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米軍VSタリバンの真実!『アウトポスト』 従軍経験を持つ監督が描く「誰が・どこで・何をして・どうなったか」

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ライター:#大久保義信
米軍VSタリバンの真実!『アウトポスト』 従軍経験を持つ監督が描く「誰が・どこで・何をして・どうなったか」
『アウトポスト』© OUTPOST PRODUCTIONS, INC 2020

50名 VS 300名の激戦

2001年の「9・11テロ」を受け、アフガニスタンへ軍事進攻したアメリカですが、案の定(?)泥沼化。アフガンから駆逐したはずのイスラム原理主義勢力「タリバン」が復活してきたのです。

映画『アウトポスト』(2020年)は2009年10月に戦われた、アフガン東部に設けられた前哨基地(アウトポスト)における50名のアメリカ陸軍兵士と300名のタリバンとの激戦の史実をベースとした作品です。

この後もタリバンの攻勢は続き、結局、アメリカは2020年2月、アフガン共和国政権の頭越しにタリバンと和平合意を結び、2021年の完全撤退を決めてしまいます。同年の春~夏に政府軍は雪崩を打つように降伏、再びタリバンがアフガン全土を掌握。2021年8月の、パニック状態となったアフガンの人々が空港の欧米軍輸送機に殺到する報道映像は読者諸兄姉も憶えていると思います。

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5,720円(税込)
発売元:クロックワークス
販売元:TCエンタテインメント
© OUTPOST PRODUCTIONS, INC 2020

描かれる「軍隊社会」

エンディングで帰還兵たちが語る「俺たち愛国心で団結」な述懐に印象が引っ張られそうになりますが、ロッド・ルーリー監督の軍隊やアフガン戦争に対する目線は意外なほどにフラットです。外征軍(外国軍)による治安作戦の難しさ―と言うより“虚しさ”―を細かなエピソードの積み重ねで浮き彫りにしており、単純な「みんな頑張った」映画とは一線を画しています。

『アウトポスト』© OUTPOST PRODUCTIONS, INC 2020

さらには「部隊を統率する将校」「兵を監督し戦闘を仕切る下士官」「最前列で戦う兵士」という、軍隊の階層ごとの役割も巧みに描かれています。

映画中盤の、兵隊から新任隊長についての不満を打ち明けられた際の中尉の対応も、地味ながら隠れた見所です。ここで中尉(=副官)が同調すれば軍紀が崩壊しかねず、最前線での軍紀崩壊は全員の生死に関わる問題だからです。問題の隊長については中尉が内密に上層部に交渉した可能性もあるわけで、こうした軍隊社会の“人事構造”の描写は、陸軍士官学校→部隊従軍→ジャーナリスト→映画、という経歴のルーリー監督ならではと思います。

『アウトポスト』© OUTPOST PRODUCTIONS, INC 2020

「どん底」の基地

本作で描かれるキーティング前哨基地は、もともとは地域住民との交流拠点、そしてパキスタンからの密輸を阻止する警備拠点として設置されたものです。地域交流と物流監視なら、周辺からの山道が交差し小川に挟まれたそこは、絶好のポイントではありました。

ですが周囲を急斜面の山々に囲まれているということは、こちらからは視界が効かず、敵からは偵察され放題・攻撃され放題という、軍事的には最悪の場所です。おまけにキーティング前哨基地の存在はタリバンや密輸業者からは邪魔でしかなく、2006年の基地開設とほぼ同時に絶え間なく攻撃されることになるのです。

『アウトポスト』© OUTPOST PRODUCTIONS, INC 2020

兵士の日常(「この野郎! 俺の女房の写真で〇〇〇!!」のシーンが筆者は大好きです)を引き裂くように始まる銃撃戦からも、攻撃の主導権はタリバンにあったことが分かります。その頂点が、2009年10月3日の大攻勢だったわけです。兵士の日常描写では、糞尿をディーゼル油で焼却処分する時に、燃焼加速剤として迫撃砲の発射薬を使うシーンもナイス。銃砲弾の発射薬は密閉・圧縮された状態でなければマッチのように燃えるだけなのです。

『アウトポスト』© OUTPOST PRODUCTIONS, INC 2020

観客を引きずり込む戦闘シーン

クライマックスの大バトルは「迫力」の一言。それも、やたらと爆発して動き回るだけの凡百な戦闘シーンとは次元を異にする、あたかも自分が現場にいるかのような臨場感と緊迫感で、その見事な構成力に感服です。

『アウトポスト』© OUTPOST PRODUCTIONS, INC 2020

タリバンが雨霰(あめあられ)と撃ち込んでくるカラシニコフや機関銃、そしてRPG対戦車擲弾によって前哨基地の迫撃砲や機関銃、車両が潰されていき、そこをM4カービンと弾薬を手にした兵士が走り回る状況が、繰り返し鑑賞することで、誰が・どこで・何をして・どうなったか、立体的に把握できるのです。

そしてさらには、タリバンは中距離銃撃戦に終始したため結局はアメリカ軍の火力で制圧されてしまったことも理解できるのです。実際、タリバンが例えば『デンジャークロース』(2018年)の北ベトナム軍のように損害覚悟で組織的に突撃して近接戦闘に持ち込んでいたら、キーティング前哨基地は陥落していたろうと筆者は考えています。そこには、現地の人々の“気質”というか“文化”の違いがあるのかもしれません。

『アウトポスト』© OUTPOST PRODUCTIONS, INC 2020

一方で、多数の敵に完全包囲されながらもなお戦意を喪失しないアメリカ兵たちの“気質”にも、ある意味で感心してしまいます。

飛び交う銃弾と破片の恐ろしさ、AH-64アパッチ攻撃ヘリコプターやB-1B爆撃機による近接支援爆撃の威力、「俺たちの守り神、迫撃砲」、「M240機関銃を」、「50口径(0.50インチ=12.7㎜)の弾がない」、「M203(口径40㎜のグレネードランチャー)を使え」などの歩兵火力戦の要素もマシマシで描かれていて、これは必見です!

文:大久保義信

『アウトポスト』はCS映画専門チャンネル ムービープラスで2022年7月放送

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『アウトポスト』

アフガニスタン北東部のキーティング前哨基地。米軍の補給経路を維持するための重要拠点とされていたが、基地として致命的な欠陥が存在していた。四方を険しい山に囲まれた谷底にあり、敵に包囲されれば格好の的となってしまうのだ。そして、ついに恐れていたタリバン兵の総攻撃が開始される……。

監督:ロッド・ルーリー

出演:スコット・イーストウッド
   ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ
   オーランド・ブルーム

制作年: 2020