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『のぼうの城』の“あのショボい汚城”は確かな時代考証の賜物! 城攻めの難しさをリアルに描いた時代劇

『のぼうの城』の“あのショボい汚城”は確かな時代考証の賜物! 城攻めの難しさをリアルに描いた時代劇
『のぼうの城』©2011「のぼうの城」フィルムパートナーズ

あまりのリアルさに公開延期! 大スケール時代劇『のぼうの城』

9月に入ってもまだまだ、残暑厳しい日が続いている。昔から「暑さ寒さも御彼岸まで」と言われてはいるが、ちょっと暑すぎやしないか? もしかして日本列島は赤道の付近まで移動してるのか? と疑いたくなるほど日差しが厳しい。

そんな9月、戦国バカにとって9月と言えば、もちろん1600年9月15日の関ヶ原の戦いだろう。しかーし!! 前々回の7月に映画『関ヶ原』(2017年)を書いてしまっている! 痛恨のミス! 2ヶ月も前に書いてしまうとは……。

ミスを悔やんでもいられない。そこで今回は、当初2011年9月17日公開予定だった映画『のぼうの城』について書くことに。この作品は和田竜先生の小説が原作で、TBS開局60周年記念作品だけあって、かなりお金のかかった、スケールのでかい作品に仕上がっている。ただ“公開予定だった”と書いたのは、この作品の中で、城を水攻めにするシーンがあるのだが、あまりにもリアルで、この年に起きた東日本大震災の津波を連想させることへの配慮から、公開が約1年延期されのだ。

『のぼうの城』
価格:Blu-ray 2,500円/DVD 2,000円+税
発売元:アスミック・エース
販売元:ハピネット
©2011「のぼうの城」フィルムパートナーズ

野村萬斎、佐藤浩市、上地雄輔……錚々たる豪華キャストのハマり具合が見事!!

『のぼうの城』のストーリーは戦国時代、小田原北条家の支城の一つで、現在の埼玉県行田市にある忍城(おしじょう)で繰り広げられた攻城戦の実話をもとにした物語。忍城の城代、成田長親は何をやっても鈍臭い、領民からは「でくのぼう」とバカにされている。だが何故か民百姓からは「のぼう様」の愛称で好かれていた。

『のぼうの城』©2011「のぼうの城」フィルムパートナーズ

そんな折、天下泰平の総仕上げで、豊臣秀吉の大軍勢が小田原の北条を攻めはじめた。そして秀吉の家臣・石田三成は秀吉から2万の大軍を預けられ、忍城を取り囲む。対する忍城には3千人の籠城兵しかおらず、そのほとんどが百姓。さあ~、でくのぼう成田長親はどうするのか!? と、まぁ簡単に言えばこんな話なのだが、この「のぼう様」こと成田長親を野村萬斎さんが見事に演じている。百姓の田植えや麦踏みなどを、のぼう様自ら進んで手伝おうとする。しかし、それがかえって邪魔になってしまうのだが、そこに愛嬌があり、みんなから愛される人物になっている。さらに映画の後半、湖面に浮かべた小船の上で踊る“田楽踊り”はお見事!! と言うしかない。あのシーンを完璧にこなせるのは正直、野村萬斎さんをおいて他にはいないと思う。

『のぼうの城』©2011「のぼうの城」フィルムパートナーズ

さらに欠かせないのが脇を固めている、佐藤浩市さん演じる成田家の家老、正木丹波守利英。総髪で甲冑は真っ黒。甲の前立てにはドクロ。漆黒の具足を身にまとい、手には武功第一の者しか持てない皆朱の槍! もう戦国バカには堪らない出で立ち! 敵方の騎馬武者との一騎討ちは圧巻で鳥肌モノだ。他にも、上地雄輔さん演じる石田三成もなかなかいい。秀吉に見出され、なんとか武功を上げようとする若い三成が上地さんにぴったりハマる。

『のぼうの城』©2011「のぼうの城」フィルムパートナーズ

しかし、わたくし戦国バカが一番目を見張るのが、やっぱり戦闘シーン! 忍城に立て籠もっている百姓たちの鬼気迫る表情での接近戦は、かなり残酷なのだが、そこにリアリティがあり、さらに臨場感も増す。

『のぼうの城』©2011「のぼうの城」フィルムパートナーズ

この映画の中で忍城側が様々な奇策を用いるのだが、その中でも騎馬隊が鉄砲隊を後ろに乗せ、馬に2ケツの状態で前線に飛び出し、前の騎馬武者が伏せると後ろにまたがった鉄砲兵が射撃するというシーンは、戦国映画ではあまり見られない演出だ。他にも、成宮寛貴さん演じる酒巻靭負が弓矢に火を付ける場面で、矢の先をアメリカンマッチのごとく櫓(やぐら)の柱で擦って着火するシーンや、石田三成率いる豊臣方が大型の反動を使った投石器具で、チンチンに焼いた石を投げてくるのも面白い。戦国時代、野戦と違って城攻めは難しいと言われていたのだが、それがこの映画ではよくわかる。

『のぼうの城』©2011「のぼうの城」フィルムパートナーズ

みすぼらしい“土の城”こそリアル! 戦国時代の“城トリビア”満載の描写にも注目

ただ“忍城の城攻め”とあるが、あれがお城なの? と映画を観て思った方もいると思う。ちなみに忍城は、周りを田んぼに囲まれた低地にある“浮き城”と呼ばれていたのだが、いわゆる水堀があって、石垣に天守閣など誰もが一眼でお城とわかるような雰囲気は微塵もない。板塀に櫓があって、せいぜい本丸に平屋の館があるだけの、お城というか砦レベルのような城。しかし戦国時代の城とは、ほとんどがこのような城なのだ。

『のぼうの城』©2011「のぼうの城」フィルムパートナーズ

お城は大きく分けて、平城と山城の二つに分類される。映画の中の忍城は平城で、しかも低地。そのため水攻めされる羽目になるのだが、平城は攻められやすい。そこで戦国中期、騎馬武者や歩兵の足軽に簡単には攻め入られないよう、山城へと移行していく。山の尾根に連結式の曲輪(くるわ)をつなげた山城が次々とでき始めるのだ。山の上なのだから当然、水堀などはなく、土を掘っただけの空堀になる。

『のぼうの城』©2011「のぼうの城」フィルムパートナーズ

掘った土が積み上げられ、かなりの高さの土塁ができる。その土塁の上に板塀が建てられ、お城の城壁となっていく。曲輪の中にはせいぜい2~3階建の櫓が組まれる。一番奥の曲輪には、城主や家臣の館が建てられる。平城と山城の違いはあるものの、 これが戦国時代のベタな土で出来たお城の姿なのだ。

『のぼうの城』©2011「のぼうの城」フィルムパートナーズ

石垣や水堀、さらに高い天守閣のあるようなお城は、諸説あるが、あの織田信長が権力の象徴で立て始めたのが最初で、特に石垣は近江(滋賀県)出身の穴太衆(あのうしゅう)の職人しか組めなかったと言われている。なので、いくつか例外を除いて戦国時代、関東のお城のほとんどは石垣など存在しない、いわゆる土の城なのである。

『のぼうの城』©2011「のぼうの城」フィルムパートナーズ

ちなみに城という字は、土へんに成ると書く。元来お城とは土で作る物なのだ。そのお城が時代を経て変化していき、空堀よりも攻めにくい水堀に、土塁よりも強固な石垣に、櫓よりもさらに遠くを見渡せて、その土地の領民がより城主様と崇めやすい天守閣へと変わっていったのだ。

『のぼうの城』©2011「のぼうの城」フィルムパートナーズ

実はわたくし、第1回目のコラムでも触れたが、この“土のお城”が大好きなのだ。権力の象徴で建てた立派な天守閣のお城よりも、土のお城の方が魅力的で、城跡めぐりの時も、土塁や空堀を見ては興奮しているのである。この知識を入れてしまうと、戦国時代の映画やドラマを観ても、この時代のこの場所に、あんな天守閣のお城なんかないのになぁ~と気分が萎えてしまうこともしばしば。そんなわけで、本作の忍城は一見ショボくて汚い砦のようなお城だが、とてもリアルに再現されているということを述べておこう。

『のぼうの城』©2011「のぼうの城」フィルムパートナーズ

最後にもう一つ。エンディングで流れるエレファントカシマシの「ズレてる方がいい」という楽曲がたまらない! 映画を見終わった気分というよりも、イクサが終わった~という気分にさせてくれる名曲なのだ。わたしは何度観てもこの曲が流れると、ひそかに目頭が熱くなるのだった……。

文:桐畑トール(ほたるゲンジ)

『のぼうの城』はAmazon Prime Videoほか配信中

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『のぼうの城』

「この城、敵に回したが間違いか」

天下統一目前の秀吉が唯一、落とせない城があった。

天下統一目前の豊臣秀吉に唯一残された敵、北条勢。周囲を湖で囲まれた「浮き城」の異名をもつ「忍城(おしじょう)」もその一つ。そんな中、忍城ではその不思議な人柄から農民たちから“のぼう様(でくのぼうの意)”と呼ばれる、成田長親(なりた ながちか)が城を治めることに。長親に密かに想いを寄せる甲斐姫(かいひめ)。戦に強く「漆黒の魔人」と恐れられる丹波。丹波をライバル視する豪傑・豪腕の和泉(いずみ)。“軍略の天才”を自称する若侍、靱負(ゆきえ)。

迫りくる天下軍に緊迫する仲間たちを前に、「北条にも、豊臣にもつかず、皆で今までと同じように暮らせないかなあ」と呑気な長親だが……。

武将として名を挙げる事に闘志を燃やす石田三成は、秀吉より預かった2万の兵を進め、忍城に迫る。やむなく降伏することを覚悟する忍城軍。しかし三成軍のなめきった態度に、長親が思いもよらない言葉を発する。

「戦いまする」

そして、誰の目にも絶対不利な、たった500人の軍勢対2万の大軍の戦いの火ぶたが切って落とされた。

制作年: 2011
監督:
出演: