第94回アカデミー賞まとめ!「配信vs劇場」論争に決着? ハリウッドの根深い闇、冷や汗ハプニング考察

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ライター:齋藤敦子
第94回アカデミー賞まとめ!「配信vs劇場」論争に決着? ハリウッドの根深い闇、冷や汗ハプニング考察
『コーダ あいのうた』© 2020 VENDOME PICTURES LLC, PATHE FILMS / 『ドライブ・マイ・カー』©2021「ドライブ・マイ・カー」製作委員会

『ドライブ・マイ・カー』国際長編映画賞獲得!

日本では『ドライブ・マイ・カー』の4部門ノミネートに話題が集中した感のある第94回アカデミー賞。結果は国際長編映画賞のみの受賞に終わったが、2021年7月のカンヌ国際映画祭コンペティション部門での脚本賞受賞を皮切りに、世界中で上映され、注目され、様々な賞を受賞しつつ、アカデミー賞ノミネートに至ったこと自体が立派な成果である。と同時に、安易な企画ばかりが映画化される今の日本映画界に反省を促すような、いい刺激になって欲しいと切に願う。

さて、古巣ドルビーシアターに戻った今年の授賞式は、印象的なオープニングから始まった。まずは『ドリームプラン』のモデルとなったテニスのヴィーナス&セリーナ・ウィリアムズ姉妹が登場し、ビヨンセが歌曲賞ノミネート曲「ビー・アライブ」を歌い、続いて司会を務める3人のコメディエンヌが舞台に現れるという“女性”つながり。2016年にスパイク・リーやウィル・スミスが授賞式をボイコットし、“白いアカデミー”を痛烈に批判されて以来、つとめて人種差別対応を意識してきたアカデミーが、#MeToo運動の高まりを受けて、今度は女性対応を意識するようになったように感じた。

歓喜&意外なサプライズ受賞、配信vs劇場の現実的な着地

今年は配信“VSスクリーン”対決に一つの決着がついた年でもあった。発端は2017年のカンヌ国際映画祭で、コンペティション部門に選出されたNetflix製作の2作品(ポン・ジュノの『オクジャ』とノア・バームバックの『マイヤーウィッツ家の人々(改訂版)』)がフランス映画興行界から劇場公開をめぐっていちゃもんをつけられ、審査員長だったペドロ・アルモドバルが“配信作品に賞をやりたくない”と発言した、いわゆるNetflix問題が勃発したことだ。以降、世界の映画祭および映画業界では何かしら配信作品に一線を画すような風潮があった。差別と言ってもいい。それは世界の映画産業界の中心であるハリウッドで行われるアカデミー賞では特に顕著だった。

しかし、パンデミックをきっかけに、この力関係が劇的に変化する。配信業界は劇場公開が難しくなった作品を拾い上げ、製作費を集めるのが難しい作品に次々に資金を提供していく。さしもの映画業界も配信に一目置くようになり、配信は急速に映画産業の重要な一角を担うようになった。今ではディズニーなどの映画会社も配信業界に参入するようになっている。

今年は作品賞にAppleTV+の『コーダ あいのうた』と、Netflixの『パワー・オブ・ザ・ドッグ』の2作がノミネートされ、結果的に『コーダ』が受賞したことは、まさに歴史的な事件だった。だが、それは歴史の必然だった。これまで配信映画を軽視してきたアカデミー会員さえも、配信の重要性を認めざるを得ない時代になったのだ。

とはいえ、最多6部門を受賞し、数ではトップに立った『DUNE/デューン 砂の惑星』が劇場で映画を見る醍醐味に溢れた作品であったことは、ハリウッド映画人のプライドを感じた。『DUNE』こそ、映画館に足を運び、音響のいい、大きなスクリーンで見なければ真価が分からない種類の映画、スペクタクルを目撃する喜びを与えてくれる映画だからだ。音響賞視覚効果賞の2賞は順当だが、撮影賞編集賞美術賞作曲賞の合わせて6賞受賞は、配信全盛の風潮にハリウッド映画人が反撃を試みたようにも思えた。

12部門という最多ノミネート数だった『パワー・オブ・ザ・ドッグ』が結果的にジェーン・カンピオンの監督賞のみに終わったのには、2月にベテラン俳優のサム・エリオットがポッドキャストで作品を批判したことで露わになったように、ハリウッド映画人の根底に、西部劇という男性優位主義(マチスモ)の聖域を荒らされたような、生理的不快感があることを思わせた。だが、そういったものをさらけ出させるのがジェーン・カンピオンの策略なのだ。私にとっては、今年の全ノミネート作の中で、テーマの先鋭性と芸術性において、最も優れた作品だった。カンピオンの演出力はもちろんのこと、俳優たちの演技も文句なく素晴らしかった。ただ、万人に愛される『コーダ』に点数で破れたのは問題作の宿命でもあった。

手話対応の配慮と、話題をかっさらったハプニング

授賞式の演出で見事だと思ったのは、『コーダ あいのうた』への手話対応だった。助演男優賞プレゼンターのユン・ヨジョン(2021年度の助演女優賞受賞者)が、トロイ・コッツァーが手話でスピーチする間、トロフィーを預かるという気配りが感動的だったし(主催者側から何らかの示唆があったのではないかとは思うが)、作品賞を受賞したプロデューサーたちがスピーチする際、横でチームの通訳が客席に向かって手話をしていたのは当然として、客席側にも通訳がいて、壇上のろう者のために手話をしていたのがとても素敵だった。ここまで配慮するのが本当なのだ。

最後に話題のハプニングについて一言。ウィル・スミスが、脱毛症を患う妻のジェイダ・ピンケット=スミスの髪についてのジョークを言ったクリス・ロックを平手打ちし、「お前の×××な口で妻の名前を言うな」と放送禁止用語を放って会場を凍り付かせたのには、本当にびっくりした。が、その後、3度目の正直で念願の主演男優賞を手にしたウィル・スミスが、「デンゼル・ワシントンから“人生最高の瞬間に悪魔が忍び寄るものだ”と言われた」と言って、クリス・ロックには一言も触れずに、涙を流しながら家族を守る大切さをスピーチする姿は今年のハイライトだった。私は、その場で、そんなに深いアドバイスのできるデンゼル・ワシントンに心から感心した。

暴力をふるったことについてはウィル・スミスに非があるが、髪を失う苦しみを隣で見てきた彼が、ジェイダの名誉のために一矢を報いた行動には共感できる。それに、音は派手だったがクリス・ロックの体が倒れることはなく、力をセーブしていたようにも見えた。

文:齋藤敦子

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