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再現度が高すぎる「軍服の見どころ」を軍装史研究の第一人者が徹底解説!! 歴史的冤罪事件を描くロマン・ポランスキー監督最新作『オフィサー・アンド・スパイ』

再現度が高すぎる「軍服の見どころ」を軍装史研究の第一人者が徹底解説!! 歴史的冤罪事件を描くロマン・ポランスキー監督最新作『オフィサー・アンド・スパイ』
『オフィサー・アンド・スパイ』©️ 2019-LÉGENDAIRE-R.P.PRODUCTIONS-GAUMONT-FRANCE2CINÉMA-FRANCE3CINÉMA-ELISEO CINÉMA-RAICINÉMA ©️ Guy Ferrandis-Tous droits réservés

歴史的冤罪事件を描く巨匠ロマン・ポランスキー監督最新作『オフィサー・アンド・スパイ』が、2022年6月3日(金)より全国公開する。本作に登場する再現度が高すぎる「軍服の見どころ」を、“軍装史研究の第一人者”辻元よしふみ氏が徹底解説!! あなたの知らない<軍服の世界>を予習しておこう!!

再現度がヤバすぎる!『オフィサー・アンド・スパイ』が誘う知られざる軍服の世界

『オフィサー・アンド・スパイ』©️ Guy Ferrandis-Tous droits réservés

19世紀末のフランスで起きた史上最大の冤罪事件<ドレフュス事件>を映画化した本作。日本の大学入試にも出るほど世界史の中でも重要な事件を扱っているが、それゆえにスリルあふれる物語を支える上で重要なのが歴史の再現度。特に軍服は、階級章や徽章など時代によって変化が目まぐるしく、さらに実話ともなると、その人物が当時どのような階級でどの組織に所属していたかなど、徹底した時代考証と、緻密な再現が要求される。そんな100年以上前の衣装を見事に再現した本作は、第45回セザール賞衣装デザイン賞受賞を果たしている。

19世紀末当時のフランス軍の制服は、日本でも大ヒット漫画「ゴールデンカムイ」で描かれる明治期の日本軍の制服などにも大きな影響を与えている。今回は、そんな軍服にスポットを当て、陸上自衛隊の軍装史学の部外講師もつとめる“軍装史研究の第一人者”辻元よしふみ氏に、再現度が高すぎる本作の「軍服の見どころ」を解説いただいたぞ!!

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見どころポイントその1:官職剥奪式でドレフュスがまとう肋骨服!!

『オフィサー・アンド・スパイ』©️ Guy Ferrandis-Tous droits réservés

まずは、冒頭のシーン。当時、立ったばかりのエッフェル塔の下、フランス陸軍士官学校の庭を埋め尽くす軍人たち。そして、有名な官職剥奪式。ドレフュスは軍服から階級線をはぎ取られ、軍刀もへし折られてしまう。フランス軍の場合、階級線が袖、ズボンの側章、帽子にも付いており、これをわざわざ全部、剥ぎ取るという、まさに実に執拗な「いじめ」。砲兵出身のドレフュスは肋骨服(ろっこつふく)という、身体に平行にヒモ飾りがたくさん付いた軍服を着ているが、このボタンには、精鋭部隊を示す擲弾(てきだん)の紋章が刻印されている。執行官は、これを一つずつ、むしり取っていく。ボタンすら、着用を許さない、ここまで不名誉な形式にこだわった軍部の執念が際立つ場面だ。

見どころポイントその2:一目見ただけで階級が分かる再現度高めの“肩章”!!

『オフィサー・アンド・スパイ』©️ Guy Ferrandis-Tous droits réservés

主人公のピカール少佐は、参謀本部第二局(情報局)統計部(諜報部門)の部長に異例の抜擢を受け、中佐に昇進。袖の階級線が、すぐに金線と銀線が交互に並ぶ中佐のものに変わるのが分かる。参謀本部員は飾緒を右肩に付ける、というのはこの時期のフランス軍のルールだ。さらに両肩には略式肩章を付けていて、これが常装にあたる。パーティーのシーンでモール飾りの下がった大きな正肩章を付けているシーンもあるが、これは礼装にあたる。中佐用は、本体の中心部が銀色、その他が金色だが、この映画、ほんのワンシーンでも手を抜いていない。

見どころポイントその3:階級に応じた刺繍などの細かい“装飾”!!

『オフィサー・アンド・スパイ』©️ Guy Ferrandis-Tous droits réservés

劇中、野外で75ミリ速射砲の威力を軍人たちが見学するシーンがあり、赤ズボンに黒い肋骨服(ろっこつふく)というのが、当時の略装、野戦装にあたる。特に将官クラスは、階級に応じた数の肋骨装飾を付け、赤いケピ帽にも派手な金色の刺繍で階級に応じた装飾を入れる。同じ将官でも、旅団将軍(少将)なのか師団将軍(中将)なのか、はたまた大将相当の軍司令官なのかで、これまたラインや装飾の数が異なる。実にフランス軍の制度は複雑ですが、この映画はきっちり再現している。

見どころポイントその4:階級だけではない!軍服で登場人物の孤立した立場をも体現!!

『オフィサー・アンド・スパイ』©️ Guy Ferrandis-Tous droits réservés

最後に、ドレフュスの無罪を確信したピカールは、醜聞を恐れる上層部に睨まれ、左遷されてしまう。この左遷された先が、アルジェリアの第4連隊。植民地連隊のことだ。ここでしばらく連隊長を務め、熱帯地用の水色の軍服に着替える。ここからはずっと、彼だけが植民地の軍服を着ており、孤立する立場を視覚的にもよく示しているように思われる。

『オフィサー・アンド・スパイ』©️ Guy Ferrandis-Tous droits réservés

以上、4つのポイントを解説していただいたが、これだけでもディテールを知ることで、登場人物たちが組織の中でどのような立場でどのような振る舞いを要求されたかが分かり、物語の理解度がより深まるはずだ。しかし、これらはほんの一部。「レジョン・ドヌール勲章一つとっても、等級によって右胸に付けるか、左胸に付けるか、などと相違します。こういった細かい点も、その登場人物がその年に、どの等級を受けていたか、調べないといけないわけで、考証は大変だったと思います。一度拝見しただけでも、けっこういろいろ気が付きます。これは繰り返し見ると、さらなる発見ができそうな映画」と辻元氏は語る。

映画ファンのみならず、歴史好き、フランス好き、さらに服飾や、制服が好きな方必見の『オフィサー・アンド・スパイ』は、2022年6月3日(金)よりTOHOシネマズ シャンテ他で全国公開!!

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『オフィサー・アンド・スパイ』

1894年、フランス。ユダヤ系の陸軍大尉ドレフュスが、ドイツに軍事機密を流したスパイ容疑で終身刑を宣告される。ところが新たに情報局長に任命されたピカール中佐は、ドレフュスの無実を示す衝撃的な証拠を発見。上官に対処を迫るが、国家的なスキャンダルを恐れ、隠蔽をもくろむ上層部に左遷を命じられてしまう。全て失っても尚、ドレフュスの再審を願うピカールは己の信念に従い、作家のゾラらに支援を求める。しかし、行く手には腐敗した権力や反ユダヤ勢力との過酷な闘いが待ち受けていた……。

監督:ロマン・ポランスキー
脚本:ロバート・ハリス ロマン・ポランスキー
原作:ロバート・ハリス「An Officer and a Spy」
出演:ジャン・デュジャルダン、ルイ・ガレル、エマニュエル・セニエ、グレゴリー・ガドゥボワ、メルヴィル・プポー、マチュー・アマルリック他

制作年: 2019