『竜とそばかすの姫』細田守監督インタビュー!「僕だけが、ネットの世界を肯定的に描き続けてる(笑)」【カンヌ映画祭】

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ライター:石津文子
『竜とそばかすの姫』細田守監督インタビュー!「僕だけが、ネットの世界を肯定的に描き続けてる(笑)」【カンヌ映画祭】
『竜とそばかすの姫』細田守監督

2021年7月15日、『竜とそばかすの姫』が、今年新設されたカンヌ・プルミエール部門で公式上映された細田守監督。上映後は14分間にわたる熱狂的なスタンディングオベーションとなり、監督も感極まっている様子だった。カンヌ滞在期間中に、細田監督にカンヌ映画祭への思い、そして本作の海外での反応などを伺った。

細田「世界の人たちと共通の価値観について語り合えるというのは、本当に良いですよね」

『竜とそばかすの姫』🄫2021 スタジオ地図

―上映後、熱い喝采を受けての感想を教えてください。

あんなに長い時間、スタンディングオベーションをいただくことはなかったので、本当に驚きました。ちょっと心配になるほどでした、皆さん手が痛くなるんじゃないか、って。すごく皆さんが作品に乗ってくれていることが伝わってきて、感謝の気持ちでいっぱいです。これが本当に、外の人に見てもらう初めての上映でした。日本でも試写会をやれなかったので。すごく緊張していたのですが、暖かく迎えてくださって感激しました。また、その映画がカンヌでの公式上映の数時間後に日本で公開になる、というのもすごいスケジュールだな、と。カンヌと日本が直結している感じがしますし、楽しんでいただけたらと思います。

スタンディングオベーションに応える細田守監督

―日本での公開日にカンヌにいることになりましたね。帰国後も2週間、自主隔離をしないとならないし、大変なことと思います。

元々、この映画の完成がコロナの影響もあって、すごく遅れていて。7月5日に初号試写だったんですが、その何日か前にカンヌへ送ったんです。もう、カンヌ映画祭の公式出品ラインナップは全部発表されていたんですが、送ってみたら、カンヌ・プルミエール部門で上映するという連絡がきて、それで日本公開の前日である15日にカンヌでプレミア上映されることになったんです。日本公開日に、監督が日本にいないのは、どうなのかなあ、って僕も思ったのですが、「宣伝のためになるから、カンヌに行ってください」と言われまして(笑)。初日の舞台挨拶はカンヌからリモートでやるので、ということで。帰国後は自主隔離をした後、コロナの状況なども鑑みながら、7月末から日本の劇場を回ることになると思います。

―『未来のミライ』以来3年ぶり、2度目のカンヌの印象はいかがですか?

賑やかですよね。カンヌ映画祭はいつも5月だったのが、今年は7月になったおかげで、この映画も間に合ったわけで、そういう点でもとてもご縁を感じます。僕も来ることが出来るとは、思っていませんでした。前回の『未来のミライ』は「監督週間」で、今回は「カンヌ・プルミエール部門」に。『竜とそばかすの姫』の日本公開は、数日前に緊急事態宣言が発令されたので悩んだのですが、映画という娯楽で、少しでも皆さんの夏の思い出を作ってもらえたら、と思って公開することになりました。そういう日本の状況に比べると、晴れ渡るような空の下、カンヌでは映画祭が2年ぶりに復活している。世界では、コロナ禍から文化が復活しているさまを見て、僕も嬉しくなりました。

『竜とそばかすの姫』細田守監督

―外国の記者からの取材は受けらましたか?

はい、とても良いリアクションでした。すごく美しい映画で、家族の話を現代の問題に絡めて扱うという僕の映画についてと、『美女と野獣』をインターネットの世界の中でやるということに非常に興味を持ってもらえていましたね。

―『美女と野獣』をテーマにされた理由をお聞かせください。ジャン・コクトーの実写映画がお好きだったのでしょうか?

元々、“美女と野獣”というお話が大好きなんです。ジャン・コクトーの実写映画版『美女と野獣』(1946年)も好きですが、やっぱりなんといっても1991年版のディズニーの『美女と野獣』が大きいですね。その前から、構図として“美女と野獣”という、真逆のものが対比させられているものが好きだったというのもあるのですが。とてもワクワクさせられるんです。コクトーの映画は大学生の時に見ました。そして大学卒業後、東映動画(現・東映アニメーション)に入社したんです。でも仕事が辛くて、入社してまだ半年くらいでアニメはやめようかなと思った時期がありました。その時にディズニーの『美女と野獣』が公開になったんですが、これを見て、こんなに素晴らしいことがアニメーションで出来るんだったら、もう少し頑張ってみようかな、と思えたんですよ。そういう意味でも、思い入れがあるし、好きな作品です。グレン・キーンさんというディズニーの伝説的なアニメーターが『美女と野獣』を担当されていて、彼にすごく憧れていて、さまざまな点でこの作品に影響を受けたんです。それを30年経って、自分なりに、そして現代の“美女と野獣”を描くことが大事だと考えて、インターネットの世界にその要素を取り入れました。

『竜とそばかすの姫』🄫2021 スタジオ地図

―前回、『未来のミライ』(2018年)で初めてカンヌの監督週間に参加されましたが、今回の『竜とそばかすの姫』はやはり海外を意識して作った部分もありますか?

やっぱりインターネットの世界を描くというのは、グローバルな世界を意識することではあるし、それに対して、ドメスティックなものを対比させるというのは『サマーウォーズ』(2009年)でもやっていることなんですけど、同じ構図がグレードアップしているというか。グレンさんがレジェンドなら、今回、キャラクターデザインをお願いしたジン・キムさんは、現在のスタープレイヤー。そういう方と一緒に作品を作りましょう、と意気投合できたのは、やはり『未来のミライ』がアカデミー賞にノミネートされたからで、でもそうなったのはゴールデングローブ賞にノミネートされたから。その元を辿るとやはり、カンヌの監督週間で上映されたから、と言えると思うんです。つまりそういう流れがあったから、ジン・キムさんと一緒に仕事を出来るようになった。

でもカンヌで公式上映なんて、夢見たことすらないですよ。日本のアニメーションがカンヌで上映なんて今までほとんどなかった訳だし。3年前もそうだし今回もそうですが、単に日本から選ばれて名誉なことです、ってだけではなく、やっぱり僕らアニメの世界の人間は、ガラスの天井をどうやって少しずつ乗り越えていくか、そのプロセスの中にいる実感がすごくします。カンヌ映画祭はアニメの出品はすごく少なくて、今年は全部門でも3本だけ。『未来のミライ』の時は僕だけでしたから。ほとんど技法としてのアニメは眼中にないのだろうけど、作家主義の映画祭で選ばれたことには、一種の壁を乗り越えていく道のりなのかな、と思っています。ここ数年でぐっと進んだと思いますが。なので、日本の皆さんに、アニメが公式上映に選ばれるのは大変なことなのだ、ということを応援していただけたら。もちろん、運が良かったのもありますが。こういうチャンスをもらい信用を得ると、またここに挑戦しようと思う人たちもいっぱい出てくる。僕もまだ挑戦している途中ですが。でも今のコロナ禍ということもあって、みんな保守的になりがちですが、世界の人たちと共通の価値観について語り合えるというのは、本当に良いですよね。

―応援しています。そして、すごい熱狂ぶりでしたね。14分間のスタンディングオベーション。こんな感想を言うのは変かもしれませんが、『マトリックス』(1999年)を観た時のことを思い出しました。あの頃は、仮想現実なんて遠い世界の話だと思っていたのに、『竜とそばかすの姫』でこんなふうに仮想現実の世界と繋がる世界を、とてもリアルに見せられて。

よもや、『マトリックス』のVRの世界はもうちょっとで現実化するところまで行っていますよ。隔世の感がありますね。今回の<U>という仮想世界の技術も、数年後には実現しちゃうかもしれない。一足先に未来を感じてもらえると思います。偉いところまで来たなあ、と思いますね。僕は『デジモンアドベンチャー ぼくらのウォーゲーム!』(2000年)、『サマーウォーズ』、そして今回と、20年以上、インターネットを題材に映画を作っているんですが、実はインターネットが普及してからまだ25年なんですよ。世界中の監督の中でも、こんなにやっているのは僕しかいない、と思います(笑)。『マトリックス』やスピルバーグの『レディ・プレイヤー1』(2018年)とかもあるけれど、ネットの世界を描くとディストピアになりがちなんですが、肯定的にずっと描き続けているのは本当に自分だけだと思いますね。若い人の可能性を開くツール、として僕はインターネットの世界と技術を肯定したいんです。でも『マトリックス』との連続性を指摘してもらったのは嬉しいですね。

『竜とそばかすの姫』🄫2021 スタジオ地図

―女子高校生すずが主人公になっていますが、監督の映画では女の子が印象に残ります。

実は女子高校生を主人公するのは『時をかける少女』(2006年)以来、15年ぶりなんです。久しぶりに高校生の女の子と向き合って、本当に大変なんだろうな、と思いました。男の子も同じでしょうが、彼女たちの社会における一種の同調圧力、集団的プレッシャーの中で気を使いながら日常のポジショニングをしていく。それがSNSによって視覚化されてしまった。それまでは目に見えない何かだったものが、発言のツリー化などで見えてしまうから、本当に大変だと思うんです。

―逃げられなくなってしまった。 

そうなんです。僕の娘はまだ5歳なんですが、生まれたときからインターネットがあるなかで、どう生きていくのかって心配になってしまうんですよ。僕らが子供の時には、こうした同調圧力がツールを通してかかってはこなかったから。

『竜とそばかすの姫』🄫2021 スタジオ地図

―私たちが中高校生の頃はクラスやグループに馴染めないなら、保健室に逃げるとか、色々まだ手段があったけれど、今は逃げてもそれはついてくるわけですね。

そうなんです。どこへ逃げても、スマホがある限りついてくる。スマホが“ブーン”って鳴って、ドキっとすることが突きつけられる。ちょうどそういうシーンがあるんですが、そういうのが大変なのも含めて、「負けないで」って伝えたい。『竜とそばかすの姫』は、クラスで俯いているような女の子が主人公なんですが、そういう子が世界にはいっぱいいると思うんです、自分の娘も含めて。僕はそういう子たちに肩入れしたくなるんですね。今回、高知の田舎町が舞台ですが、インターネットの世界の一方で、世の中から取り残されていっている人や場所、というのがある。そういう片隅にいる人を応援したいんですね。

『竜とそばかすの姫』🄫2021 スタジオ地図

―今回、竜の声は佐藤健さんだったのが明かされましたが、そのキャスティングについて教えてください。

僕は健くんに、ずっとやって欲しかったんです。健くんとは前から共通の知人を介して知っていて、一緒にご飯食べたりしていて、その頃から彼にはプロデューサー気質というか、良い作品を作っていこうという気持ちがすごくある人で、僕はそういう人が好きなんです。彼は人気俳優で、色んなしがらみもあると思うけど、その中でより良い作品を作るには、ということを考えている真摯さが好きで、そして表現力もすごいある。その健くんの真剣な姿と、竜という人物に重なるものがあって、やって欲しいなと思ったんです。それでお願いできたので、とても嬉しいですね。今回の作品は、健くんの作品歴の中でもすごく複雑なキャラクターだし、新しい魅力を感じられると思うので、存分に楽しんで欲しいですね。アフレコの時に、本当に彼の表現の奥深さに驚いたんですよ。こちらの想像を遥かに超えている。映画を観ると、僕が言っていることがきっとわかると思いますので、ぜひご覧ください。

『竜とそばかすの姫』は2021年7月16日(金)より全国公開

取材・文:石津文子

 

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『竜とそばかすの姫』

自然豊かな高知の田舎に住む17歳の女子高校生・内藤鈴(すず)は、幼い頃に母を事故で亡くし、父と二人暮らし。母と一緒に歌うことが何よりも大好きだったすずは、その死をきっかけに歌うことができなくなっていた。

曲を作ることだけが生きる糧となっていたある日、親友に誘われ、全世界で50億人以上が集うインターネット上の仮想世界<U(ユー)>に参加することに。<U>では、「As(アズ)」と呼ばれる自分の分身を作り、まったく別の人生を生きることができる。歌えないはずのすずだったが、「ベル」と名付けたAsとしては自然と歌うことができた。ベルの歌は瞬く間に話題となり、歌姫として世界中の人気者になっていく。

数億のAsが集うベルの大規模コンサートの日。突如、轟音とともにベルの前に現れたのは、「竜」と呼ばれる謎の存在だった。乱暴で傲慢な竜によりコンサートは無茶苦茶に。そんな竜が抱える大きな傷の秘密を知りたいと近づくベル。一方、竜もまた、ベルの優しい歌声に少しずつ心を開いていく。

<U>の秩序を乱すものとして、正義を名乗るAsたちは竜を執拗に追いかけ始める。<U>と現実世界の双方で誹謗中傷があふれ、竜を二つの世界から排除しようという動きが加速する中、ベルは竜を探し出しその心を救いたいと願うが――。

制作年: 2021
監督:
脚本:
音楽:
出演:
  • BANGER!!!
  • アニメ
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