時代劇初挑戦のソル・ギョング「学びとは、受け入れること」『茲山魚譜-チャサンオボ-』監督への感謝と撮影秘話

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ライター:石津文子
時代劇初挑戦のソル・ギョング「学びとは、受け入れること」『茲山魚譜-チャサンオボ-』監督への感謝と撮影秘話
ソル・ギョング

ソル・ギョングが実在の天才学者を演じる

19世紀初頭、カトリック迫害で島に流されても新しい学びを得ようとする天才学者と、彼に協力する若い漁師の友情を描いた映画『茲山魚譜-チャサンオボ-』。海洋生物学書「茲山魚譜」誕生の背景にあった美しく胸をうつ物語で実在の学者チョン・ヤクチョンを演じるのは、意外にも朝鮮王朝時代の人物を演じるのは初めてというソル・ギョング(『殺人者の記憶法』[2017年]ほか)だ。本木雅弘らと共演した『聖徳太子』(2001年/NHK)が先日再放送され、その演技力に再び注目の集まる名優に話を聞いた。

『茲山魚譜-チャサンオボ-』ⓒ 2021 MegaboxJoongAng PLUS M & CINEWORLD. ALL RIGHTS RESERVED.

「自分が朝鮮王朝時代の人物に見えるか自信がなかった」

―初めて時代劇に挑戦しようと思った理由をお聞かせください。

挑戦とおっしゃいましたが、挑戦とまではいかなかったように思います。もちろん時代劇は初めてで、一度やってみなくては、と思ってはいました。今までもお話はあったんですが、「また次の機会に」と言ってお断りして、先送りしてきたんです。でも私もいつの間にか歳を重ねてきて、そろそろやらなくてはな、と思うようになってきました。時を同じくしてイ・ジュニク監督(『金子文子と朴烈』[2017年]ほか)から『茲山魚譜-チャサンオボ-』の脚本を渡されたんです。監督とは『ソウォン/願い』(2013年)でご一緒していましたし、監督のことを信じて、この作品ならばと思えました。結果的に、イ・ジュニク監督の作品で初めて時代劇をやれたことは良かったと思います。

『茲山魚譜-チャサンオボ-』ⓒ 2021 MegaboxJoongAng PLUS M & CINEWORLD. ALL RIGHTS RESERVED.

―作品にも、演技にもとても感銘を受けました。いつものソル・ギョングさんとは声も違っているように思えるほどでしたが、苦労した点は何かありましたか?

初めての時代劇ということで、苦労したというよりも、まず自分自身への疑問があったんです。朝鮮王朝時代の人ですから、髭があり、黒い帽子を被って、礼服を着ている。その姿が自分にきちんとこなせるだろうか、それらしく見えるだろうか、ということに自信がなかったんですが、イ・ジュニク監督がテスト撮影のときに「すごく良いよ!」と言ってくれたんです。イ・ジュニク監督は俳優のダメなところを指摘するのではなく、本当にどんな俳優のことも褒めてくれるんですよ。おかげで勇気を持つことができましたし、監督を信じていけばいいんだなと思えて、気を楽に持って撮影にのぞむことができました。共演者の方々もとても気が合う人たちでしたし、撮影場所の大自然の素晴らしい空気、景色から良いエネルギーをもらい、おかげで清らかな気持ちで撮影できたんです。

『茲山魚譜-チャサンオボ-』ⓒ 2021 MegaboxJoongAng PLUS M & CINEWORLD. ALL RIGHTS RESERVED.

「一度イ・ジュニク監督と仕事をすると、みんな彼のことが好きになる」

―この映画は学ぶことの意義、そして学びへの考えの違いが大きなテーマになっていると思いますが、ソル・ギョングさんご自身は「学ぶこと」をどのようにお考えですか?

この映画では、どんな人でも自分にとっての師匠になり得る、ということが描かれています。当時は身分社会、階級社会でした。そんな中で主人公のチョン・ヤクチョンは文明の、そして学ぶことの本当の価値をわかっていた。彼は当時にしてはとても革新的な考えを持っている人で、それを流刑された地である黒山島(フクサンド)で、島の漁民たちと実践していました。だからこそ人々に認められたのではないか、と思います。

『茲山魚譜-チャサンオボ-』ⓒ 2021 MegaboxJoongAng PLUS M & CINEWORLD. ALL RIGHTS RESERVED.

私自身は作品に臨むたびに、毎回学びを得ているな、と感じます。具体的なことを何かを学ぶというよりは、映画というのは作品ごとに毎回新しい現場なわけで、監督との出会いはもちろん、俳優、スタッフと多くの人と関わる。そうした人たちの姿を見て、触れ合い、多くのものを吸収していくわけです。監督もそうですが、役者も同じ現場にいてもアプローチはさまざまなので、本当に作品に関わるごとに学びがあります。撮影が終わると、監督にメッセージを送ったりするんですが、そこにも「ありがとうございました。学ばせていただきました」と書くんです。

考えてみれば、新しいことを受け入れることが学びなのではないか、と思いますね。凝り固まった考えではなく、本当に開かれた心でいれば、自然と新しいことを受け入れることができる。それが学びではないかと思います。

『茲山魚譜-チャサンオボ-』ⓒ 2021 MegaboxJoongAng PLUS M & CINEWORLD. ALL RIGHTS RESERVED.

―特に今回、『茲山魚譜-チャサンオボ-』でイ・ジュニク監督から学んだことはありますか? もしくは、印象に残っていることがあれば教えてください。

イ・ジュニク監督は、前回ご一緒した『ソウォン/願い』の時と作品は全く違えど、その姿勢は変わっていません。『ソウォン/願い』はとてもつらい内容を含んでいて大変な部分もあったのですが、監督はカメラが回っていない時には現場を良い雰囲気にしようとしてくれました。

『茲山魚譜-チャサンオボ-』ⓒ 2021 MegaboxJoongAng PLUS M & CINEWORLD. ALL RIGHTS RESERVED.

今回は、カメラのオンもオフもとても良いムードでしたね。現場は良い雰囲気であるべき、と監督は考えていて、たとえ新人のスタッフに対してもとても気さくに声をかけ、権威を振り回すことは決してないんです。同時にリーダーとしても大きな役割を果たしていて、とてもエネルギッシュ。そのエネルギーがみんなに伝わるんです。だから一度イ・ジュニク監督と仕事をすると、みんな監督が好きになるし、私も後輩たちに会うと「一度、イ・ジュニク監督とやってみるといいよ」と勧めているんです。それほど監督というのは魅力のある人で、少年みたいなんです。いつも走り回っていて、歩いているところを見たことがないくらい(笑)。

ひとつ監督の面白いエピソードを披露すると、監督はすごく入りこんでしまうので、本番ではなくリハーサルの時に「オッケー。じゃあ次のシーンに行こう!」と言ってしまい、みんなから「監督、まだ本番撮ってませんよ!」と声をかけられていました(笑)。そして、役者の演技を見て一緒に泣いてしまうようなところもあるんです。とても魅力的な人なんですよ。

『茲山魚譜-チャサンオボ-』ⓒ 2021 MegaboxJoongAng PLUS M & CINEWORLD. ALL RIGHTS RESERVED.

「演者同士よく知り合うことが息の合った演技につながる」

―お互いに学び合う仲となる漁師チャンデ役のピョン・ヨハンさん(『太陽は動かない』[2020年]ほか)、面倒見の良いカゴ役のイ・ジョンウンさん(『パラサイト 半地下の家族』[2019年]ほか)と、ソル・ギョングさんの間のケミストリーが素晴らしいと思いました。これは自然に生まれたものなのか、それとも何かそのために努力や工夫をされたりしたのでしょうか?

そう言っていただけて嬉しいです。人と人の相乗効果やケミストリーというものは、作品の中のみで出すのは難しい部分があるとは思います。やはり普段の生活のなかで、お互いに感じるところ、通じ合えるところがあってこそ、現場にも反映できるのかなという気がしています。お互いによく知り合うことが演技でも息が合うことにもつながると私は思います。ですから製作に入る前にピョン・ヨハンさんとは色々と話をしましたし、撮影が島で行われたこともあって、連帯感が生まれたと思います。

『茲山魚譜-チャサンオボ-』ⓒ 2021 MegaboxJoongAng PLUS M & CINEWORLD. ALL RIGHTS RESERVED.

実は島での撮影中に、強い大きな台風が3回も襲ってきたんですよ。万が一に備えてほとんどのスタッフは一旦ソウルに戻ったんですが、私とピョン・ヨハンさんはそのまま島に残ることにしました。島にとどまって台風の間中、ある意味で風流を楽しむといいますか、お昼の12時に会って夜中に別れるということを繰り返したんです。音楽を聴きながらいろんな話をしたり、夜は軽く飲みながらまた話をする、という日々でした。そんなふうに一緒に時間を過ごして、台風をやり過ごしたんです。その時間がピョン・ヨハンさんとのとても大切な時間となりました。

一方、イ・ジョンウンさんは大学の後輩でもあり、彼女とは学生の頃からすごく親しくしているんです。大学を卒業して演劇の世界に入ってからも、何度も共演しました。本当に親しい仲間なので、わざわざ撮影前に会うことはしませんでした。むしろ、あんまり気心が知れすぎているので大丈夫かな、というくらいだったんですよ(笑)。彼女は本当に頼もしい存在で、今回もそばにいて手助けをしてくれました。

『茲山魚譜-チャサンオボ-』ⓒ 2021 MegaboxJoongAng PLUS M & CINEWORLD. ALL RIGHTS RESERVED.

―本当に今日は素晴らしいお話を聞けて良かったです。健康をお祈りしています。カムサハムニダ。

(日本語で)ありがとうございます。お元気で。

ソル・ギョング

取材・文:石津文子

『茲山魚譜-チャサンオボ-』は2021年11月19日(金)よりシネマート新宿、シネマート心斎橋ほか全国順次公開

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『茲山魚譜-チャサンオボ-』

1801年、朝鮮時代――第22代国王・正祖(チョンジョ)亡き後を継いだ幼き王、純祖(スンジョ)に変わり曾祖母の貞純(チョンスン)王后が権力を握ると、天主教(カトリック)に対する迫害を行い、正祖の側近たちを追放した。熱心なカトリック教徒であった天才学者 丁若銓(チョン・ヤクチョン)も黒山島(フクサンド)に配流される。突然現れた都会の香りのする知識人の若銓に戸惑いながらも、あたたかくもてなそうとする島民たち。生活は貧しいが、多くの海洋生物が生きる豊かな海と美しい自然、何より素朴で親切な人々に出会い心がほどけていく若銓。次第に深遠な海の生き物たちの魅力にとりつかれ、庶民のための“海洋生物学書”を書き記したい欲望が生まれていく。島民の中に誰より海の生き物に詳しい若き漁夫・昌大(チャンデ)がいることを知った若銓は、学問を教える代わりに海についての知識を自分に伝授するよう取引を持ちかける……。

制作年: 2021
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