリアの当初から黒人目線による人種差別をテーマにした映画に挑んできたことで有名だったが、『それでも夜は明ける』のスティーヴ・マックィーン、『ゲット・アウト』のジョーダン・ピール、『ムーンライト』のバリー・ジェンキンズ、『ブラックパンサー』のライアン・クーグラーと、その流れをくんで傑作を完成させる才能が、ここ数年、次々と登場しているのだ。多様性を求める社会にとって、ある意味で「健全」な姿に近づきつつあるのは喜ばしい。

中でも『ブラックパンサー』の功績は大きかった。マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)作品として、初の黒人ヒーローを主人公にしたうえで、興行的な大ヒットだけでなくアカデミー賞でも評価されたことで、ブラックムービーの歴史を変えた。この作品では人種差別が前面に押し出されているわけではないが、世界各国での黒人の社会的立場がストーリーの重要なポイントになっていたし、何より、自らの人種に誇りをもつというテーマが貫かれていた。人種差別を経験した人々に勇気を与えたのは間違いない。

チャドウィック・ボーズマンは歴史的偉人を演じることで人種差別と闘ってきた

そのブラックパンサー役でトップスターになったのがチャドウィック・ボーズマンだが、2020年8月、彼の急死のニュースは多くの人に衝撃を与えた。死の知らせが突然だったうえに、彼はすでにブラックパンサーを演じた頃にガンを発症しており、何年もの間、病と闘っていた事実が明かされ、訃報のショックはさらに大きくなった。チャドウィックは最後の2作『ザ・ファイブ・ブラッズ』(2020年:スパイク・リー監督)と『マ・レイニーのブラックボトム』で、過酷なキモセラピー(化学療法)を受けながら演技に臨んでいたそうで、前者はベトナム戦争で命を落とす役という勇姿が彼自身と重なって胸を締めつけ、遺作となった後者では、末期のガンに肉体が蝕まれていた現実を考えると、じつに観ていて切ない。

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チャドウィックは『マ・レイニーのブラックボトム』に、なぜ病をおしてまで出演したのか? これは推測だが、作品のメインテーマに彼自身が深く共鳴したからだろう。『マ・レイニー~』で演じたのは、トランペット奏者のレヴィー。彼のバンドが、「ブルースの母」と称される人気シンガー、マ・レイニーのレコーディングに参加する物語だ。何かと周囲に波風を立てるマ・レイニーに対し、レヴィーは独自のアレンジを試みるなど、ミュージシャンとしての野心を誇示する。

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ミュージシャンの映画というだけでなく、作品に脈々と流れるメインテーマは、人種差別だ。舞台は1927年のシカゴで、レヴィーのバンドの面々の会話中に黒人の現状が織り込まれていく。その会話が、まるで音楽のセッションのようなテンポで展開されるのも今作の魅力だ。バンドの中でもレヴィーが明かす過去はあまりにシビアであり、それまで歌やダンスも軽やかに披露していたチャドウィックが、この見せ場のシーンで豹変。観ているこちらを動揺させ、激しく胸を締めつけてくる。

チャドウィック・ボーズマンはこれまでも、出世作の『42 ~世界を変えた男~』(2013年)で黒人初のメジャーリーガー、『マーシャル 法廷を変えた男』(2017年)でやはり黒人初の合衆国最高裁判所の判事と、黒人の歴史を塗り替える役に挑んできた。ブラックパンサー役も含め、人種への不寛容を訴えることは俳優としてのライフワークと受け取ることができ、この『マ・レイニー~』は絶対に参加したかったはずだ。

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ミュージシャン役という点では、『ジェームス・ブラウン ~最高の魂(ソウル)を持つ男~』(2014年)でもカリスマ的スターを演じており、その経験が『マ・レイニー~』で、自分の演奏に固執するレヴィーの姿にも生かされたと感じる。一方で、今作におけるチャドウィックの容姿は、明らかに頬がこけ、病と苦闘している事実が感じられ、痛々しい。それゆえに魂の叫びがこちらに生々しく伝わってくるのだった。

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ゴールデングローブ主演男優賞ノミネート! アカデミー賞でも有力候補に

『マ・レイニー~』のチャドウィック・ボーズマンは、すでにロサンゼルスやサンフランシスコの映画批評家協会賞で主演男優賞に輝いており、2021年3月1日開催の第78回ゴールデングローブ賞では主演男優賞(ドラマ部門)にノミネート、さらに全米映画俳優組合賞でもノミネートされ、同4月25日開催の第93回アカデミー賞でも有力候補の一人となっている。

死後にアカデミー賞を受賞した俳優には、これまでピーター・フィンチ(1976年『ネットワーク』)、ヒース・レジャー(2008年『ダークナイト』)がいるが、チャドウィックが受賞すれば史上3人目。チャドウィックは『ザ・ファイブ・ブラッズ』でも助演男優賞にノミネートされる可能性があり、そうなれば故人としての2部門ノミネートは史上初の記録だ。

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そんなチャドウィックに劣らず、時に傲慢なふるまいもみせながら、やはり人種差別への訴えを全身全霊で体現する、マ・レイニー役のヴィオラ・デイヴィスも、さすがオスカー女優の実力で観る者を圧倒。また今作でプロデューサーにクレジットされているのが、デンゼル・ワシントンだ。

かつて俳優を志していたチャドウィック・ボーズマンのために、イギリスで演技を勉強する留学費用をデンゼルが肩代わりしたというエピソードは有名で、自分の後継者と目したチャドウィックの最期の映画で、再びデンゼルがバックアップしたという事実は、それだけで目頭が熱くなる。

さらに注目なのが、監督のジョージ・C・ウルフ。劇場公開の長編作は『最後の初恋』(2008年)、『サヨナラの代わりに』(2014年)に続いて3本目ながら、劇作家や舞台演出家としては『エンジェルス・イン・アメリカ』(1993年ほか)など、トニー賞を何度も受賞している超実力派。この『マ・レイニー~』もオリジナルは舞台であり、前述したように会話がセッションのように感じられるのも、監督の舞台演出家としての手腕が発揮されているからだろう。

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ジョージ・C・ウルフ監督はアフリカ系アメリカ人であり、オープンリー・ゲイ(ゲイであることを公言している人)。まさに多様性を象徴する存在であり、その意味で、ここ数年、傑作が続くブラックムービーの中でも、この『マ・レイニーのブラックボトム』は「王道」なのである。

文:斉藤博昭

『マ・レイニーのブラックボトム』はNetflixで独占配信中

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『マ・レイニーのブラックボトム』

1927年。情熱的で歯に衣着せぬブルース歌手マ・レイニーとバンドメンバーたちの想いが熱くぶつかり、シカゴの録音スタジオは緊張した雰囲気に包まれる。

制作年: 2020
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