スピルバーグ、ルーカス、ノーランに問う!『ジェームズ・キャメロンのSF映画術』 “異星人襲来”が示す現実世界の恐怖とは?

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ライター:松崎健夫
スピルバーグ、ルーカス、ノーランに問う!『ジェームズ・キャメロンのSF映画術』 “異星人襲来”が示す現実世界の恐怖とは?
『ジェームズ・キャメロンのSF映画術』© 2018 AMC Film Holdings LLC. All Rights Reserved.

映画監督×映画監督が導き出す映画製作の真髄

映画監督に映画監督がインタビューを試み、演出の意図や秘密を引き出してゆく。そういった形式の書籍には、名著と呼ばれるものがいくつかある。例えば、『大人は判ってくれない』(1959年)のフランソワ・トリュフォー監督が、“サスペンス映画の神様”と呼ばれたアフルレッド・ヒッチコック監督を取材した「定本 映画術 ヒッチコック/トリュフォー」(晶文社・刊)。『ラスト・ショー』(1971年)のピーター・ボグダノヴィッチ監督が、4度のアカデミー監督賞に輝くジョン・フォード監督を取材した「インタビュー ジョン・フォード」(文遊社・刊)。『あの頃ペニー・レインと』(2000年)のキャメロン・クロウ監督が、“コメディ映画の名手”とも称されるビリー・ワイルダー監督を取材した「ワイルダーならどうする? ビリー・ワイルダーとキャメロン・クロウの対話」(キネマ旬報社・刊)などは、その代表である。

自伝として自らの映画人生を語るのではなく、若手監督が先人に教えを請うという関係性。そこに横たわる、ある種の信頼関係よって作品の真髄に迫り、演出論を引き出すという構成は、互いが映画監督同士であるからこそのものだと言える。

『ジェームズ・キャメロンのSF映画術』© 2018 AMC Film Holdings LLC. All Rights Reserved.

SF映画史を解き明かさんとするキャメロンの試み『SF映画術』

ビリー・ワイルダーには、自身の人生を綴った「自作自伝」(文藝春秋・刊)という書籍もあるが、聞き手のヘルムート・カラゼクはジャーナリストであるという違いがある。とはいえ、先に挙げた三例は、フランソワ・トリュフォーとピーター・ボグダノヴィッチが映画評論家・批評家の出身、キャメロン・クロウが音楽ライター出身だという彼らのバックグラウンドが関係していることも指摘できる。

『ジェームズ・キャメロンのSF映画術』© 2018 AMC Film Holdings LLC. All Rights Reserved.

その点で、『ターミネーター』(1984年)や『アバター』(2009年)のジェームズ・キャメロン監督が、『未知との遭遇』(1977年)のスティーヴン・スピルバーグ監督や、『エイリアン』(1979年)のリドリー・スコット監督など、“SF映画の名作”と呼ばれる作品を手がけてきた映画監督たちと対話する「SF映画術 ジェームズ・キャメロンと6人の巨匠が語るサイエンス・フィクション創作講座」(DU BOOKS・刊)には、“映画監督に映画監督がインタビューする”という同様の構成を感じさせる。しかし、この書籍が特異であるのは、ひとりの映画監督から演出論を引き出すのではなく、“SF映画の歴史”という大きなテーマを、その作品に関わってきた映画人の言葉を紡ぐことによって明らかにしようと試みている点にある。

 

2020年11月よりCS映画専門チャンネル ムービープラスで放送される(※2021年2月再放送)『ジェームズ・キャメロンのSF映画術』は、2018年にアメリカで製作された全6回のドキュメンタリー番組。「SF映画術」の映像版として、SF映画の礎を築いてきた作品のフッテージをふんだんに使用。書籍では文字や写真などで想像しなければならないような記述を、視覚的にも理解できるような構成になっている。

『ジェームズ・キャメロンのSF映画術』© 2018 AMC Film Holdings LLC. All Rights Reserved.

また書籍では、スティーヴン・スピルバーグ、ジョージ・ルーカス、クリストファー・ノーラン、ギレルモ・デル・トロ、リドリー・スコット、そしてアーノルド・シュワルツェネッガー(!)の6人との対話がそれぞれ章立てられているのだが、映像版ではテーマを章立てることで、前述の6人だけでなく、キアヌ・リーヴスやウィル・スミスなど、SF映画に出演してきた俳優たちも登場。初回となるエピソード1のテーマは「地球外生命体」を描いた作品群を取り上げている。

『ジェームズ・キャメロンのSF映画術』© 2018 AMC Film Holdings LLC. All Rights Reserved.

現実世界の不安や恐怖を“火星人襲来”に置き換えパニックを巻き起こした「宇宙戦争」

H・G・ウェルズが1898年に発表した小説「宇宙戦争」(東京創元社・刊)で、“火星人襲来”というアイディアを実践して以来、地球外生命体が人類の脅威となるようなSF映画が数多作られてきたという経緯がある。「宇宙戦争」は火星人との戦いを描いているが、実は出版当時の社会背景が“地球外生命体”に暗喩されていると言われている。それは、H・G・ウェルズがイギリス人であるという点が重要なのだ。

『ジェームズ・キャメロンのSF映画術』© 2018 AMC Film Holdings LLC. All Rights Reserved.

当時のイギリスは、大英帝国の繁栄に翳りが見えていた時代。ヨーロッパの列強国に戦いを仕掛けられ、侵略されるのではないか? という危機感を覚えていたという社会背景があった。当時の文学界では、異国によって本土を襲撃され、国土を蹂躙されるという小説が流行していたことからも判るように、“火星人襲来”というSF設定は“異国の襲来”という現実の恐怖を置き換えたものだったのだ。

「宇宙戦争」に描かれた不穏さは、1914年に勃発する第一次世界大戦へと繋がってゆく。同様に、オーソン・ウェルズが1938年に演出したラジオドラマ「宇宙戦争」では、“火星人襲来”を本物のニュースと勘違いしたリスナーたちがパニックに陥ったという逸話がある。これは、オーソン・ウェルズの演出や演技にリアリティを感じたからというだけでなく、世界恐慌から続く不況による経済的・社会的不安が影響したのではないかと現在では論じられている。「宇宙戦争」は1953年に映画化されているが、2005年にはスティーヴン・スピルバーグ監督がトム・クルーズ主演で映画化。『~SF映画術』では、『宇宙戦争』(2005年)で描かれる地球外生命体による侵略は、2001年のアメリカ同時多発テロを想起させるものだったと指摘している。H・G・ウェルズの小説は、まさに「異国によって本土を襲撃され、国土を蹂躙される」という文脈によって生まれた作品ではなかったか。

SF映画における異星人侵略は、弾圧により直接描くことができなかった社会問題の暗喩

映画化された『宇宙戦争』(1953年)が公開された1950年代では、地球外生命体による侵略を描いた映画が多く作られたという経緯もある。番組では、ジャック・フィニィの小説を映画化した『ボディ・スナッチャー/恐怖の街』(1956年)をその中の1本として取り上げ、「隣人が地球外生命体に肉体を乗っ取られているのではないか?」という疑念が、当時の社会背景を暗喩させたものだと紹介している。アメリカでは、1940年代後半から1950年代前半にかけて<赤狩り>が起こった。国家権力によって共産主義者や社会主義者を弾圧。思想を理由に検挙されたり、国外追放された時代だったのだ。

その矛先がハリウッドの映画人にも向けられたことは、『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』(2015年)や『真実の瞬間(とき)』(1991年)などの映画でも描かれてきたが、非米活動委員会の“友好的証人”と呼ばれた映画人の中には、積極的に映画仲間を告発したという経緯がある。つまり「隣人が共産主義者ではないか?」という疑念が、「隣人が地球外生命体に肉体を乗っ取られているのではないか?」という疑念に置き換えられていたのだ。弾圧の恐怖から社会問題を直接描くことができず、あえてメタファーとして描く。SF映画は単なるフィクションではなく、社会背景を暗喩させたものだという由縁のひとつである。

『ジェームズ・キャメロンのSF映画術』© 2018 AMC Film Holdings LLC. All Rights Reserved.

『~SF映画術』では、ジェームズ・キャメロンとスティーヴン・スピルバーグが『未知との遭遇』について語っている。この映画では、地球外生命体を侵略される対象ではなく、友好的対象として描いている点が革新的だったと指摘。興味深いのは、エピソード1で紹介される『宇宙戦争』(1953年)、『未知との遭遇』、『インデペンデンス・デイ』(1996年)、『アバター』が、地球外生命体を約20年前後の周期で、侵略の対象、友好の対象として交互に描いているという点にある。

『ジェームズ・キャメロンのSF映画術』© 2018 AMC Film Holdings LLC. All Rights Reserved.

もちろん、スティーヴン・スピルバーグという映画作家の中だけでも『E.T.』(1982年)や『宇宙戦争』(2005年)で侵略と友好の両面を描いているし、侵略と友好を曖昧にした『コンタクト』(1997年)や『メッセージ』(2016年)といった作品も番組内では紹介している。SF映画が社会を映し出す鏡のひとつだとしたら、2020年という時代をSF映画から考察してみるというのも一興なのかも知れない。

『ジェームズ・キャメロンのSF映画術』© 2018 AMC Film Holdings LLC. All Rights Reserved.

文:松崎健夫

【出典】
「SF映画術 ジェームズ・キャメロンと6人の巨匠が語るサイエンス・フィクション創作講座」(DU BOOKS・
「宇宙戦争」H・G・ウェルズ(東京創元社)訳者あとがき 中村融

『ジェームズ・キャメロンのSF映画術』はCS映画専門チャンネル ムービープラスで2021年2月放送

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『ジェームズ・キャメロンのSF映画術』

S・スピルバーグ、ジョージ・ルーカス、リドリー・スコットら名だたる巨匠たちや、A・シュワルツェネッガー、キアヌ・リーヴスほか人気俳優が出演! 彼らとのインタビューを通して、SFのアイデアがどこから来たのか、そしてどこへ行こうとしているのかを探る。

制作年: 2018
出演:
  • BANGER!!!
  • 映画
  • スピルバーグ、ルーカス、ノーランに問う!『ジェームズ・キャメロンのSF映画術』 “異星人襲来”が示す現実世界の恐怖とは?