上杉謙信の「毘」や武田信玄の「ムカデ」の旗の意味は?『天と地と』は海外ロケに数万人が参加した角川の超大作時代劇!

上杉謙信の「毘」や武田信玄の「ムカデ」の旗の意味は?『天と地と』は海外ロケに数万人が参加した角川の超大作時代劇!
『天と地と -HEAVEN&EARTH- 天の盤』
価格:DVD 4,700円+税
発売元・販売元:株式会社KADOKAWA

ペラペラのダウンベストに詰まった幼少期のぶ厚い想い出

12月に入って2020年もあとわずかとなってきたが、いまだにこの季節はなんだかワクワク、ソワソワしてくる。子供の頃は12月のクリスマスが近くなるあたりから、大晦日にかけてはワクワクが止まらない。あの頃は師走に入ると、新聞におもちゃのチラシが毎日たくさん折り込まれ、それを隅から隅まで眺めながら、買っても貰えないおもちゃに思いを馳せていた。兎に角ウチは貧乏で、クリスマスだからといって、子供の欲しいおもちゃなど一切買ってくれない、そんな家庭に育った。それでもおもちゃのチラシは、私の心を躍らせた。

だからといって、クリスマスに何も買ってくれない親ではなかった。お正月が近いということもあり、書初め用の習字道具一式という、なんのテンションも上がらないプレゼントをサンタさんが枕元に運んできてくれたこともあった。サンタさん、外国人なのによく日本の文化を知っているなと、子供心に思ったのを覚えている。

そして小学校4年生の頃、学校の子供たちの間に空前のダウンベスト・ブームが到来。クラスのみんなが色とりどりのダウンベストを着て、学校に登校していた。もちろん、私は持っていない。そこで初めて、クリスマスのプレゼントに「ダウンベストが欲しい」と母親に嘆願したのだが、母いわく「そんな袖が無い防寒着は暖かくないから意味がない。どうせなら袖のあるジャンパーにしなさい」と。

いま考えればもっともな話で、私の地元の滋賀県北部は豪雪地帯であり、近所にスキー場が2つもある地域なのでかなり寒い。しかしダウンベストは単なる防寒着ではなく、ファッションで着たいということを母は分かってくれない。「みんな着てるから欲しい」と言っても「よそはよそ、ウチはウチ」と言われるのがオチなので、余計なことは言わずに、何がなんでもダウンベストが欲しいと嘆願し続けた。すると母は渋々、クリスマスにダウンベストを買って来てくれた。もちろんシブチンの母が買ってきたダウンベストは、お世辞にもふっくらとしているとは言えず、ダウンとは程遠いペラペラの綿が少量入った、ペタンコの安モンのベストだった。それでも嬉しかった。紺と赤のリバーシブルで、嬉しくて家の中で何度も何度も袖の無いダウンベストに袖を通した。

ただ、ここで厄介なルールが発動する。“新しい服はお正月に着る”という我が家のルールだ。このルールのおかげで、ダウンベストを着て出かけるのに、あと1週間も待たなければならない。早く着て出かけたい気持ちを抑えて、仕方なく箪笥にしまう。そして大晦日の夜、元旦に着る服を枕元に置いて寝るのだ。もうダウンベストが着られることとお正月で、ワクワクしてなかなか眠れなかった。

そして元日の朝、家族でお雑煮を食べ、母の作ったおせちをつまみ、お年玉をもらい、今年の抱負を述べる。そしてコタツに入り、みかんを食べながら友達から来た年賀状を読み、テレビの演芸番組を観る。その後、待ちに待ったダウンベストを着て、ウキウキで初詣に向かったのだ。あの時の嬉しさはいまだに忘れられない。ペラペラの薄っぺらいダウンベスト。でも、そこには私のぶ厚い想い出が詰まっているのだ。

日本の四季の絶景は必見! 角川映画が製作費50億を投じて描く<謙信vs信玄>因縁の対決

そんな年の瀬の思い出を語りながら、年末年始にはやっぱり超大作の戦国映画をおすすめしたい。今回は1990年に公開された角川映画『天と地と』。原作は海音寺潮五郎の歴史小説で、1969年にNHKの大河ドラマにもなっている。

天と地と(一) (角川文庫)

本作は製作費50億円の超大作で、プロデューサーの角川春樹が監督も務めている。巨額の製作費を投入して、クライマックスの川中島の合戦シーンは合成など一切使わず、カナダのカルガリーで何万人ものエキストラが参加し、縦横無尽に迫力のある大規模ロケを行っている。

物語は上杉謙信を中心に、ライバルの武田信玄との何年にも及ぶ戦いを描いているのだが、上杉軍を黒一色、武田軍を赤一色に統一。キャッチコピーでも「赤と黒のエクスタシー」とうたっている。

天と地と

当初は主役の上杉謙信役に、1987年の大河ドラマ「独眼竜政宗」でブレイクし、当時もっとも期待される若手俳優だった渡辺謙さんを抜擢したが、撮影序盤で病気により降板。急遽オーデションで、まだ無名の榎木孝明さんが代役につき、一躍スターダムにのし上がった。脇を固める俳優陣も、謙信のライバル武田信玄には津川雅彦さん、上杉家の軍師・宇佐美定行には渡瀬恒彦さん、武田家の軍師・山本勘介には夏八木勲さんと、豪華俳優陣が並ぶ。

他にも川中島の戦いを描いた作品はいくつもあるが、武田信玄側から描いた作品が多く、上杉謙信側から描かれているのが本作の特徴の一つである。そして大きな見どころの一つとして、日本の四季折々の絶景がスクリーンを彩る。映画の前半には、これでもかというぐらい見事な桜の景色が広がり、その次に山道の中、深々と降り積もる雪景色。夏の鹿狩りのシーンでは、霞をバックに壮大な山と入道雲。そして後半の真っ赤に染まった紅葉の中、馬を走らせる上杉謙信と、それぞれの季節が背景に広がっている。この四季折々の景色には日本人なら誰もが心が癒されるだろう。

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「毘」「龍」「百足」上杉家と武田家がそれぞれ掲げた旗の意味とは?

そんな本作の中でも、上杉軍側は「毘」の文字の旗を掲げて戦に挑んでいるのだが、この文字はなんなのか? 普通は自身の家紋の旗印を背中に掲げる。武田家は本陣に「風林火山」の旗を掲げながらも、武田菱の家紋を旗印に掲げている。実はこの「毘」の文字は、戦の神「毘沙門天」の頭文字なのだ。上杉謙信はあまりにも戦に強く、自らが毘沙門天の生まれ変わり、化身だと言い始める。そこで「我は戦の神の化身なり!」の意味も含め、「毘」の文字を掲げて戦に挑んでいるのだ。

そして上杉謙信は、もう一つ旗を掲げている。映画の中でもラストシーンで上杉謙信本隊が、武田信玄の本陣を目掛けて突き進む場面で掲げている旗。それは草書体で書かれた「龍」の文字。この旗は“全軍総攻め”の合図で掲げられる旗なのだ。この旗が掲げられ総がかりとなるシーンは、戦国馬鹿でなくても興奮すること間違いなしである。

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他にも武田側のシーンで、伝令部隊の甲冑武者がムカデの旗を背中に掲げている。この部隊のことを「百足衆(むかでしゅう)」と呼ぶのだが、なぜムカデなのか? 決してフォルムがいかつく、カッコイイからではない。つまりムカデは“絶対に後退しない”のだ。それで戦国時代では縁起のいい虫とされていた。さらにムカデは毘沙門天の使いとも言われており、それにあやかってもいる。なかにはムカデを型どった物を兜の前立てに用いたりする武将もいた。いまでは忌み嫌われるムカデだが、時代が違えば評価も変わるというのが面白い。

最後に、現代でも戦況が有利なのか不利なのかを判断する時に「旗色を見る」とか「旗色をうかがう」と言うが、戦況が良くない時に「旗色が悪い」と表現するのは、戦国時代の背中の旗指物を見て表現した言葉が語源なのだ。そんな背中の旗指物に注意しながら、戦国映画で年越しをしてみてはいかがだろう。

文:桐畑トール(ほたるゲンジ)

『天と地と』はAmazon Prime Videoほか配信中

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『天と地と』

永禄四年夏、霧晴れる朝。信玄の前に惣然と一万三千の騎馬兵が現れた。率いる上杉謙信は右手に軍配、左手に数珠。「車懸りの陣」で一点突破をはかる上杉軍に迎え討つ二万の武田軍は「鶴翼の陣」。知略と武勇の限りを尽くした戦国最大の死闘・川中島の戦いが切って落とされた。

制作年: 1990
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