『すばらしき世界』『永い言い訳』の西川美和監督が、原案・脚本・監督を務めるオリジナル最新作映画『わたしの知らない子どもたち』が、本作で初主演を務める新進気鋭の新人・小八重葵美と、世界をまたにかけて国際的に活躍する二階堂ふみをW主演に迎え、10月16日(金)より公開される。
西川美和監督の最新作、ついに始動
西川美和監督が前作『すばらしき世界』の制作過程で出会った、戦後の日本に実在した“知られなかった子どもたち”の存在。前作の原案となった『身分帳』(佐木隆三)に登場する主人公は、母に捨てられ、戦後の混乱の中で孤児として街を彷徨い、進駐軍の靴磨きや新聞売りで糊口をしのぎながら、やがて裏社会に取り込まれていく一人の男の人生が描かれていた。広島県・広島市に生まれた西川美和監督にとって、「戦争」や「平和」は幼少期からの教育を通じてあまりに身近で、キャリアの初期にも、その重々しいテーマから逃れていたい気持ちもあったと振り返っていた。しかし、前作で出会ってしまった戦後に生きていた子どもたちの過酷な現実は、監督の心を激しく揺さぶった。「子どもたちを取り巻いた戦後の裏社会の物語をいつかもう一度作り直したい」——その抗いようのない衝動に駆られ、本作の企画は動き出した。
これまで、カンヌ国際映画祭「監督週間」に正式出品され、国内でも高く評価された『ゆれる』、モントリオール世界映画祭「ワールド・コンペティション部門」へ正式出品された『ディア・ドクター』、そして、トロント国際映画祭でのワールドプレミアを経て、シカゴ国際映画祭で「観客賞」と「ベストパフォーマンス賞(役所広司)」の2冠を達成し、シアトル国際映画祭でも「女性監督作品観客賞」を受賞した前作『すばらしき世界』など、華々しいキャリアの中で、西川美和監督作品では一貫して人間の業や複雑な心理を世界に問い続けてきた。これら数々の名作において多面的な魅力を放つ“男性主人公”を描いてきたが、本作では、小八重葵美と二階堂ふみを主演に迎え、“女性主人公”の視点から物語を紡ぎ出す。世界が認めた気鋭の作家が挑むこの新たな切り口は、西川美和という才能のさらなる新境地を予感させる。本作のタイトルにある“わたし”とは、原案者 西川美和監督自身であり、同時に二階堂ふみが演じる主人公の教師・曽根の目線でもあり、これからこの物語と出会う私たち一人ひとりでもある。
https://youtu.be/B1YdmA6RoOU
当時、街には進駐軍相手の慰安施設や路上売春が広がり、低年齢の少女たちまでもが性的搾取の危機に晒されていた。 その現実から逃れるため、自らの性別を隠し、“少年として生きる”ことを選んだ少女がいた。
本作は、“生まれながらのアウトロー”ではなく、どこにでもいたはずの一人の少女が、戦争によって変わっていく物語。主人公・琴子は、音楽家の父のもとで、普通の暮らしをしていた少女。しかし戦争と敗戦によってすべてを失い、「生きるために、自分自身を手放す」という選択を迫られる。そして、曽根は、かつて教師として軍国主義教育に加担していた側だったが、敗戦とともに、信じていたものも立場もすべてを失っていく。生徒を棄て、自らの生き方さえも手放しながら、それでもなお、今日という一日を生き延びていく。過去に背負ったものと、抗うことのできない現実のあいだで揺れながら、加害でも被害でも割り切れない、その両方を抱えたまま、生きるしかない過酷な運命を辿っていく。琴子は、少女を隠し“少年”としてどこへ向かうのか。 曽根は、再び人として立ち上がれるのか。
主人公・琴子役に抜擢されたのは、約500人のオーディションの中から選ばれた、当時11歳・小学校5年生の小八重葵美。 そして女性教師・曽根役には、2025年開催の第78回カンヌ国際映画祭において、出演映画『遠い山なみの光』(石川慶監督)が「ある視点」部門に正式出品され、大きな注目を集め国際的評価を確立している俳優・ 二階堂ふみ。近年では、エミー賞をはじめ世界的な賞レースで高い評価を受けた「SHOGUN 将軍」に出演し世界配信作品の中核キャストとして国際的な認知を獲得したりと、国内外の作家性の高い作品において確かな評価を積み重ねてきた。
さらに、数々の主演作・受賞歴を持ち、日本映画界を牽引してきた竹野内豊、音楽・映像の両分野で活躍し、若年層からの支持を集める次世代俳優櫻井海音、そして国内映画祭での評価も高い実力派若手花瀬琴音が脇を固める。また、子どもたちのキャストには、徹底したリアリティを追求。戦争の記憶に触れる機会も少ない彼らに対し、計3回の歴史・生活に関する勉強会を実施しながら丁寧に制作されていった。単なる演技指導ではなく、当時の価値観や感情に対する理解を深めた上で撮影に臨んでいる。
本作には、国内外で受賞歴を持つトップクリエイターが集結。その実績が、本作のクオリティを裏付けている。音楽を手がけるのは、 原摩利彦。映画『国宝』において数々の音楽賞を受賞し、坂本龍一からもその音響設計・空間構築において高い評価を受けた実力派の作曲家である。クラシック、現代音楽、環境音を横断するその表現は、単なる劇伴の枠を超え、“物語のもう一つの語り手”として機能する音楽として国内外から注目されている。また、本作では、音楽収録をイタリア・ローマで実施。原は「イタリアの指揮者や奏者が真剣に映画や音楽に向き合ってくださる驚きと演奏を通しての気づきがあった」と手応えを感じていた。また同席した西川監督も「音楽的な歴史の厚みを感じる演奏」と大絶賛。日本・イタリアと国を超えた共同作業がもたらす化学反応を劇場で堪能してもらいたい。
さらに、本作で原摩利彦は映画初出演を果たし、音楽家役として重要な役としてカメオ出演している。そして、映像の方でも世界が認めたチームが本作を担当する。1945年の街並みを再現するためにVFXを担当したのは映画『ゴジラ-1.0』で 第96回アカデミー賞 視覚効果賞を受賞した白組チームが担当。ハリウッド大作を抑えての受賞という快挙により、日本のVFX技術が世界水準であることを証明した彼らが、本作では戦後直後の日本を再構築する。瓦礫の街、焼け跡の空気、人々の密度——単なる背景ではなく、時代そのものが登場人物として立ち上がる映像表現が実現される。
特報映像では、東京に広がっていた闇市や焼け野原など一部そのスケールを体感できる。そして、これまで長年にわたり西川監督作品を支えてきたスタッフも再集結する。撮影は、『許されざる者』で日本アカデミー賞 最優秀撮影賞を受賞し、『すばらしき世界』では毎日映画コンクールほか各映画賞で高い評価を受けた笠松則通。美術は、三ツ松けいこ。本作では徹底した時代考証に基づく空間設計と、生活の痕跡まで丁寧に作り込まれた美術を担当する。そして、衣裳デザインには、『キル・ビル』に参加し、国内外での作品経験を持つ小川久美子、ヘアメイクデザインではカンヌ国際映画祭でも評価を得た『万引き家族』『ある男』『蜜蜂と遠雷』など人物造形を手がけてきた酒井夢月が参加する。録音は、『国宝』で日本アカデミー賞 最優秀録音賞を受賞し、繊細な音響設計で高い評価を受けてきた白取貢が担当する。国内外で評価を受けてきたスタッフが再び集まり、長年の信頼関係のもとで本作が作られている。日本映画界の第一線で活躍するクリエイターたちが、これまで語られてこなかった戦後の物語に挑む。
ティザービジュアルの撮影を担当したのはアジアを中心に注目を集める写真家・レスリー・チャン。ウォン・カーウァイ作品に影響を受けた色彩感覚と、人物の内面を切り取る繊細な視線で知られる彼が、本作で初めて映画ポスターの写真を担当し、“語られない感情”を一枚の写真に封じ込めた。写し出されるのは、「少女」を棄て少年として生きると決意し見つめる琴子の意志と、生徒を棄て何かを失ってしまった曽根の空虚な姿が繊細に映し出されている。コピーには、「12歳。私は「少女」を棄てました」「私は生徒を棄てました」というそれぞれに置かれた現実を表す言葉がひかれ、二人の人物が辿る途方もない選択と、その重みが浮かび上がる。デザインを担当したのは、吉良進太郎。作品の核心を鋭くすくい上げている。
特報映像では、戦後の混乱の中、少女を棄て、少年として生きることを選んだ琴子と、かつて棄てた生徒を探し続ける女性教師・曽根の姿が交錯する。VFXでリアルに表現される1945年の焼け跡の街。行き交う人々。言葉にならないまま積み重なる時間。「12歳の彼女は、「少女」を棄てた。」この1行で表現されるのは、「もし自分がその時代に生きていたら何を選んだのか」という問いを、今を生きる私たちに静かに投げかける。