Netflix『誰も眠らない森』1&2は80年代“郷愁”スラッシャー!?「ホラー映画の典型をトコトン皮肉った」

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Netflix『誰も眠らない森』1&2は80年代“郷愁”スラッシャー!?「ホラー映画の典型をトコトン皮肉った」
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ホラー不毛の地、東欧で見事に息を吹き返したスラッシャー映画

若者たちに襲いかかる奇形の化け物。首が飛び、四肢が切断され、腹から臓物が引き出される……こんなピュアなスラッシャーホラーは久しぶりだ。しかも、ほぼCGを使わず、プラクティカル(ダミーや特殊メイク)でゴア描写を表現しているではないか! 素晴らしいポーランド産ホラー映画である。え、ポーランド!? まさか!!

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ポーランド映画はクセが強い。信仰心とキリスト教を真っ向から潰しにかかった『聖なる犯罪者』(2019年)や、人魚と人間の間の情念を鮮烈に描いた『ゆれる人魚』(2015年)が記憶に新しいところだ。しかし、残念なことにポーランドには殺人鬼が暴れまわるようなホラー映画はメジャーでは存在しない。インディーズレベルでは強烈な作品はいくらでもあるのだが、それはあくまでアンダーグラウンドの話。表向きにはほぼ皆無だ。

なぜならヨーロッパ、特に東欧ではホラー映画は“低俗な芸術”であると見なされ、作る方も見る方も常にどこか後ろめたさがあるからだ。だから、先に挙げた『ゆれる人魚』や『Demon』(原題:2015年/日本未公開)のようなホラー的な試みを持つ映画があっても、残酷表現が詰まった純粋なホラー映画はなかなか日の目を浴びないのである。

そんな中、『誰も眠らない森』とその続編『誰も眠らない森 Part2』は、ポーランド初といえるピュアなスラッシャーホラーである。しかも80年代への郷愁と新鮮さを兼ねそなえた野心的な作品だ。

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海や山のキャンプ地で若者が殺人鬼に襲われる――。スラッシャー映画全盛期の80年代はそれだけで良かった。しかし、現代のホラー映画には携帯電話という邪魔物が立ちはだかる。山奥であろうと海のド真ん中であろうとネットが使え、すぐ助けを呼べる厄介な代物だ。その対策として最近のホラー映画は、不自然極まりない理由で携帯電話を取り上げてしまう。この要素が非常に邪魔くさい。だから異国で囚われの身となり拷問を受けるだの、特殊な部屋に閉じ込めるだのというシチュエーションの拷問映画が流行したのだ。

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拷問映画が下火になると、80年代を舞台にした所謂リファレンス映画が流行した。『ファイナル・ガールズ 惨劇のシナリオ』(2015年)や『フィアーストリート』3部作(2021年)といった、テクノロジーとは無縁な時代を舞台にしたスラッシャー映画だ。しかし、もはやこの手の映画もやり尽くされた感があり、もうネタがないように思えた。スラッシャー映画はもう死に体だな……と思っていたところに登場したのが『誰も眠らない森』2連作である。

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ホラー映画の典型性を利用した細やかな設定が光る『誰も眠らない森』2連作

『誰も眠らない森』のストーリーは、若者が次々と殺人鬼に殺されていくだけ。80年代のスラッシャー映画そのままだ。しかし、様々な工夫が凝らしてある。“オフラインキャンプ”と称するネット依存症克服キャンプを舞台にして、登場人物全員から外界との連絡手段を奪ったのだ。なるほど、これなら不自然さはない。

加えて、ネットを取り上げるだけでは芸がないと言わんばかりに、携帯電話を巡って謎の殺人鬼の潜む家に潜入しなければならなくなる等、物語の味付けに一役買っている。

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哀れな犠牲者陣は、暗い目をした主人公の女の子、おつむの弱そうなブロンド女、ホラー映画オタクの太っちょにマッチョ男に嫌み男と、スラッシャー映画の典型。しかし、ブロンド女性が実は繊細な心を持っていたり、嫌み男がゲイであったり、太っちょが勇気ある男であったりと“典型的であること”を利用して、ルッキズム批判へとつなげているのも面白い。なかでもゲイの件は、ゲイフォビアやポーランドにおけるLGBTQ+理解度の低さへの批判とも思え、なかなか一筋縄ではいかない設定となっている。

続く『誰も眠らない森 Part2』は、1作目の直後からスタートする。しかし、意外なことに今度は殺人鬼側へ視点はシフト。どのようにシフトしていくのかは見てのお楽しみとして、なぜ殺人鬼は人を殺さなければならないのか? そして、その究極的な目的とは何か? をキッチリと説明している。

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さらには警察批判、人間関係の欺瞞への言及へと発展していく。いわばロブ・ソンビ監督の『マーダー・ライド・ショー』(2003年)と、その続編『デビルズ・リジェクト ~マーダー・ライド・ショー2~』(2005年)のような関係にある。

「ホラー映画の典型(クリシェ)をトコトン皮肉ってみたんだ! 笑って観てくれたら嬉しいよ」

監督のバルトシュ・M・コヴァルスキはこう言っている。しかし、私が察するに、彼はかなり毒気のある人間だ。先のLGBTQ+問題だけでなく『誰も眠らない森』の殺人鬼誕生のキーポイントとして扱われる隕石は、ポーランド人なら知らぬ人はいないであろう「スモンレスク航空事故」が元ネタであるし、1、2通して登場し重要な役割を担うネオナチ兄弟は、これまたポーランドではおなじみのヒトラーの誕生日を祝うネオナチ集団を揶揄していると思われる。彼はポーランドへの社会批判をさりげなく作品に織り交ぜているのだ。

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あわやアンダーグラウンドに沈みかけていた本作を世界配信へとつなげたNetflixは、今回素晴らしい仕事をしたといえよう。ついでにコヴァルスキの長編一作目、親の介護にストレスをためた男子中学生の奇行が児童殺人へと発展していく絶望的な物語『Playground』(原題:2016年/日本未公開)も配信してくれないだろうか……。

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文:氏家譲寿(ナマニク)

『誰も眠らない森』『誰も眠らない森 Part2』はNetflixで独占配信中

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『誰も眠らない森』

ネットなしでは生きていけない少年少女が送られたのは、深い森の中で行われる依存対策キャンプ。だがそれは、命すら脅かす恐ろしい悪夢の始まりだった。

制作年: 2020
監督:
出演:

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