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「私が殺されたらニュースにして」 ノワール、オカルト、サイコスリラーを行き来しながら観客を翻弄する『死を告げる女』

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「私が殺されたらニュースにして」 ノワール、オカルト、サイコスリラーを行き来しながら観客を翻弄する『死を告げる女』
『死を告げる女』© 2020 ACEMAKER MOVIEWORKS & INSIGHT FILM All Rights Reserved.

「もし私が殺されたらニュースにして」

テレビ局の“女性”アナウンサー、チョン・セラは局の花形である21時のニュースキャスターとして活躍していた。一見、スマートにみえる彼女だが、後釜を狙う局員の存在、ダメ出しをしてくる元ニュースキャスターの母親、復縁を迫る夫など、様々なプレッシャーと日々戦っていた。

『死を告げる女』© 2020 ACEMAKER MOVIEWORKS & INSIGHT FILM All Rights Reserved.

そんなある日、セラはユン・ミソと名乗る女性から電話を受ける。ミソは「私は殺されるかも知れない。もし殺されたときは貴方にニュースとして扱って欲しい」と告げる。

キャリアアップへの渇望もあり、ミソが住む家に向かうセラ。しかし、そこには無残なミソとその娘の死体があった。その日から奇妙な幻覚を見るようになるセラ。悩む彼女の前にミソの主治医であったイノが現れる。彼の奇妙な言動に、ミソの死因は彼にあるのではないか? と疑い始めるセラ。調査を進めていくと、過去にイノが治療した患者が不審死を遂げていることが明らかになるのだが……。

ノワール、オカルト、サイコスリラーを行き来し観る者を撹乱

『死を告げる女』は、あらゆるジャンルを行き来しながら、観客を翻弄する映画だ。

冒頭は韓国ノワールテイスト。華やかなTV業界の裏で繰り広げられる様々な画策、男性優位業界への警鐘、キャリアを優先するセラと夫の対立、そして母との歪な家庭環境などがジメジメと陰湿に描かれる。キャラクター設定は非常にステレオタイプではあるが、重たい空気でグイグイと観客を引き込む。

『死を告げる女』© 2020 ACEMAKER MOVIEWORKS & INSIGHT FILM All Rights Reserved.

ところが、殺人事件が起こってから一転。突如Jホラーのようなオカルト風味が前面に出てくる。キャラクターの描き方同様、セラが観る幻影はお約束の域を出ない。しかし、「現場に立ち会ったら、死体の顔は必ず確認しろ、そうしないと夢にでてくるぞ」といった台詞は恐怖感を煽るに十二分だ。観るのも怖いが、観なくても怖い……見事な台詞である。

『死を告げる女』© 2020 ACEMAKER MOVIEWORKS & INSIGHT FILM All Rights Reserved.

すると今度は、催眠療法を使う精神科医イノの登場により、作品は一転してサイコスリラーの形相となる。ミソはとある精神疾患を患っており、彼女とその娘の死は心中が疑われる一方で、イノが狙って起こした事件のように思われる。それに対比するかのように明かされていくセラと母親の関係は複雑怪奇だ。

『死を告げる女』© 2020 ACEMAKER MOVIEWORKS & INSIGHT FILM All Rights Reserved.

中盤のオカルト風味も合わさって、一連の事件は幽霊の仕業なのか、精神的な業なのか、はたまたサイコキラーの仕業なのか……ステレオタイプな設定故に様々な憶測を生みながら、物語は水中を漂うようにゆっくりと展開していく。

『死を告げる女』© 2020 ACEMAKER MOVIEWORKS & INSIGHT FILM All Rights Reserved.

『コクソン』チョン・ウヒが“悲しい定めを背負った女性”を演じる

一番の見所はセラを演じるチョン・ウヒの芝居だ。まるでロボットのように無機質で完璧に仕事をこなすセラが、事件を通して、次第に人間味を帯びていく様が本作の醍醐味となっている。『哭声/コクソン』(2016年)では正体不明の女を業深く演じ、『めまい 窓越しの想い』(2019年)では、ビルの清掃員に惚れてしまう高層ビルのオフィスで働く女性を湿った雰囲気で演じた彼女。本作では悲しい定めを背負った女性を見事に演じている。

『死を告げる女』© 2020 ACEMAKER MOVIEWORKS & INSIGHT FILM All Rights Reserved.

催眠療法の場面のカット割りも見事。スクリーンで描かれているのは現実なのか? はたまた催眠が見せる幻覚なのか? それとも過去の出来事なのか? 全てがシームレスに描かれ、観客は混乱の渦に落とされる。精神疾患とサイコスリラーを組み合わせてオカルト的なテイストを持たせたのは、なかなか勇気のいることだったろう。一歩間違えれば批判の的になるかも知れないからだ。

『死を告げる女』© 2020 ACEMAKER MOVIEWORKS & INSIGHT FILM All Rights Reserved.

『死を告げる女』は犯罪映画やホラーにこなれた人々にとっては、見慣れたストーリーかもしれない。しかし、スリラーやオカルト、サイコサスペンスのテイストを両立させ、役者のパフォーマンスをじっくりと楽しめる作品となっている。

文:氏家譲寿(ナマニク)

『死を告げる女』は2022年12月23日(金)よりシネマート新宿ほか順次公開

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『死を告げる女』

生放送5分前、テレビ局の看板キャスター・セラのもとに「殺される」と死を予告する情報提供電話がかかってくる。いたずら電話として片づけるには気が重いセラ。スクープを掴むチャンスだという母ソジョンの言葉に背中を押され情報提供者の自宅に向かうと、そこで情報提供者のミソと彼女の娘の遺体を発見する。その日以来、事件のことが忘れられず取材を続けるセラは事件現場でミソの主治医だった精神科医イノに会い、彼に対する疑いが深くなっていくのだが…。

監督/脚本:チョン・ジヨン
出演:チョン・ウヒ シン・ハギュン イ・ヘヨン

制作年: 2022