激キレ地味オヤジに気分爽快!『Mr.ノーバディ』でアドレナリン全開!! 期待どおり×サプライズなアクション映画

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ライター:斉藤博昭
激キレ地味オヤジに気分爽快!『Mr.ノーバディ』でアドレナリン全開!! 期待どおり×サプライズなアクション映画
『Mr.ノーバディ』© 2021 UNIVERSAL STUDIOS and PERFECT UNIVERSE INVESTMENT INC. All Rights Reserved.

期待に応えつつ意外性をプラス

アクション映画を好きな人なら、ある程度、予想どおりの痛快な展開を期待するかもしれない。しかし、ありきたりでは面白くない。ちょっとした変化球の設定がうまく決まって、未体験の興奮が得られれば、最高の時間になる。「期待どおり」と「斬新なサプライズ」。その両面が見事に噛み合ったのが、『Mr.ノーバディ』だと断言したい。

アメリカでは、新型コロナウイルスの影響で休業となっていたNYやLAなど大都市圏の映画館が再オープンする直前の、2021年3月に公開。強力なライバルが少なかったとはいえ、初登場1位に輝いた。映画批評サイト、ロッテントマトでも批評家の数字が80%台、観客が90%台と高い数字をキープしている。まさに「思わぬ掘り出し物」的な快作なのである。

『Mr.ノーバディ』© 2021 UNIVERSAL STUDIOS and PERFECT UNIVERSE INVESTMENT INC. All Rights Reserved.

あのボブ・オデンカークが肉体改造で説得力マシマシ

設定自体は、アクション映画としてはオーソドックスかもしれない。自宅と職場を行ったり来たりという、地味な日常を送っている中年男の自宅に強盗が侵入。息子が危害を加えられても抵抗する術もなく、耐えるのみの主人公。しかしそんな男にも、ついに堪忍袋の緒が切れる瞬間がやって来る……という展開だ。タイトルどおり「ノーバディ=何者でもない」、どこにでもいそうなサエない男が、ヒーローへと変貌していくのは、ある程度、予想がつくだろう。しかし『Mr.ノーバディ』の場合、主人公のハッチの変貌ぶりが、あまりにドラマチック、あまりに痛快で、観ているこちらのアドレナリンを否応なく上昇させるのだ。

『Mr.ノーバディ』© 2021 UNIVERSAL STUDIOS and PERFECT UNIVERSE INVESTMENT INC. All Rights Reserved.

主人公の変貌は、ボロボロ状態のハッチが「あなたは何者なのか?」と尋問される冒頭シーンから予告されている。その後、月曜日、火曜日と、事件前の日常ルーティンが機械的にスピーディに描かれ、そのテンポの良さに観ているこちらも没入していく。巧妙な演出でぐいぐい引き込むのは、イリヤ・ナイシュラー監督。この名前にピンときた人は、アクション映画マニアかもしれない。
ロシア出身のナイシュラー監督は、2016年の長編デビュー作『ハードコア』(アメリカ/ロシア合作)を、全編、主人公の「視点」のみの映像で展開。その大胆奇抜なアイデアで、武装集団との主人公の孤独な戦いを体感させることに成功した。こうしたPOV(一人称視点)の作品はそれ以前にもあったが、体感度、映像の流れという点で『ハードコア』は革命的だと大絶賛を受ける。『Mr.ノーバディ』も、日常とアクション場面の緩急、強烈なシークエンスの的確な「流れ」で、われわれ観客を作品に「乗せて」しまう感覚だ。

さらに特筆すべきは、主演のキャスティング。事件をきっかけに、一般人として生活していた者が秘めた才能を覚醒。復讐の鬼として立ち上がる展開は、たとえば『96時間』シリーズ(2008~2014年)のリーアム・ニーソンなどが思い浮かぶが、本作の主演ボブ・オデンカークは『ブレイキング・バッド』(2008~2013年)と『ベター・コール・ソウル』(2015年~)の弁護士役で有名。アクション俳優のイメージから程遠い彼のイメージによる逆転効果も、主人公ハッチの変貌に大いに貢献している。

オデンカークは、本作の企画が実現するかどうかわからない時期から肉体トレーニングを始め、結局、その期間は2年にもおよんだという。頼りなさそうな中年男のハッチが、眠っていたスキルを発揮するという作品の肝に、オデンカークの地道なトレーニングが説得力を与えたのである。最初の大きな見せ場となるバスでの格闘シーンから、われわれは衝撃&痛快なテンションで、全身が血湧き肉躍ることになる。主人公は意外に強い。でも「強すぎない」ところが、リアリティも補っていく。

『ジョン・ウィック』シリーズとの共通点とは!?

そしてアクションの面だけでなく、要所で「センス」が光る。注目は音楽の使い方で、後半の重要なシーンでは往年のミュージカルナンバーが流れる。『ラ・マンチャの男』(1972年)の「The Impossible Dream(見果てぬ夢)」と、『回転木馬』(1955年)の「You’ll Never Walk Alone(人生ひとりではない)」。後者は世界中のサッカークラブのサポーターに愛唱されたりして、ともにスタンダードとして有名な曲だが、タイトルからイメージさせるとおりの歌詞と、主人公の切実な「夢」や壮絶な試練が重なって、なんとも味わい深い。これにルイ・アームストロングの「What a Wonderful World(この素晴らしき世界)」も加わり、アクションとメロウな名曲の極上のケミストリーが達成された。

「見果てぬ夢」は『ジョン・ウィック:パラベラム』(2019年)の予告編でも使われ絶妙な効果を発揮していたが、『Mr.ノーバディ』は『ジョン・ウィック』シリーズ(2014年~)を手がけたデヴィッド・リーチが製作しており、あちこちに『ジョン・ウィック』との共通点を発見することもできる。

『Mr.ノーバディ』© 2021 UNIVERSAL STUDIOS and PERFECT UNIVERSE INVESTMENT INC. All Rights Reserved.

その他にも、オーソン・ウェルズの名作『黒い罠』(1958年)のポスターが、これ見よがしに貼られていたりと、映画ファンの心をくすぐる要素も散りばめつつ、徹底してアクション映画の本領から軸をズラさないのが『Mr.ノーバディ』の魅力。道徳的な悪に対しては怒りの鉄槌を下し、そうでない者は全身全霊で守り、そして許す。肉体の最盛期を通り越した男の奮闘と正義感に、胸が熱くならないはずがない!

『Mr.ノーバディ』© 2021 UNIVERSAL STUDIOS and PERFECT UNIVERSE INVESTMENT INC. All Rights Reserved.

文:斉藤博昭

『Mr.ノーバディ』は2021年6月11日(金)より全国公開

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『Mr.ノーバディ』

主人公のハッチは、郊外にある自宅と職場の金型工場を路線バスで往復するルーティンで退屈な毎日を送っている。外見は地味で、目立った特徴もない。この世の理不尽なことを全身で受け止め、決して歯向かうことはない。世間から見れば、どこにでも居る何者でもない(NOBODY)、ただの男だ。自宅に2人組の強盗が侵入したときも、これ以上事態を悪化させないために、抵抗せず、黙って見過ごした。そんな威厳のない振る舞いに妻には距離を置かれ、息子からもリスペクトされることはない。ある日、ハッチが乗ったバスにジャックを試みるチンピラが乗り込んで来る。若い女性を獲物にし、「ジジイ」呼ばわりされたことで、ハッチは遂にブチ切れ大乱闘となる。この一件はその後、ロシアンマフィアへとつながり、銃撃戦、カーチェイスと派手にエスカレートしていくのだった……。

制作年: 2021
監督:
出演:
  • BANGER!!!
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