悪名高い“心理実験”がまさかのリアリティショー化
Netflixが、心理学史上もっとも物議を醸した実験をベースにした新作リアリティ番組『The New Stanford Prison Experiment(原題)』の製作を発表し、ネット上で大きな波紋を広げている。
公式の番組概要によると、本作は「30人の参加者が本物の刑務所で2週間を過ごす」リアリティシリーズとのこと。「あの悪名高い実験が、現代によみがえる」と解説にあるとおり、1971年の監獄実験を現代のエンタメの枠組みで再現しているようだ。
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そもそも「スタンフォード監獄実験」とは何か?
「スタンフォード監獄実験」とは、1971年に心理学者フィリップ・ジンバルドーらがスタンフォード大学で行った社会心理学の実験である。
一般公募で集められた健康な男子学生24人を「看守」と「囚人」にランダムに振り分け、大学の地下に作られた模擬監獄で生活させた。すると、看守役は次第にサディスティックで苛烈な振る舞いを強め、囚人役は極度のストレスと精神的苦痛から服従的になっていったとされる。
当初2週間の予定だった実験はわずか6日で中止に追い込まれ、「特別な悪意を持たない普通の人々であっても、置かれた環境と役割によって容易に残虐化する」という社会心理学の象徴的な事例として世界中に広まった。
なお、この出来事は2015年に『プリズン・エクスペリメント』のタイトルで映画化もされている。ビリー・クラダップ(ジンバルドー教授役)やエズラ・ミラー、タイ・シェリダンらが出演し、密室空間で深まる狂気と倫理的破綻をリアルに描写した。
暴露された実験の実態…取り込まれていたのは科学者側?
しかし、今日においてこの実験の「科学的妥当性」はほぼ完全に否定されている。近年、社会学者のティボー・ル・テシエらが当時の一次資料や録音アーカイブを精査した結果、衝撃的な実態が明かされた。
看守役の残虐な行動は自然発生したものではなく、研究者側(ジンバルドーら)が事前に「囚人から個性を奪い、圧倒的な支配感を与えるように」と具体的な指導・命令を行っていたことが発覚したのだ。さらに、被験者たちも「研究者が望む劇的な結果を出すために協力して演じていた」と証言している。
つまり、過酷な環境や役割に呑み込まれたのは被験者ではなく、むしろ「自分自身の望む結論(演出)を求めて参加者を誘導・コントロールした心理学者側」であったことが暴露された(※諸説あり)。
SNSでは賛否が飛び交う…“鋭い風刺”の可能性も
すでに「失敗した科学実験」どころか「誘導された劇的なパフォーマンス」であったことが証明されている題材を、なぜ今リアリティ番組として再生産するのか。ネット上では「すでに結果がわかっている有名な実験をどうやってやり直すんだ?」、「これがエンタメだと考えられてるなんて、どういうこと?」、「誰もが最終的には家に帰れると知ってるのに、与えられた役割がどれだけの力を持つのか?」、「みんな文句言ってるけど、俺はめっちゃ見たいよ」などなど、様々な意見が寄せられている。
もちろんNetflixならではの“手の込んだ鋭い風刺”という可能性も捨てきれない。「社会全体の現状を表す的確なメタファーだと感じる」、「この実験を実行する最もクリーンで最良の方法」という声も上がっているように、権力構造の心理検証という表向きの看板を掲げつつ、参加者がカメラの前でどのように“役割を演じてしまうか”や、リアリティ番組というシステム自体が人間をどうコントロールし暴走させるかという、メタ的な社会批判が込められているのではないかという見方もある。
すでに結末や問題点が明らかな実験を舞台に、この番組が悪趣味なエンタメに終わるのか、それとも現代のメディア環境に対する痛烈な皮肉となるのか、ひとまず配信を待ちたいところだ(※10月21日に配信予定、字幕吹替対応は不明)。
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