女性の生きづらさ描く『三姉妹』イ・スンウォン監督が語る「家父長制と教会文化」 ムン・ソリ、キム・ソニョンら熱演

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ライター:石津文子
女性の生きづらさ描く『三姉妹』イ・スンウォン監督が語る「家父長制と教会文化」 ムン・ソリ、キム・ソニョンら熱演
『三姉妹』©2020 Studio Up. All rights reserved.

幼い頃の父親からの虐待に対し、声を上げる女性たちを描いた映画『三姉妹』。韓国の厳格な家父長制度の下での、女性の生きづらさを辛辣、かつユーモアを盛り込んで描き切った、見事な人間ドラマだ。

『三姉妹』©2020 Studio Up. All rights reserved.

長女役キム・ソニョン(『愛の不時着』[2019年]、『ベイビー・ブローカー』[2022年])、次女役ムン・ソリ(『オアシス』[2002年]、『自由が丘で』[2014年])は、多くの演技賞に輝く名演を見せている。監督であるイ・スンウォンに映画の背景を聞いた。

イ・スンウォン監督

「脚本は俳優たちに相談し意見をもらった」

―素晴らしい作品をありがとうございます。抑圧されてきた女性の心情が見事に描かれていると思いますが、三姉妹の気持ちを理解する上で、何か努力やリサーチをされたんでしょうか? それとも自然に生まれた物語なのでしょうか?

私自身は、女性の気持ちや、女性の感情を深く理解しているわけではないと思っています。ただ私ができることは、自分がこの状況を自分なりに考えたら、どんな感情を覚えるのかということに集中して物語を作っていったんです。そして物語の持っている真実、リアリティ、誰でも一度は経験するであろう状況を描写してみました。私が書いたものを、俳優さんたちがしっかりと、そのキャラクターの気持ちを理解し見事に表現してくれたおかげで、観客に気持ちが伝わったのだと思います。

『三姉妹』©2020 Studio Up. All rights reserved.

―脚本をある程度書いた上で、次女役ムン・ソリさんと長女役キム・ソニョンさんと話し合ったそうですが、具体的に教えていただけますでしょうか。

基本的には私が書いたシナリオを、まず俳優さんたちに読んでもらいました。その後、それぞれのシーンについていろいろ話し合ったんです。このシーンでは何が大切なのか、このシーンは必要ないのではないか、といったことを俳優さんたちから指摘してもらい、さらに修正案も出してもらいました。それを見てまた私が脚本を直し、持ち寄って一緒に相談していくというようなやり方を通して、どんどん修正していったんです。

ディテールやセリフに関しては直前まで話し合いを重ねて、直していきました。私としてはできるだけオープンにして、話ができるように、そして俳優さんたちが肩の力を抜いて楽に演技できる環境を作るように努めました。

『三姉妹』©2020 Studio Up. All rights reserved.

「複雑な人物像を俳優たちが作り上げてくれた」

―主人公というべき次女ミヨンを演じたムン・ソリさんは、共同プロデューサーも兼ねています。初期の段階から関わったそうですが、ムン・ソリさんのこの映画における役割を教えてください。

ムン・ソリさんはシナリオを読んでいち早く、この映画は実現させないと、と強い意志を見せてくれました。ただシナリオはあっても、なかなか制作費が集められなくて、かなり時間がかかってしまったんです。その中で、ムン・ソリさんが一肌脱いでくれて、資金を集めるために色々と助けてくれました。そこで最初からのプロデューサーが、彼女に共同プロデューサーとして参加していただけませんか、とお願いしてみたところ、快く引き受けてくれたんです。

それ以降は、キャスティングに関しても俳優さんとの話し合いに自ら行ってくれたり、本当に努力をしてくれました。他にもこの映画を実現させるため、出資者や協力者を探してくれたり、本当にたくさんの役割を担ってくれました。宣伝にも一番協力してくれましたし、三姉妹の中で実年齢は一番上なので、妹たちというか、他の俳優さんたちの面倒も本当によく見てくれましたね。この映画の完成を私以上に期待してくれたのがムン・ソリさんなんです。

『三姉妹』©2020 Studio Up. All rights reserved.

―キム・ソニョンさん演じる長女ヒスクは、いつも半笑いをしていますよね。ものすごく辛い状況にあっても、ニヤニヤしている。あれはとてもリアリティーがありました。深刻な状況で辛い顔をする映画が多い中で、あれは監督の演出だったのでしょうか? それともキム・ソニョンさんの演技プランだったのでしょうか?

実は脚本を書いている時点から考えていました。自己肯定感が低い人というのは、どんな風に笑うんだろうと考えてみたんです。同じ笑い/微笑といっても人によってそれぞれに違います。自信満々な人は豪快に笑ったりしますが、一方、自己肯定感が低くて萎縮している人は、自分を防御するために笑うところがある。笑うことで、自分に自信がないのを隠しているわけですね。

ヒスクはそういうキャラクターだと思ったのでシナリオ上でもそう書いてはいたのですが、キム・ソニョンさんがそれをしっかり理解して、さらに立体的に肉付けをして演じてくれました。ありがちな、ただ単に悲しくて深刻な表情ではなく、卑屈な部分も見せられる、そういう複雑な人物像を彼女が作り上げてくれたんです。彼女の半笑いがあったからこそ、観る人はより辛く、悲しく感じられたのではないでしょうか。

『三姉妹』©2020 Studio Up. All rights reserved.

―とても素晴らしいキャラクターであり、演技だと思います。キム・ソニョンさんは本当にカメレオン俳優ですね。『愛の不時着』での人民班長とは別人のようでした。監督とは実生活でご夫婦だそうですが、長女役はキム・ソニョンさんを意識して書かれていたんでしょうか?

いつも戯曲やシナリオを書くときには、キム・ソニョンさんにはどんな役をやってもらおうかなと思って書いているんですが、実は『三姉妹』の第一稿では、三女の役を彼女に考えていたんです。でもムン・ソリさんやキム・ソニョンさんと色々と相談していく中で、長女をやった方がうまくできるんじゃないか? という話が持ち上がって、本人もそれが良いと。それで三女は別に探そうということになりました。

『三姉妹』©2020 Studio Up. All rights reserved.

―三女ミオク役のチャン・ユンジュさんは、人気司会者でトップモデル、映画は演技デビューの『ベテラン』(2015年)以来ですね。

チャン・ユンジュさんは結婚、出産を経て、ひさしぶりに演技復帰しようと考えていらしたタイミングでした。以前から非常に明るい、華やかなイメージがあったため、どうしてもそういう役のオファーが多く、ご本人はもっと深みのある物語の映画に出たいという気持ちが強かったそうです。今回、その意味ではぴったりと合致したわけです。ただ出演はしたいけれども、複雑な役をうまく演じられるかどうかと最初は悩んでいらっしゃいました。私はなんでも協力しますと伝えましたし、さらにムン・ソリさんやキム・ソニョンさんが、常にそばにいて助けてあげますから、と言ってくださったんです。それで決心してくれました。

『三姉妹』メイキング ©2020 Studio Up. All rights reserved.

―そのユンジュさんが演じたミオクは劇作家でスランプに陥り、酒に溺れ人間関係もぐちゃぐちゃです。監督も演劇出身だそうですが、あの役はご自身が見たり経験したことが下敷きになっているのでしょうか?

私はキャラクター造形をする時には、必ず周りにいる何人かの人物の行動や言葉などを組み合わせて、人物像を作っていきます。今回の登場人物の中では、ある意味でミオクが一番魅力的だったかもしれないですね。シナリオを書いていても、一番楽しかったです。

ミオクはどんな行動をしても許されるようなキャラクターだったので、状況設定にも制限がなく、色々と面白い設定を思いつきました。ちょっと意外な行動をすると、さらに魅力的に見えると思いましたし、観客も彼女に対して哀れみを感じたり、憎みきれない人物だと思ってくれたのではないでしょうか。ただ俳優さんとしては、シナリオの時点ではあまり好感を持てない人物に見えてしまって心配だったかもしれません。でも、この三女は愛すべきキャラクターなんですよ、とチャン・ユンジュさんにも伝えて、思い切り楽しんで演技をしてもらいました。

『三姉妹』©2020 Studio Up. All rights reserved.

「表向き平静を装う姿は、キリスト教文化の持つ二面性と重なる部分がある」

―この一家は敬虔なキリスト教の信者で、ムン・ソリさん演じる次女ミヨンは特に教会活動(筆者注:韓国で“教会”と言うときは主にプロテスタントを指す)にのめり込んでいます。韓国におけるキリスト教文化が映画の背景に関係しているので、日本の観客のために少し説明していただけますか?

韓国ではキリスト教文化が非常に一般的なものになっています。教会に通う人たちも多いですし、神に対する依存度が強い人も多いですね。ごく普通の人たちが、人生に生きづらさを感じたときには教会に行ってお祈りをして、信仰生活に頼るということもよくあります。だから韓国には大小様々、本当にいろいろな教会があちこちにあります。これは韓国においては非常に本質的な姿であり、とても人間的な姿だと思います。大きな問題が起きたときには神を訪ね、自分の人生を改善しようとする、そういう努力をすることは珍しくないんです。

次女ミヨンは、心に深く傷を負っています。長女も三女も傷ついているのですが、中でも次女は二人を引っ張っていかねば、という責任感が非常に強かった。そういう辛い状況の中で、彼女は神の力に頼って生きていくことを子供の頃から会得していたので、あのような設定になっています。韓国ではキリスト教文化が非常に盛んで信者が多いため、ミヨンの姿を見て共感し評価してくれた人も多かったんです。

『三姉妹』©2020 Studio Up. All rights reserved.

―でも次女ミヨンは教会によって、あまり救われているようには見えません。完璧なようで、実はマグマのようなものを抱えた女性ですよね。監督はクリスチャンだそうですが、信徒がただ教会に尽くすだけでは救われないのだという、客観性、批評性を感じました。

私も教会に通っていますが、私が思う教会文化の特徴であり、同時に教会内部で改善しなければいけない点を、この映画に盛り込んだんです。ミヨンは自分の防御のためにキリスト教を信じている。彼女は表向きは平気なふりをしていますが、実は心の中はそうではない。この二面性は、キリスト教文化の持つ二面性と重なる部分があるんです。というのも、教会というのは本来、罪のある人が行くところなんです。ところが、実際に教会に通う人たちは全く罪など犯していないような顔をして、内面を隠して上部だけの姿を見せているような気がするんです。一方、教会に通う人を否定的に見る人は、なぜ教会に通っているのに良くない行動をするのか、と批判するわけです。

でも私からすると、教会文化にも二面性があるからなのだと思います。罪を犯したから教会に行くのに、自分に罪があるということを認めようとしない。自分は罪人ではなく、清い心の持ち主だから教会に通うのだ、と思い込んでいる人たちが多い。教会では、口先で「私は罪を犯しました」と言うことはあっても、なかなか本当に認めようとはしない。でも私は、自分が罪人なのだということを堂々と認めても良いのだと思っています。自分が泥沼にいて、罪を犯したということを堂々と認めて教会に行ってもいいのではないか? という思いがあったので、私なりに考えた教会の二面性というものを表したく、ミヨンをこのような設定にしたんです。

『三姉妹』©2020 Studio Up. All rights reserved.

「映画を観た牧師さんたちから教会が持つ男性主義への反省の声が聞かれた」

―もうひとつ、大きなテーマとして家父長制への批判もあると思います。韓国も日本も、いまだに父親が、男性が強い力を持っている社会で、それに対してようやく女性が声を上げてきたところです。家父長制とキリスト教の教会というのは、やはり重なる部分があるのでしょうか?

おっしゃる通り、家父長制度と教会というのは非常に似ているところがあると思います。教会というのは伝統的な集団ですよね。伝統的な集団や文化は、男性主義がとても強い。教会の牧師は男性がほとんどで、女性はなりにくいという文化がありますし、男性中心の権威主義の象徴的な場所でもあるわけです。

ただ、最近は教会も若返りを図り、家父長制度から脱却していこうと努力している教会も多く見られます。韓国での公開時、映画を観た牧師さんたちから反省の声が聞かれたんです。教会は実人生を生きている人たちを癒していかなければいけないし、映画が示した教会の問題を踏まえて、もっと良くしていきたい、という感想をくださった牧師さんもいました。今は教会も変化の時期だと思いますし、男性主義、伝統主義を改めようという声も聞かれるので、今後さらに進んで欲しいと思っています。

『三姉妹』メイキング ©2020 Studio Up. All rights reserved.

―それは教会だけでなく、社会全体にも、ということでしょうか。

はい、そうですね。

―最後に一つ教えてください。映画の中で三姉妹には、弟がいます。この弟と、実は母親が違う長女ヒスクだけが父親から酷い暴力を受けていたわけですが、弟はなぜ虐待されたのでしょう? 彼も母親が違うのでしょうか?

長女は父親が外に作った子供で、それを引き取ったという設定です。でも弟は母親違いではありません。実は、韓国の家庭では男の子を望む気持ちが強いあまりに、長男をあえて厳しく躾けることがあるんです。弟はその被害者なんです。

『三姉妹』メイキング ©2020 Studio Up. All rights reserved.

取材・文:石津文子

『三姉妹』は2022年6月17日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次公開

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『三姉妹』

韓国・ソウルに暮らす三姉妹。

長女ヒスクは別れた夫の借金を返しながら、しがない花屋を営んでいる。一人娘のボミは冴えないパンクバンドに入れあげ、反抗期真っ盛り。元夫からお金をせびられ、娘に疎まれても、“大丈夫なフリ”をして日々をやり過ごす。

次女ミヨンは熱心に教会に通い、聖歌隊の指揮者も務める模範的な信徒。大学教授である夫と一男一女に恵まれ、高級マンションに引っ越したばかり。しかし、夫の裏切りが発覚し“完璧なフリ”をした日常がほころびを見せ始める。

三女ミオクはスランプ中の劇作家。食品卸業の夫と、夫の連れ子である中学生の息子の3人で暮らしているが、自暴自棄になって昼夜問わず酒浸りの毎日。“酔っていないフリ”をして息子の保護者面談に乗り込んでしまう。

三人揃うことはほとんどない姉妹だが、父親の誕生日会のために久しぶりに帰省し一堂に会することに。牧師様も同席し、祈りが捧げられる時、思いもよらぬ出来事が起きる。そして、三人はそれまで蓋をしていた幼少期の心の傷と向き合うことになる――。

監督・脚本:イ・スンウォン

出演 ムン・ソリ キム・ソニョン チャン・ユンジュ
   チョ・ハンチョル ヒョン・ボンシク

制作年: 2020
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