何者でもない親父が殺人マシンと化す、再び 『Mr.ノーバディ』続編の制作決定

何者でもない親父が殺人マシンと化す、再び 『Mr.ノーバディ』続編の制作決定
『Mr.ノーバディ』©︎2021 Universal Pictures

2021年に公開され、その“ヤバすぎるおっさん”ぶりが多くの人々の心を鷲づかみにした映画『Mr.ノーバディ』(イリヤ・ナイシュラー監督)の続編が制作されることが明らかとなり、注目を集めている。

もともと同映画は、一見どこにでもいるような冴えない中年男であるマンセル(ボブ・オデンカーク)が、自宅が強盗被害に遭ったことをキッカケに“プッツン”してしまい、その後、バスの中でチンピラ集団をタコ殴りしたり、さらにそれが引き鉄となる形で、ロシアンマフィアとの仁義なき戦いに突入したりと、“ヤバすぎるおっさん”へと完全覚醒していく姿が描かれていた。

そんな怒れる主人公を、大ヒットドラマ『ブレイキング・バッド』や『ベター・コール・ソウル』で、悪徳弁護士・ソウル・グッドマンを演じたコメディアン、ボブ・オデンカークが演じたことで、さらに独特なスゴ味を与えることとなった。この『Mr.ノーバディ』で彼が演じたマンセルは、どちらかといえば『ブレイキング・バッド』シリーズのソウルよりは、むしろブライアン・クランストンが演じた主人公ウォルター・ホワイトに近いニオイがする人物であるという点が大変興味深い。

本来であれば平々凡々とした人生を送り、そのままひっそりと死ぬ……というような、言ってしまえば“その他大勢タイプ”の中年男が、大それたことを平然とやってのける“ヤバすぎるおっさん”へとクラスチェンジしてしまうという部分、しかもそのプロセスがどこか不条理ながらもなぜか妙に納得してしまうという点も含めて、とても良く似ていると感じてしまうのだ。

また、そんな人間凶器と化した中年男による無双系ストーリーということでいえば、同映画はマイケル・ダグラス主演の『フォーリング・ダウン』(ジョエル・シュマッカー監督/1993年)とも、どこか似たニオイを感じる。

この『フォーリング・ダウン』も、『ブレイキング・バッド』も、そして『Mr.ノーバディ』も、主人公となっている男たちは、いずれも事件前には基本的に善良で、生真面目なタイプの人物であったはずなのだ。しかしそれでいて、お世辞にも順風満帆な人生であるとは言いがたく、日常的に仕事や家庭などに火種を抱え、それが慢性的なストレスの原因となっており、彼らは真面目にコツコツ努力しても報われなかったり(同時に、彼らが対極に位置すると感じている人物が幸せな暮らしをしていたり)、どんなに善良な人間性を維持していたとしても、周囲の人々からはあまり好人物であるとは思われていなかったりと、地味にネガティブな方向へと向かう要素で埋め尽くされているのである。

もしかするとそうした彼らの人生は、心の奥底で静かに蠢く火種を自覚した上で、自分で消火し続けるような日々の連続なのかもしれないし、そうした状況下でありながらも、すぐ傍で誰かにマッチを擦られ続けるような、そんなストレスフルな毎日であったりするのかもしれない。

とはいえ、通常、こうした人生を送る大多数のおっさんは、そのまま「普通のおっさん」として一生を終えるものだと思うが、中には思わぬ大爆発を引き起こす人もいるのだろう。それまでの人生において抱えてきたストレスが、やがて我慢の限界を超え、臨界点へと到達した際に、彼らは突如として凶悪な犯罪者へと姿を変えてしまうというわけだ。無論、彼らの大爆発に火をつけた事象そのものは、傍目にはささいなことであったり、理解し難いものもあるかもしれないが、そこに至るまでの間に、彼らが前述のような日々を送っていたとするならば、「さすがにそうなるわな」と感じてしまう部分もあるだろう。

これは現実社会においてもある程度、当てはまることだと思うが、「キレるおっさん」というものは、なにも全員が全員自分から好んでキレに行ってるわけではなく、そうなる必然的要素が、バックグラウンドに潜んでいることも少なくないのである。本人には如何ともし難いような出来事に翻弄された結果、“ヤバすぎるおっさん”と化す中年男たちの姿に、常日頃から悩み多き人生を送っている人の中には、「私もこのタイプだ……」と感じてしまうだろうし、彼らの心の中に漂う独特なイライラ感に、思わず感情移入してしまう人もいることだろう。

なぜなら、複雑な現代社会で生きていれば、ちょっとした匙加減で、誰しも凶行に走ってしまいかねず、まさに「明日は我が身」であることを、多くの大人たちは無意識に悟っているからだ。おそらく『Mr.ノーバディ』をはじめとする“ヤバすぎるおっさん”の無双系作品が、独特な引力を持っているのは、そうした点からなのかもしれない。

なお、プロデューサーのケリー・マコーミックがメディアに対して語ったところによれば、続編の制作はまもなく開始される見通しで、その時期についても「来年には実現したい」のだという。現時点において、オデンカークの出演が正式に決定したという報はまだないが、前作の評判も上々であっただけに、そう遠からず、決定の報がもたらされる公算大だ。

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