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かわいい絵柄でアニメ史上屈指の過酷さ! ダーク・チルドレン・ファンタジー 劇場版『メイドインアビス 深き魂の黎明』

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ライター:#増田弘道
かわいい絵柄でアニメ史上屈指の過酷さ! ダーク・チルドレン・ファンタジー 劇場版『メイドインアビス 深き魂の黎明』
『メイドインアビス 深き魂の黎明』©つくしあきひと・竹書房/メイドインアビス「深き魂の黎明」製作委員会

ジュブナイルものかと思いきや……

2017年にスタートした『メイドインアビス』のオープニングを見た瞬間、このアニメは単なるジュブナイルものとは違うと直感した。その作り込まれた濃密な画面は、制作スタッフの意気込みを感じさせるのに十分なものがあったからだ。しっかりと構築された世界観、オリジナル性に満ちあふれた壮大なファンタジーという点も気に入った。

12歳のリコを中心として「アビス」の中心へと向かうストーリーは、ジューヌ・ヴェルヌの「地底旅行」のようなジュブナイル・アドベンチャーが展開されるのではないか? と見はじめたのだが……。

人類に遺された最後の秘境

隅々まで探索されつくした世界にあって、約1900年前に南ベオルスカの孤島で「アビス」と呼ばれる直径1000メートルの巨大な縦穴が発見された。その穴は広大にして深淵であり、どこまで続いているのか確かめたものはいない。そんな最後の秘境を目指す探窟家(たんくつか)が後を絶たないが、そんな輩が数多く住むアビスの縁に築かれた街、オースの孤児院で暮らす少女・リコは伝説の探窟家であった母ライザを目指し修行中である。そのライザは10年前に、帰還が不可能になると言われているアビスの深界六層にある「絶界(ラストダイブ)」に向かったまま消息を絶っている。

ある日、アビスへ探索に行っていた探窟家達はライザが遺した「白笛」と封書を持ち帰る。白笛は探窟家として最高の習熟度を持っているという証であり、封書に書かれていたのは「アビスの底で待つ」というメッセージだった。リコの決心は固まった。アビスの中で機能停止している所をリコに拾われたロボットのレグと一緒に、母がいるはずの世界を目指し出発したのである。

史上もっとも過酷な「児童文学」?

リコとレグの無垢で明るい二人のキャラクターからして、そこで繰り広げられるのは「地底旅行」のようにワクワクするような冒険に満ちあふれた旅と推測していたら(監督が『あずきちゃん』[1995~1998年]や『花田少年史』[2002~2003年]の小島正幸ということもあって)、ワクワクというよりはドキドキものの展開であった。そもそも、子どもにこれほどの過酷な試練を与える作品はかつて見たことがない。

強いていえば、アニメではないがウィリアム・ゴールディング原作の『蠅の王』(1963年と1990年に映画化)であろうか。無人島に置き去りにされた少年たちが仲間割れを起こし、次第に敵愾心を高め遂に互いを殺し合うようなる話だ。あどけない少年が悪魔に変身していく過程が描かれている衝撃作であるが、『メイドインアビス』のリコとレグに襲いかかる残酷なまでの試練は『蠅の王』に決して劣るものではない。そして、その描写が最もエスカレートしたのが劇場版『メイドインアビス 深き魂の黎明』(2020年)であった。

『メイドインアビス 深き魂の黎明』©つくしあきひと・竹書房/メイドインアビス「深き魂の黎明」製作委員会

R15+指定のインパクト

テレビシリーズを見た時に、ジュブナイル・アドベンチャーとしての期待があったが、エピソードが進むにつれて決して子どもが見る作品ではなく、むしろPG(ペアレンタル・ガイダンス)指定が必要ではと思っていたら、映画版『深き魂の黎明』が本当にR15+に指定されてしまったのである。

『メイドインアビス 深き魂の黎明』©つくしあきひと・竹書房/メイドインアビス「深き魂の黎明」製作委員会

もともとアニメは子ども向けのものであり、「R指定/Restricted(制限された)」という概念が希薄であったが、日本では世界に先んじてオトナアニメという領域が確立されたため、R15指定になった作品が幾つか存在する。そのはじまりは今敏監督のサイコホラー『PERFECT BLUE パーフェクト ブルー』(1998年)からだとされるが(実際にはアダルト向けOVA作品である『超神伝説うろつき童子』[1989年]の劇場版がR15指定になった例はあるものの)、『アフロサムライ』(2006年)、『ベルセルク 黄金時代篇III 降臨』(2012年)、『虐殺器官』(2017年)、『劇場版 PSYCHO-PASS』(2014年)なども、そのバイオレンス度の高さなどから指定を受けている。

これらの作品が指定を受けるのは内容的にもある程度理解できるが、子どもが主人公である『メイドインアビス 深き魂の黎明』がR15+指定を受けたのは、製作者サイドも大きなインパクトを受けたのではないか。

『メイドインアビス 深き魂の黎明』©つくしあきひと・竹書房/メイドインアビス「深き魂の黎明」製作委員会

『メイドインアビス 深き魂の黎明』に対する評価

この映画の舞台は、アビスの第4層にある不屈の花園から第5層にある“黎明卿”ボンドルドの前線基地である。アビス研究の第一人者であり、天才的な科学者であるボンドルドは多大な功績を誇る正真正銘の偉人であるが、反面、人間の常識が及ばないマッドサイエンティストでもある。

『メイドインアビス 深き魂の黎明』©つくしあきひと・竹書房/メイドインアビス「深き魂の黎明」製作委員会

手段を選ばないボンドルドからの冷酷で容赦のない仕打ちが、次々とレグに降りかかる。またボンドルドによって、その姿を変えられたナナチとそれに関わるおぞましいとしか言い様がない「カートリッジ」のシーンなどが、おそらくR15+指定の対象になったと思われるのだが、逆に言えば、その過酷な試練を乗り越えてひたすら前に進もうとする無心の子どもたちに観客は共感を覚えた。それもあって2021年に公開された日本の劇場アニメ興行収入では11位となる6億5千万円を記録している(ジブリの旧作映画を除くと9位)。これは深夜アニメ系の劇場版の興行収入としてはトップクラスであり、根強いファンの存在を感じさせた。

アニメ史上に残る特異な作品として

リコとレグ、そしてナナチの旅はまだ続く。2021年5月には、次回作『メイドインアビス 烈日の黄金郷』の告知がなされた。詳細なオンエアー時期は決まっていないが、2022年になるという。いよいよ深界六層(還らずの都)への挑戦がはじまるのだ。この層まで降下することは、人間として生きて戻ることが事実上不可能となることから、「絶界行(ラストダイブ)」と呼ばれている。

『メイドインアビス 深き魂の黎明』©つくしあきひと・竹書房/メイドインアビス「深き魂の黎明」製作委員会

リコは果たして母親のライザと出会えるのか。そもそもライザは生きているのか。史上最も過酷な旅に果たして終わりはあるのか。予測も付かない運命が待ち受けている彼らから目を離すことは出来ない。いずれにせよ、アニメの規範を大きく乗り越えてしまった『メイドインアビス』は、世界でも希な作品として永く記憶に留められることになるのは間違いないであろう。

文:増田弘道

『メイドインアビス』はBlu-ray&DVD BOX上下巻発売中、Huluほか配信中
劇場版『メイドインアビス 深き魂の黎明』はBlu-ray&DVD発売中、Amazon Prime Videoほか配信中
『メイドインアビス 烈日の黄金郷』は2022年より放送開始

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劇場版『メイドインアビス 深き魂の黎明』

隅々まで探索されつくした世界に、唯一残された秘境の大穴「アビス」。どこまで続くとも知れない深く巨大なその縦穴には、奇妙奇怪な生物たちが生息し、今の人類では作りえない貴重な遺物が眠っている。
「アビス」の不可思議に満ちた姿は人々を魅了し、冒険へと駆り立てた。そうして幾度も大穴に挑戦する冒険者たちは、次第に『探窟家』と呼ばれるようになっていった。
アビスの縁に築かれた街「オース」に暮らす孤児のリコは、いつか母のような偉大な探窟家になり、アビスの謎を解き明かすことを夢見ていた。
ある日、母・ライザの白笛が発見されたことをきっかけに、アビスの奥深くへ潜ることを決意するリコ。リコに拾われた記憶喪失のロボット・レグも自分の記憶を探しに一緒に行くことを決意する。
深界四層でタマウガチの毒に苦しむリコ。リコを救ったのは成れ果てのナナチだった。ナナチを仲間に加え、ボンドルドの待つ深界五層へと三人は冒険を進める。そこで、プルシュカと名乗る女の子に出会い……。

制作年: 2020
監督:
声の出演: