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傑作『アイ・アム・サム』“本当の”見どころは? NHK BS本日放送! 父娘役にショーン・ペン×ダコタ・ファニング

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ライター:#齋藤敦子
傑作『アイ・アム・サム』“本当の”見どころは? NHK BS本日放送! 父娘役にショーン・ペン×ダコタ・ファニング
『I am Sam アイ・アム・サム』©MMV New Line Home Entertainment inc. All rights reserved. ©2013 1983 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.

親子のあり方を考えさせる映画

親子の繋がりは人間関係の基本で、映画にも傑作が多い。ジェシー・ネルソン監督の『I am Sam アイ・アム・サム』(2001年)もそんな1本だ。

『I am Sam アイ・アム・サム』DVD 1,572円(税込)
発売元:ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント
販売元:NBC ユニバーサル・エンターテイメント
©MMV New Line Home Entertainment inc. All rights reserved.
©2013 1983 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.

私は愛と感動と涙を売りものにした映画が苦手で、この作品も最初は敬遠していたのだが(ショーン・ペンの熱演という噂もマイナスに働いた)、実際に見て、食わず嫌いを大いに反省した。家族と過ごすことの多いシーズンに見るのに最適な、真の感動作である。

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障がい者の父×エリート弁護士:善悪対立ではない見事な構成

サム(ショーン・ペン)は知的障がい者で、スターバックスでフロア係として働きながら、幼い娘ルーシー(ダコタ・ファニング)を育てている。子育ては大変だが、親切な元ピアニストの女性(ダイアン・ウィースト)や障がい者の仲間たちに囲まれて、幸せに暮らしてきた。が、ルーシーが成長し、サムの知能を追い越そうとする頃、ある偶然からソーシャルワーカーに目をつけられ、養育能力がないと判断されてルーシーを取り上げられてしまう。

『I am Sam アイ・アム・サム』©MMV New Line Home Entertainment inc. All rights reserved.
©2013 1983 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.

サムは電話帳の広告で“絶対に負けない”という辣腕弁護士リタ(ミシェル・ファイファー)を見つけ、裁判の弁護を依頼する。初めは取り合わなかったリタだが、同僚の前で見栄を張り、“無料で引き受ける”と言ってしまう。こうして愛娘を取り戻すためのサムの闘いが始まるのだが……。

『I am Sam アイ・アム・サム』©MMV New Line Home Entertainment inc. All rights reserved.
©2013 1983 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.

ハリウッド映画の多くは善悪の対立でストーリーが展開する(そして常に善が勝利を収めて終わる)。が、この映画は違う。一見、サム(善)と検事&ソーシャルワーカー(悪)の対立が軸になっているように見えるが、実はそうではない。知的障がい者だが娘に対する愛情は誰にも負けないサムの対極にいるのは、エリート弁護士のリタである。

『I am Sam アイ・アム・サム』©MMV New Line Home Entertainment inc. All rights reserved.
©2013 1983 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.

リタは豪華なオフィスを持ち、美術館のような家に住んでいるが、夫とは不仲で、息子はいつも独りぼっちだ。この二人が組んで裁判を闘うことになるのが映画の主眼で、裁判で勝つことではないのだ。実際、裁判の相手ターナー検事(見事に抑制された演技のリチャード・シフ)はサムの敵ではなく、ルーシーの将来を案じているだけであり、ルーシーの養母となるランディ(ローラ・ダーン)もルーシーに限りない愛情を注ぐ理想の母親である。

『I am Sam アイ・アム・サム』©MMV New Line Home Entertainment inc. All rights reserved.
©2013 1983 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.

リタが、娘への愛しか武器を持たないサムと接することで、世間体やエリート意識といった鎧を脱ぎ捨て、母親としての自分を取り戻していく。対極にいる二人が同じ側に立つことで生まれるもの、それがこの映画の見どころである。ストーリーが進むにつれ、主人公が知的障がい者であることはハンデではなく、サムという人間のキャラクターの1つのように思えてくる。

『I am Sam アイ・アム・サム』©MMV New Line Home Entertainment inc. All rights reserved.
©2013 1983 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.

ショーン・ペンとダコタ・ファニングという二人の天才

監督のジェシー・ネルソンと脚本のクリスティン・ジョンソンは、ストーリーを作る前に知的障がい者の施設に通い、実際に彼らと接してアイデアを膨らませていった。ショーン・ペンも施設で作業を手伝いながら、彼らのしぐさを学んだという。この映画が素晴らしいのは、そうした作り手側の誠実なアプローチから生まれた、ウソのない表現にある。

『I am Sam アイ・アム・サム』©MMV New Line Home Entertainment inc. All rights reserved.
©2013 1983 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.

私が好きなのは、説明的な描写を廃して、登場人物の心の動きをストーリーとして紡いでいるところで、この手法はインディーズ映画に近い。説明を補足する意味でザ・ビートルズのカバー曲が使われている。カバーを使ったのはビートルズの楽曲使用料が高く、映画の製作費と同じくらいだったからだそうだが、それぞれのアーティストの声と場面がうまくマッチして、いい効果を上げている。

『I am Sam アイ・アム・サム』©MMV New Line Home Entertainment inc. All rights reserved.
©2013 1983 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.

この映画のもう1つの見どころは、もちろんショーン・ペンとダコタ・ファニングという二人の天才の演技で、凄すぎて言葉もないほど。ショーン・ペンはこの演技でアカデミー賞主演男優賞にノミネートされたものの(3度目)、受賞を逸したことがウソのようだ。デンゼル・ワシントンが『マルコムX』(1992年)や『ザ・ハリケーン』(1999年)ではなく、結局『トレーニング デイ』(2001年)で初受賞したのと似ているかもしれない。

『I am Sam アイ・アム・サム』©MMV New Line Home Entertainment inc. All rights reserved.
©2013 1983 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.

『アイ・アム・サム』のラストを見て、是枝裕和の『そして父になる』(2013年)を連想した。『そして父になる』はエリートサラリーマンの福山雅治が子供の取り違え事件を通じて本当の親子関係を紡ぎ直す物語だったが、是枝裕和が到達した結論とジェシー・ネルソンが到達した結論がとても似通っていたことは、意外というより、考えさせられる。洋の東西を問わず、幸せな親子関係とは親子愛の質ではなく、もっと大きな愛で家族を作り上げていくことなのかもしれない。

『I am Sam アイ・アム・サム』©MMV New Line Home Entertainment inc. All rights reserved.
©2013 1983 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.

『I am Sam アイ・アム・サム』をU-NEXTで観る

文:齋藤敦子

『I am Sam アイ・アム・サム』はNHK BSプレミアムで2022年11月7日(月)午後1時00分より放送、U-NEXTほか配信中

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『I am Sam アイ・アム・サム』

知的年齢が7歳の父親サムは、独りで娘ルーシーを育てている。健やかに育ったルーシーは7歳になり、父の知的能力を追い越してしまう。サムには、これ以上の子育ては無理だと判断され、父娘は離れ離れになるが…。

監督:ジェシー・ネルソン
脚本:クリスティン・ジョンソン ジェシー・ネルソン

出演:ショーン・ペン ミシェル・ファイファー ダコタ・ファニング
   ダイアン・ウィースト ロレッタ・ディヴァイン
   リチャード・シフ ローラ・ダーン

制作年: 2001