1万6千本観た男が時空を超えて映画を繋ぐ!『ストーリー・オブ・フィルム 111の映画旅行』マーク・カズンズ監督インタビュー

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ライター:松崎健夫
1万6千本観た男が時空を超えて映画を繋ぐ!『ストーリー・オブ・フィルム 111の映画旅行』マーク・カズンズ監督インタビュー
マーク・カズンズ監督『ストーリー・オブ・フィルム 111の映画旅行』©Story of Film Ltd 2020

「映画」を紐解く

映画におけるデジタル化の影響で、映画界や作品を取り巻く環境・手法が激変した2010年代。マーク・カズンズ監督によるドキュメンタリー映画『ストーリー・オブ・フィルム 111の映画旅行』は、2010年を起点にしながら2021年までの12年間に全世界で製作された映画から111本を選び、その相関関係を考察させるという類を見ない作品。その中には『ジョーカー』(2019年)や『マッド・マックス 怒りのデス・ロード』(2015年)といった世界的なヒット作だけでなく、アピチャッポン・ウィーラセタクン監督の『光りの墓』(2015年)やジョニー・トー監督の『冷たい雨に撃て、約束の銃弾を』(2009年)、是枝裕和監督の『万引き家族』(2018年)といったアジアの映画も含まれている。

これまでの人生で1万6千本の映画を鑑賞してきたというマーク・カズンズ監督にインタビューを敢行。ユニークな視点による作品の選び方や、映画そのものに対する考え方についてお聞きした。

『ストーリー・オブ・フィルム 111の映画旅行』©Story of Film Ltd 2020

「映画は“花”と似ている」

「映画は<点>ではなく<線>で観る」とは、僕の映画に対する座右の銘なのだが、『ストーリー・オブ・フィルム 111の映画旅行』には、映画同士の共通点を紡いでゆく“数珠つなぎ” が実践されている。そのことは、この作品にシンパシーを感じた由縁だ。

それは、とても素敵な発想だと思います。映画の作り手というのは、各々が影響し合って、お互いの作品を観る。そうすることによって、映画というものが存在するんです。国境のようなものによって隔たりがあったり、分かれているのではなく、其々は繋がっているものなんですね。

映画同士が其々持ち併せている同じような要素。それを見つけ出すという映画の鑑賞方法を、マーク・カズンズ監督はいつ頃から始めたのだろう。

子どもの頃からですね。私は本を読むのがあまり得意ではなかったんです。だけど映画を観ていると、蝶々が花から花へと飛んでゆくように、ひとつの作品から或る作品へと頭の中で繋がっていったんです。感情の面で繋がりが見えてくる、“メンタルつながり”みたいなものを楽しんでいました。

「映画」=「花」という発想。花には“美しい”、“色鮮やか”という面だけでなく、“毒っ気”があるものまである点で、奇しくも映画と似ている面がある。

それと同時に、全ての花というのは、土とか種とか、同じところから発生するということがありますよね。そういった点では、まさに映画と同じだと思います。

種が飛来することで、新たな芽を生み出す。その点でも映画と花との共通項を見出せる。

それは、見逃せないとても重要な点だと思います。ヨーロッパに日本映画が紹介されるきっかけとなったのは、1951年のヴェネチア国際映画祭で上映された黒澤明監督の『羅生門』(1950年)です。まさにこの現象は、“日本の品種”の種がヨーロッパに来たということですよね。その結果どうなったのかというと、「日本の映画って素晴らしい!」と評価された。ヨーロッパの映画人たちにとって、それまで眼中になかった(見えていなかった)映画が遠くの国から来て、アメリカの映画と同じくらい重要だと思わせた。それが出来るということが、映画の魅力のひとつですよね。

『ストーリー・オブ・フィルム 111の映画旅行』©Story of Film Ltd 2020

「好きなモノクロ映画は今村昌平監督の『にっぽん昆虫記』」

『ストーリー・オブ・フィルム 111の映画旅行』では、映画をジャンルにカテゴライズさせることで共通項を見出そうとしているが、そもそも映画を“分類”することについてマーク・カズンズ監督はどのように考えているのだろう。

私が好きではない“分類”の仕方は、国によって分けることです。それは、映画が“国境なきもの”だと考えているからなんですね。

例えば、SNS上で「#好きなモノクロ映画」というハッシュタグが、映画好きの間で話題となったことがあった。モノクロであるという表層的なイメージで“分類”していることに対して違和感を覚えたのは、モノクロという点だけがピックアップされ、「なぜモノクロという手法を選んだのか?」という作り手の意図を鑑みない姿勢がやや気がかりだったからだ。

私は、映画によって“対話”を生み出したいと考えています。例えば西洋では「これまでで最高の映画は『ゴッドファーザー』(1972年)なのか? それとも『タクシードライバー』(1976年)なのか?」という議論があります。私は、そういった議論を変えたいんですね。そんな時にSNSはとても機能するものだと思える一方で、確かに表層的な議論にもなりやすい一面もありますよね。また、洞察に富んだものだとは言い難い面もある。

もし、誰かが私に「好きなモノクロ映画はなんですか?」と聞いてきたら、今村昌平監督の『にっぽん昆虫記』(1963年)だと答えます。だけど、この映画を知っている人は限られていますよね。だからこそ、そこを起点に発信することで、誰かに“伝える”ことが重要になってくる。SNSだと遊び感覚でできるので「若い人を巻き込んでゆく」という点では、必要なことなのかもしれませんね。

近年は、作品自体がジャンルを横断する“ジャンルレス”な映画がある。ジャンルを“分類”することが難しい作品群については、どう感じているのだろう。

そういった“ジャンル”の壁を超えた映画っていいですよね。ここで非常に重要な問いとなるのは、「クリエイティビティが既成の柵をどれだけ越えられているのか?」そして「カテゴリーが“分類”そのものからどれだけ逃げているのか?」ということ。だから、“ジャンルレス”な映画、或いは“アンチジャンル”な映画というのは、パンクなのでとても好きなんです。

そういう意味で『ストーリー・オブ・フィルム 111の映画旅行』では、マーク・カズンズ監督が他人の監督作品を並べることで、 “モンタージュ”を成立させている点が非常に興味深いのだ。

映画を並べてみると、そこから火花が散るような、或いは、予想もしないような効果が生まれたりするんです。例えば、この映画では是枝裕和監督の『万引き家族』と小津安二郎監督の『麦秋』(1951年)を繋いでいますが、そこからは映画の“構図”を見出そうとしています。もちろん、場合によってはふたつの作品を繋いでも相性が悪かったり、軋轢が生じたりすることもある。それもまた、楽しい要素だと私は考えているんです。

この映画を観ることで「繋がれたどちらの作品も観てみたくなる」という点も重要だ。

やはり映画というのは、芸術においてまだまだ若い表現。だから、映画は野心的な表現だとも言える。映画が好きな人というのは、今の作品も過去の作品も等しく観ているので、ある意味では常に“時空を超えている”ような存在なんです。

『ストーリー・オブ・フィルム 111の映画旅行』では、タイトルにもある通り111本もの映画のフッテージをふんだんに引用しながら、考察を行っているのが大きな特徴。一方日本では、映像の許諾を得るための手続きが煩雑で、同様の作品を製作することが難しいという現実があり、イギリスとの違いを感じさせる。

これは、法律に基づいて“フェアユース”されたものです。イギリスだけでなく、多くの国で適用されています。学術や批評を目的とし、批評を乗せるという前提であれば、映画のごく一部(数秒の映像)を使用することに許諾を必要としないというものです。

『ストーリー・オブ・フィルム 111の映画旅行』©Story of Film Ltd 2020

「どんな映画も“時空を超えて”同じように観ることができる」

昨今、映画についてのドキュメンタリー映画が海外で多く製作されている。その背景には、この“フェアユース”という考え方によって制定された、法律や制度の在り方が大きく影響している。例えば、映画音楽を題材にした『すばらしき映画音楽たち』(2017年)や、映画における音響効果を題材にした『ようこそ映画音響の世界へ』(2019年)など、名作映画のフッテージをふんだんに使用して製作された作品群は、同様の環境によって製作された映画の代表だといえる。

日本の実情はちょっとわからないのですが、私の場合は製作国を理由にすることで適用されているという経緯があります。とはいえ、映像を入手することは製作する側に委ねられているので、大変な作業ではあるんですけど(笑)。

残念ながら日本語訳されたものは出版されていないのだが、「STORY OF FILM」は海外で書籍化されており、そこでは映画と同じように図版(写真)がふんだんに使用されている。日本では“映画本”においても図版に多額の使用料がかかり、昔に比べると文字だけの“映画本”が増えているという傾向がある。著作権が守られているという良い面がある一方で、「この名場面(写真)を見ると、この映画を思い出す」といった記憶の回路が、日本の映画ファンの間でやや失われつつあるという危惧もある。

そうですね、ここには倫理観・道徳といったことも絡んできますよね。私たちには“モラルの権利”がある。つまり“分析をする権利”があるんです。それは悪い意味で批判するということではなくて、映画を讃えるという意味においてです。私がやっていることというのは、映画の“推し食”メニューを提供するような感じなんですね。ちょっと味見をして、その映画に恋をして欲しい。映画のマジックが起きる瞬間を選んで提供しているので、ひとつの映画を観たら、また次の映画を観ることに繋げられると思うんです。

私が映画に関してコメントをする時には、必ず現在形で話すようにしていて。それは、映画を観ている方と私とが一緒に観ている、対話しているような雰囲気を醸し出すためなんです。映画は常に“過去に作られたもの”だという真理があって「死んだ映画」という言い方もありますけど、どんな映画も“時空を超えて”同じように観ることができるのも事実なんです。

『ストーリー・オブ・フィルム 111の映画旅行』©Story of Film Ltd 2020

現在、日本では年間約1200本もの映画が公開され、すべての作品を観ることは不可能な状況にある。「死んだ映画」や「時代の風雪に耐えられない映画」が増えてゆくことに対して、マーク・カズンズ監督はどう感じているのだろう。

実はイギリスでも毎週40本近くの新作が公開されていて、“死んでしまう”或いは“埋もれてしまう”映画がどんどん増えています。でも、それで映画の寿命が終わってしまうのかというと、そうではなくて。かつては、劇場での上映が終わったら映画は死んだも同然でした。今は違いますよね。映画の“死後の世界”というか、“第二の人生”があるわけです。時には“第二の人生”で居場所を得る場合もある。だから、一度死んだとしても、永久の死ではないと言えるはずなんです。

『ストーリー・オブ・フィルム 111の映画旅行』©Story of Film Ltd 2020

取材・文:松崎健夫

『ストーリー・オブ・フィルム 111の映画旅行』は2022年6月10日(金)より新宿シネマカリテほか全国順次公開

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『ストーリー・オブ・フィルム 111の映画旅行』

ドキュメンタリー監督として20年以上のキャリアを持ち、映画に関する著書も複数発表、さらにイギリスの映画解説番組「Scene by Scene」でMCを務め、映画祭のプログラマーを担当した経験を持つ北アイルランド・ベルファスト生まれのマーク・カズンズ。本作では監督/ナレーションを務め、映画をマルチな視点で捉える彼だからこそ成しえる映画表現で、過去10年の間に製作された111作品を紐解いていく。登場作品には、『アナと雪の女王』、『ジョーカー』等のメジャー大作から、アピチャッポン・ウィーラセタクン監督作『光りの墓』、アリ・アスター監督作『ミッドサマー』等のインディペンデント作品まで、古今東西・ジャンル問わず、世界中の映画が集結! 興行成績、賞レース、スターのゴシップに囚われない、映画製作における表現手段を丁寧に解説しながら新たな発見を探求します。

監督・撮影・ナレーション:マーク・カズンズ
編集:ティモ・ランガー

制作年: 2021
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