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笑いと皮肉の「インドあるある」満載! 極上ボリウッド・コメディ『ルートケース』は政策批判も巧みに盛り込む

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ライター:#松岡環
笑いと皮肉の「インドあるある」満載! 極上ボリウッド・コメディ『ルートケース』は政策批判も巧みに盛り込む
『ルートケース』
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平凡な主人公を取り巻く個性豊かなワルたち

この後、ワルどもが次々に登場してくるのだが、その顔ぶれをご紹介しておこう。まずは、議員のパティル(ガジュラージ・ラーオ)で、ある大臣の子分であるこの議員が諸悪の根源、合計1億ルピー(約1億8千万円)の賄賂入りスーツケースを用意した犯人だ。

パティルには、汚れ仕事をやらせる配下が何人かおり、今回スーツケース運搬を任されながらドジを踏んでしまったのが、オマールとその義弟アブドゥルの2人。オマールは組織の親分なのだが、いまひとつ頭がよくない男なのだ。一方、同じくパティルに使われているのが、別組織の親分であるバラ・ラトール(ヴィジャイ・ラーズ)で、担当させた2人の部下をうまく使う、なかなかの切れ者である。

さらにもう1人、現職警官でありながらパティルの意を受けて動くのが刑事コルテ(ランヴィール・ショーリー)で、彼も裏仕事用の手下を1人抱えている。この8人が、直接、間接にナンダンとからみながら、ストーリーを展開させていくことになる。

笑いと皮肉が込められた「インドあるある」解説

事件がどんな風に転がっていくのかはご覧になってのお楽しみだが、緻密にプロットが組み立てられ、脚本賞ノミネートが納得できる面白さだ。またその合間に、「インドあるある」&「インド人あるある」ネタやギャグが挟まれていて、見ている方は吹き出したり、ニヤリとしたり。

バラ親分は『ナショナル ジオグラフィック』オタク

『ナショジオ』ネタはインド人なら大笑いすることだろう。『ナショナル ジオグラフィック』は100年以上の歴史を持つ自然や地理を扱う写真雑誌で、日本版も出版されている。またテレビチャンネルも持っていて、インドでは1990年代半ばの衛星放送導入後にチャンネルに加わり、結構人気なのだ。

そんな『ナショジオ』オタクのバラ親分は、動物の世界は人間世界に通じると手下に説教をたれながら、しつこくチャンネル加入を勧めるのである。ラスト近くの見せ場にも『ナショジオ』ネタが生かされているので、お見逃しなきように。

インド騒然の「高額紙幣 廃止」事件

また、大金の詰まったスーツケースは紙幣が2,000ルピーであることから、多くの人が2016年11月16日にモディ首相によって宣言された“高額紙幣2種の突然廃止”事件を思い出したことだろう。この時は1,000ルピー札と500ルピー札が廃止されて即刻使えなくなり、新500ルピー札と共に2,000ルピー札の発行が通知されたのだが、旧紙幣の預け入れや交換ができるのは12月30日までとされ、1回の交換額も制限されたため、手元に現金を持っていた人たちは大パニックに陥ったのだった。

政府は「地下経済」の資金浄化や偽造紙幣撲滅が目的だと言っていたが、この施策実施により本当に浄化されたかどうかは大いに疑わしい。『ルートケース』はこの時発行された2,000ルピー札を登場させることで、政府の施策を皮肉ってもいるのだ。

その2,000ルピー札も、2023年5月19日に流通停止が発表され、紙幣としてはまだ使えるものの、以後新札は発行されないことになった。今回は、電子マネーの普及で現金依存度が低くなり、高額紙幣の必要性が低くなったことによる判断だが、すると最高額紙幣は500ルピーとなり、1億ルピーはスーツケース1個にはとても収まらない。本作『ルートケース』が最後の現ナマ賄賂映画になるかも、とか考えながらご覧になるのも、また一興である。

文:松岡環

『ルートケース』はCS映画専門チャンネル ムービープラス「ハマる! インド映画」で2023年8月放送

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『ルートケース』

妻子と暮らすナンダンは、勤務先の印刷所からの帰り、大金が入ったスーツケースを拾う。その金は、大物政治家への裏金で、大臣の汚職に関する資料も入っていたが、運び屋が敵対勢力の襲撃を受け、警察も来たため放置されていたのだった。金を探すギャングと警察、争奪戦は予想外の展開となり……。

監督:ラージェーシュ・クリシャン
出演:クナール・ケームー ラスィカー・ドゥッガル ヴィジャイ・ラーズ

制作年: 2020