映画を撮る上で一番養分を与えてくれた国が日本です――『チャンシルさんには福が多いね』の新鋭キム・チョヒ監督インタビュー到着!

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ライター:石津文子
映画を撮る上で一番養分を与えてくれた国が日本です――『チャンシルさんには福が多いね』の新鋭キム・チョヒ監督インタビュー到着!
『チャンシルさんには福が多いね』© KIM Cho-hee All RIGHTS RESERVED/ ReallyLikeFilms

『はちどり』(2018年)のキム・ボラ、『82年生まれ、キム・ジヨン』(2019年)のキム・ドヨンら新風を巻き起こす女性監督たちの台頭が著しい韓国映画界。その最前線に立つキム・チョヒ監督による待望の長編デビュー作『チャンシルさんには福が多いね』が、2021年1月8日(金)より公開となる。映画に青春を捧げてしまった八方塞がりなアラフォー女子チャンシルさんに、突如として訪れた恋の予感……。さらに引越し先には、自称香港の大スター、レスリー・チャンまで現れる。果たしてチャンシルさんに2度目の青春、そしてラッキー・チャンスは訪れるのか?

『チャンシルさんには福が多いね』© KIM Cho-hee All RIGHTS RESERVED/ ReallyLikeFilms

第24回釜山国際映画祭3冠達成をはじめ、多くの賞に輝いた本作。個性的なタイトルは原題も同じで、英語題は『Lucky Chan-sil』という、これまた福々しいタイトル。キム・チョヒ監督は長年ホン・サンス監督作品のプロデューサーを務めており、『自由が丘で』(2014年)などホン・サンス映画の常連であるユン・ヨジョンが風変わりな大家さん役で映画を支えている。また「愛の不時着」(2019年)の耳野郎で人気のキム・ヨンミンが、『欲望の翼』(1990年)のレスリー・チャンになりきって画面をさらう。小津安二郎を敬愛するというキム・チョヒ監督の映画愛は、リモート・インタビューでも熱く伝わってきた。

『チャンシルさんには福が多いね』キム・チョヒ監督

「自叙伝ではないかと質問されることもありますが、自由に考えていただいて大丈夫です(笑)」

―『チャンシルさんには福が多いね』には非常にいろんな要素が込められていると思うのですが、監督が本作を撮ろうと決意したきっかけを教えてください。

この映画を撮った40歳の時に、十数年間やっていた映画プロデューサーという仕事を失って、生計の心配もありましたし、危機であると直感しました。そんな危機を克服する過程を映画にしようと考えて、その際に暗い映画ではなく、愉快に描くのが自分のためにもなると思ったんです。愉快に描こうとした結果、いろんな要素が映画に詰め込まれたのではないかと思います。

『チャンシルさんには福が多いね』© KIM Cho-hee All RIGHTS RESERVED/ ReallyLikeFilms

―映画を撮るためにプロデューサーの仕事をお辞めになったのでしょうか?

プロデューサーを辞めた理由は一つではありません。自由意志もあれば、他意によるものもあって、複合的な結果でした。

―もともと映画監督志望だったのですか?

チャンスがあればいつでも監督をしたいと思っていました。プロデューサー時代に3本の短編を作りましたし、パリでの留学時代にも4本の短編を作っています。

『チャンシルさんには福が多いね』© KIM Cho-hee All RIGHTS RESERVED/ ReallyLikeFilms

―韓国でも女性監督がここ数年で増えてきたと思いますが、プロデューサー時代を含め、映画業界で女性ということで苦労はありましたか?

今回の作品を撮っている間に辛いことはなかったです。スタッフの多くが女性で、力を合わせて撮ったので、女性であることにハンデは感じませんでした。ただ、ほかの現場では照明やカメラといった技術職の分野で、女性の進出が遅れている現実があります。衣装や小道具、スクリプターとして映画に関わっている女性はいますが、フィジカルで劣るという偏見のために進んでいない分野もあって、その点が改善されることを願っています。

『チャンシルさんには福が多いね』© KIM Cho-hee All RIGHTS RESERVED/ ReallyLikeFilms

―本作にはプロデューサー時代のご自身の経験が反映されているのでしょうか?

自分の経験と映画が完全に一致するとも言えるし、違うとも言えます。登場人物を設定する際に、自分の見たこと感じたことを土台にするので、その意味では自分の経験に基づいていますが、映画はそれだけでは作れませんよね。出会っていく事件、積み重なっていくストーリーは、自分の個人的な経験だけでは通用しないと思います。プロデューサーという共通点から、自叙伝ではないかと質問されることもありますが、自由に考えていただいて大丈夫です(笑)。

『チャンシルさんには福が多いね』© KIM Cho-hee All RIGHTS RESERVED/ ReallyLikeFilms

「映画を好きになったのは、レンタルビデオ店のアルバイトを6年間やっていたことが大きい」

―レスリー・チャンを名乗る人物が出てきたり、主人公が小津安二郎への愛を語るなど、随所に映画への愛を感じられる作品でした。監督ご自身が映画を好きになったきっかけを教えてください。

映画を好きになったきっかけは、レンタルビデオ店のアルバイトを6年間やっていたことが大きいですね。高校を出てから親の援助を受けることなく大学に進学したので、レンタルビデオ店でアルバイトを長くすることになったんです。クエンティン・タランティーノ監督の16年間には及ばないですが、6年ほど働いていました。アルバイトを始めたころはそれほど映画好きというわけではなかったんですが、仕事の都合でたくさん映画を観ることになりました。時間を持て余して棚に並んでいる作品を端から順に観ていたので、ジャンルを選ばずに映画を観るのはそのせいですね。

『チャンシルさんには福が多いね』© KIM Cho-hee All RIGHTS RESERVED/ ReallyLikeFilms

最初は商業映画が好きだったんですが、観ているうちに「自分はこういう映画が好きなんだ」とピンと来たのが、エミール・クストリッツァ監督の『ジプシーのとき』(1989年)だったんです。尊敬している監督は小津安二郎です。最近ではフィンランドのアキ・カウリスマキの影響を受けているのも感じます。

『チャンシルさんには福が多いね』© KIM Cho-hee All RIGHTS RESERVED/ ReallyLikeFilms

―素晴らしいキャスティングについて教えてください。

カン・マルグムさんが演じるチャンシルはプロデューサーという役ですが、有名な女優を使ってしまうとリアルでなくなってしまうので、あまり顔が知られていない人を選びました。大家さん役のユン・ヨジュンさんの場合は、私がつらい時期に手を差し伸べてくれた恩があるんです。キム・ヨンミンさんに関しては、顔の作りが香港俳優っぽかったからですね。だからヨンミンさんは、他の香港の俳優さんでも似合うと思います。サモ・ハン・キンポーさん以外であれば(笑)。

―公開を楽しみにしている日本の観客に一言おねがいします。

私の一番尊敬する監督の国で上映されることを嬉しく思います。向田邦子や夏目漱石も好きで、自分が映画を撮る上で一番養分を与えてくれた国が日本です。日本のみなさんとお会いできることを楽しみにしています。

『チャンシルさんには福が多いね』キム・チョヒ監督

取材・文:石津文子

『チャンシルさんには福が多いね』は2020年1月8日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国公開

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『チャンシルさんには福が多いね』

ずっとプロデューサーとして支えてきた映画監督が、打ち上げ宴会中に心臓発作で急死。これを機に失職して、何もかも失ってしまったチャンシルさん。映画だけに捧げてきた人生、気がつけば男も子供も家もなし、もちろん青春なんていまいずこ。そんな八方塞がり、アラフォー女子のチャンシルさんに、ある日突然、思わぬ恋の予感が……。

制作年: 2019
監督:
出演:
  • BANGER!!!
  • 映画
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