“パンク後のイギリス”を描く『アウェイデイズ』は音楽好き必見! 70~80年代初期の空気感を忠実に再現したリアルな青春映画

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ライター:久保憲司
“パンク後のイギリス”を描く『アウェイデイズ』は音楽好き必見! 70~80年代初期の空気感を忠実に再現したリアルな青春映画
『アウェイデイズ』© Copyright RED UNION FILMS 2008

11年を経て日本公開! ニュー・ウェイヴがリアルに鳴り響く青春映画

『アウェイデイズ』は不思議な映画です。BLのようで、政治的で、ファッショナブル。唯一の弱点があるとしたら「これだ!」という決め手がないところなんですけど、何か惹きつけられる魅力を持っています。

『アウェイデイズ』© Copyright RED UNION FILMS 2008

まだイギリスに存在するのかどうかわからないですけど、“カジュアルズ(Football Casual)”誕生の経緯を描いた映画と言われてはいるものの、あんまりそこは重要じゃないような気がします。現在はポスト・パンクと呼ばれる、ニュー・ウェイヴの音楽がリアルに鳴り響く映画。こんなこと歌ってたのか、めっちゃこのシーンと合ってる! と感動しながら観ました。

『アウェイデイズ』© Copyright RED UNION FILMS 2008

昔、ニュー・ウェイヴの音楽を起用した映画の代表作と言えばジョン・ヒューズ製作、脚本の名作『プリティ・イン・ピンク/恋人たちの街角』(1986年)がありました。パンク~ニュー・ウェイヴがアメリカで大ゴケするなか、「いや、そんなことないんだよ。アメリカのレコード会社やメディアがバカなだけなんだ。アメリカだっていつまでもヘヴィなロックで“イエー”とやってるわけじゃなくて、イギリスと同じようにネクラでオシャレな若者たちがたくさんいるんだよ」ということを証明し、後のカレッジ・チャートとかMTVとかグランジにつながっていった映画でした。

それが表の顔で、裏の顔と言えばロスのハードコア・シーンのリアルさを描いたロジャー・コーマン製作、後に『ウェインズ・ワールド』(1992年)を撮るペネロープ・スフィーリスの『反逆のパンク・ロック』(1983年)があったりしたわけです。

音楽好き必見! エコバニ、ジョイディヴィ、ラスカルズ、ウルトラヴォックスを大フィーチャー

こうした音楽映画と比べると最近は時代考証もしっかりしていて、タイムトラベルしたかのように、当時は体験できなかった空気感を感じさせてくれる音楽映画が多い。その代表選手が『24アワー・パーティ・ピープル』(2002年)や『コントロール』(2007年)だったわけです。これらの成功によって、脚色するよりも当時をリアルに再現する方が面白い、ということになったのだと思います。

その一番の成功例が『ボヘミアン・ラプソディ』(2018年)なんでしょう。自分は音楽業界の人間ですが、音楽業界がどれだけ気が狂っていたのかよく分かる逸話の数々に、よく死なずにここまで生きてこられたなと思います。自分はビビりなので、いつも周りを身回しながら、1番はヤバいよね、2番手、3番手の感じで奥にひっこんでいよう、と思っていたわけです。カメラマンだったので当たり前ですよね。冷静に観て、写真に収めるというのが仕事だったわけですから。

『アウェイデイズ』© Copyright RED UNION FILMS 2008

でも、僕が仕事をする前の頃、一番音楽に狂っていた頃を忠実に再現してくれているのがこの『アウェイデイズ』なんです。

しかも、僕が大好きなエコー&ザ・バニーメン(通称:エコバニ)を大フィーチャーしてくれているのが、信じられないくらい嬉しいです。もちろんジョイ・ディヴィジョンも使われているんですけど、まさかエコバニをここまでフィーチャーしてくれる映画が誕生するとは思ってもみませんでした。しかも、マイルズ・ケイン率いるザ・ラスカルズにエコバニをやらせるという変化球まで使って、またこのカヴァーがいいんです。

で、ウルトラヴォックスですよ、あのファッキン・ミッジ・ユーロ(すみません、この映画の影響で言葉が汚くなってしまいました)がいた頃じゃなく、ジョン・フォックスがいた頃の彼らを大フィーチャーしているんです。しかも主人公がジョン・フォックスそっくりのイケメン! 日本のアンダーグラウンドの雑誌(今だとZINEと言いますね)で、ジョン・フォックスのヤオイ漫画が描かれていたんですけど、その世界が40年近く経って再現されるとは思ってもみませんでした。

俺たちの原点はここなんだ! 日本のヤンキーとは異なるイギリスの労働者階級文化

思わず興奮してしまいましたが、パンク、ニュー・ウェイヴ、ポスト・パンク、シューゲイザー、マッドチェスターなどなどを気にしている人たちには、絶対に観てもらいたい映画です。俺たちの原点はここなんだと。

『アウェイデイズ』© Copyright RED UNION FILMS 2008

主人公二人が、実は労働者階級と中産階級なんです。ボーイズ・ラブでありながら、階級の違う禁じられた恋というニュアンスも感じとってください。

『アウェイデイズ』© Copyright RED UNION FILMS 2008

のちにカジュアルズになるような労働者階級の人間が、ウルトラヴォックスみたいな高尚な音楽を聴くのか、みたいなことを思っている人も多いかと思うのですが、カジュアルズのような最低の人間代表、ハッピー・マンデーズのショーン・ライダーがカンなどのクラウト・ロックなんかを「飛んだ時に気持ちがいいから」と聴いていたりしたことからも分かるように、これが日本のヤンキー文化とは違ったイギリスの労働者階級の面白いところなんです。

当時のパンクの後の空気感がどんな感じだったか触れたい人には最適な映画です。

『アウェイデイズ』© Copyright RED UNION FILMS 2008

文:久保憲司

『アウェイデイズ』は2020年10月16日(金)より新宿シネマカリテほかにて公開

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『アウェイデイズ』

母親を1年前に亡くした19歳のカーティは下級公務員として働きながら、郊外の中産階級の家庭で悲しみにくれる父、そして血気盛んな妹モリーと暮らしていた。収入のすべてはクラブ遊び、レコード、サッカー、ライブに費やしている。

そんなある日、Echo & The Bunnymenのライブでカーティはエルヴィスに出会う。エルヴィスはカーティが魅了されていた悪名高いギャング集団“パック”の一員だった。彼らはピーターストームにフレッドペリー、ロイスのジーンズ、そしてアディダスのスニーカーを履いてスタジアムで常に問題を起こしていた。エルヴィスはカーティに“パック”と付き合うことが危険であることを警告した。

それよりもエルヴィスはカーティの様に芸術、音楽、詩、そして死について語り合える友人をずっと待っていた。そして、いつしかエルヴィスはカーティに夢中になっていく。しかし、カーティの“パック”への憧れはエスカレートして行き、エルヴィスの警告にもかかわらず、危険な世界の扉を徐々に開いていくのだった。

ある日の遠征(=Awayday)でカーティは成果を得るが、“パック”のボス、ゴッドンに認められることはなかった。自分よりも、謎に包まれた存在のエルヴィスが尊敬を集めていることに苛立つカーティ、自分の想いが届かないことに苦悩するエルヴィス。次第に綻びは大きな傷になっていくのだった……。

制作年: 2009
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