• BANGER!!! トップ
  • >
  • 映画
  • >
  • 実在した“謎の狙撃者”との攻防!『ザ・ウォール』は砂漠が舞台の舌がザラつくソリッドシチュエーション・スリラー

実在した“謎の狙撃者”との攻防!『ザ・ウォール』は砂漠が舞台の舌がザラつくソリッドシチュエーション・スリラー

  • Twitter
  • LINE
  • Facebook
ライター:#大久保義信
実在した“謎の狙撃者”との攻防!『ザ・ウォール』は砂漠が舞台の舌がザラつくソリッドシチュエーション・スリラー
『ザ・ウォール』© 2017 AMAZON CONTENT SERVICES LLC

スナイパー×スリラー=『ザ・ウォール』

イラク戦争期のスナイパー(狙撃手)の任務を切り取って見せる特殊戦映画と思わせておいて、『ザ・ウォール』はまったく別の方向に転がり始めて楽しませてくれる快作です。

『ザ・ウォール』 ダウンロード販売中、デジタルレンタル中、Blu-rayレンタル中
発売元:ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント
販売元:NBC ユニバーサル・エンターテイメント
© 2017 AMAZON CONTENT SERVICES LLC

2007年のイラク。アメリカ陸軍の狙撃手マシューズ(WWEレスラーのジョン・シナ)と観測手アイザック(アーロン・テイラー=ジョンソン)は、作業員が全滅したパイプライン建設現場で敵スナイパーを排除すべく監視任務についていた。20時間以上も動きがないことに痺れを切らせ、現場に近づいたマシューズが“違和感”を感じた瞬間、遠方から狙撃されて倒れてしまう。救助に駆けつけたアイザックも足に被弾するが、かろうじて石積みの壁の陰に隠れることができた。重傷で倒れ伏したままのマシューズ、足の出血が止まらないアイザック。その時、無線機から謎の声が……という展開です。

『ザ・ウォール』© 2017 AMAZON CONTENT SERVICES LLC

実はこの『ザ・ウォール』は、『ロスト・バケーション』(2016年)や『海底47m』(2017年)、『クロール -凶暴領域-』(2019年)などに連なるソリッドシチュエーション・スリラー(限定された空間から登場人物が脱出を試みる)なのです。登場人物がわずか数人に絞り込まれているのがソリッドシチュエーション・スリラーの法則(?)ですが、『ザ・ウォール』でもマシューズとアイザック、そして“無線の声”の3人だけ! という徹底ぶりです。

『ザ・ウォール』© 2017 AMAZON CONTENT SERVICES LLC

銃声は弾の後からやってくる

とくにこの種の映画では、観客をストーリーに引き込む“説得力のある雰囲気”が重要ですが、ここでもマシューズのM24 SWSスナイパーライフルや弾薬リストポーチ、アイザックのM4カービンやスポッティングスコープなど、2人の外観は2007年の空気感たっぷりです。

『ザ・ウォール』© 2017 AMAZON CONTENT SERVICES LLC

スポッティングスコープとは標的観測や弾着確認に用いる望遠鏡で、劇中で用いているのは最大倍率40倍(400m先の物が10mの見かけになる)というハイスペック・モデル。またM24 SWSとはM24ボルトアクション・ライフル(陸上自衛隊も「対人狙撃銃」として装備)に高性能のスコープやバイポッド(二脚)を装着して「SWS/スナイパー・ウエポン・システム」としたものです。

ひと昔前は“ミラクル・ショット”だった距離1000m以上での狙撃ですが、こうした狙撃システムの高性能化によって「距離約1500m」は絵空事でなくなっています。

『ザ・ウォール』© 2017 AMAZON CONTENT SERVICES LLC

劇中では、前触れなくいきなり被弾、その後に乾いた銃声が微かに響いてくるという描写によって、長距離狙撃のリアリティを映画的に見事に表現。音の速度は秒速330mぐらい、7.62㎜×51NATO弾の初速は秒速800mぐらいですから、ライフル弾は銃声より早く飛んでくるのです(「7.62㎜×51」とは「口径が7.62㎜、薬莢の長さが51㎜」ということ)。

『ザ・ウォール』© 2017 AMAZON CONTENT SERVICES LLC

壁の裏に隠れたアイザックが負傷の苦痛に耐えつつ、発射音と弾の飛来角度から射撃ポイントを突き止めようとするシークエンスは、中盤の見せ場のひとつ。ちなみに2000年代、銃弾の飛翔音と発射音から射撃位置を検出する射撃位置探知装置が実用化され、先進国軍隊で配備が始まっています。これを持っていれば……とも思いますが、たぶん無線機の次に狙われて破壊されるでしょうね……。

『ザ・ウォール』© 2017 AMAZON CONTENT SERVICES LLC

もうひとつちなみに、アイザックが自分のM4カービンで反撃を試みないのは、その5.56㎜×45弾では1500mという距離は弾薬の性能的に“届くのがやっと”で、無意味だからです。

こうしたメカ的な部分だけでなく、乾いた空気と荒涼とした土地、そしてなによりタイトルにもなっている「壁」の雰囲気がお見事! こんなに“キャラが立っている壁”(変な日本語ですが)は珍しいのではないでしょうか。イメージを物体化させた監督とスタッフに脱帽です。

『ザ・ウォール』© 2017 AMAZON CONTENT SERVICES LLC

敵スナイパーは「ジューバ」

“声だけ出演”の敵キャラにはモデルがいます。イラク戦争期に37名のアメリカ兵を狙撃射殺したとされる、スンニ派武装勢力のスナイパー「ジューバ」(「ジュバ」とも)です。

ジューバは、自分がアメリカ兵を狙撃するシークエンスを動画で撮影してネットで配信し、一躍有名になりました。その正体はいまだに不明で、本名はもちろん1人なのか、それとも複数の人物が「ジューバ」を名乗っていたのかも分かっていません。

『ザ・ウォール』© 2017 AMAZON CONTENT SERVICES LLC

2005年から始まったジューバの狙撃動画配信ですが、2007年以降は音沙汰ありません。ISILに処刑されたという説もありますが、いずれにせよ、ジューバを名乗るアメリカを敵としたスナイパーは謎に包まれたままなのです。

ソリッドシチュエーション・スリラーらしく90分と単尺の本作。観終わったあとは、もう一度、意味深なセリフで始まる冒頭から観直したくなるでしょう。

『ザ・ウォール』© 2017 AMAZON CONTENT SERVICES LLC

文:大久保義信

『ザ・ウォール』はCS映画専門チャンネル ムービープラスで2020年11月放送

Share On
  • Twitter
  • LINE
  • Facebook

『ザ・ウォール』

2007年、イラクの荒廃した村。米兵のスナイパー、アイザックとマシューズは瓦礫の中に潜む敵を狙っていた。周辺にはいくつも転がる米兵の死体。20時間経っても敵の動きはない。様子を見ようと近づいたマシューズは想定外の場所から銃撃に遭い、その場に崩れ落ちる。

制作年: 2017
監督:
出演:
声の出演: