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豪銃乱射事件の“かもしれない”を描く『ニトラム/NITRAM』は世界初“銃規制”映画? ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ主演

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ライター:#市川夕太郎
豪銃乱射事件の“かもしれない”を描く『ニトラム/NITRAM』は世界初“銃規制”映画? ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ主演
『ニトラム/NITRAM』©2021 Good Thing Productions Company Pty Ltd, Filmfest Limited

ポート・アーサー銃乱射事件

花火で火事を起こし自らも火傷を負った少年が、入院中の病床でTVニュース・リポーターからインタビューを受けている。

「もう花火で遊ばない?」
「遊ぶよ」
「懲りてないの?」
「懲りたけど遊ぶよ」

……そして月日が経ち、少年は成長して大人になっても相変わらず庭先でロケット花火をぶっ放している。お隣さんの怒声もお構いなしで。のちに無差別銃乱射事件を起こす男である。映画は、男の手にあるロケット花火が、自動小銃に変わるまでを描いていく。

『ニトラム/NITRAM』©2021 Good Thing Productions Company Pty Ltd, Filmfest Limited

『ニトラム/NITRAM』の舞台は1990年代の半ば、オーストラリアのタスマニア島。そこで両親と共に暮らしている青年(ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ)は、本名を逆さ読みにしたあだ名「ニトラム(NITRAM)」と呼ばれて馬鹿にされていた。他の男たちのようにサーフィンができない。他者とうまくコミュニケーションが取れない。それがなぜなのか自分でもわからない。青年は社会に馴染めず徹底的に孤立していたが、偶然知り合った裕福な年上女性ヘレン(エッシー・デイヴィス)と親しくなり、家を飛び出してヘレンと共に暮らすようになる。しかし、その生活もすぐに終わりを迎えてしまう……。

『ニトラム/NITRAM』©2021 Good Thing Productions Company Pty Ltd, Filmfest Limited

「ニトラム」と呼ばれた犯人の男が起こした実際の大量殺人事件は、1996年4月28日にオーストラリア・タスマニア島の観光地、ポート・アーサーで起こった。単独犯、1日の犯行で死者35人、負傷者15人。コロンバイン高校乱射事件より3年前に起きた事件で、世界中で銃規制を求める声が高まった先駆けだ。

そんな事件を加害者視点で描く本作は、犯人の髪型も乗っていた車の車種も忠実に再現するが、「実はこんな男だったんです」「凶行に及んだ原因は実はここにありました」といった、ワケ知り顔でジャッジする無責任さを否定する。代弁もないし、憐憫の眼差しもない。幼少期に家族から暴力を振るわれていた(かもしれない)、息子を拒絶する母親(ジュディ・デイヴィス)の冷たさに耐えられなくなった(かもしれない)、凶行数日前に起きた別の拳銃発砲事件に関する報道を目にして影響を受けた(かもしれない)……。

『ニトラム/NITRAM』©2021 Good Thing Productions Company Pty Ltd, Filmfest Limited

「乱射事件を防ぐための指針」に沿った初めての映画!?

劇中で描かれる事件へ至る原因のほとんどすべてが不確かな中、唯一はっきりしていたのが、監督ジャスティン・カーゼルの言葉を借りると「まるで釣り竿を買うように」カジュアルに自動小銃が買えてしまう、劇中でもっともゾッとするシーンだ。本作の企画を生み出した脚本家ショーン・グラント、そしてジャスティン・カーゼル監督は本作を「銃規制に関する映画」と明言しており、オーストラリア出身・在住の彼らにとって、とてつもなく大きく、かつ実生活レベルで切実な問題意識が横たわっている。

『ニトラム/NITRAM』©2021 Good Thing Productions Company Pty Ltd, Filmfest Limited

ちなみにジャスティン・カーゼル監督は、これまでにもオーストラリアで起きた実在の事件・人物をモデルにした『スノータウン』(2011年)、『トゥルー・ヒストリー・オブ・ザ・ケリー・ギャング』(2019年)を撮っている。どれも貧困に直面している若者が、暴力に飲み込まれてゆく様を描いた映画だ。カーゼル監督は本作の脚本が送られてきた時、撮らなければいけない、という使命感のようなものを感じたという。

『ニトラム/NITRAM』©2021 Good Thing Productions Company Pty Ltd, Filmfest Limited

この「不確かな」映画を観て思い出したのが、2013年に社会科学雑誌ニュー・アトランティスの編集長であるアリ・N・シュルマンが発表した【乱射事件を防ぐために報道機関や警察がやるべきこと】という指針だ。ようは、模倣事件を少しでも避けるためのもので……

・乱射犯の主張を公表しない
・乱射犯の名前や顔を伏せる
・経歴を報道したり動機を推測したりしない
・事件の詳細や血生臭い描写を最小限にする
・事件の写真や映像を公開しない
・被害者については語るべきだが、悲嘆にくれる遺族の映像は最小限にする
・大々的な報道を減らす
・これまでとは異なる話題を伝える
※詳しくは引用元(『ウォール・ストリートジャーナル』)を参照

『ニトラム/NITRAM』©2021 Good Thing Productions Company Pty Ltd, Filmfest Limited

監督や脚本家に聞いたわけではないが、本作は加害者視点でありながら上記の指針にできる限り沿って作ろうと試みた、はじめての実録犯罪映画なのではないか。「不確か」ゆえに警告に溢れた、とてつもない映画だった。

『ニトラム/NITRAM』©2021 Good Thing Productions Company Pty Ltd, Filmfest Limited

文:市川夕太郎

『ニトラム/NITRAM』は2022年3月25日(金)より新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷、ヒューマントラストシネマ有楽町、アップリンク吉祥寺ほか全国公開

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『ニトラム/NITRAM』

本作が描くのは、“ニトラム”と呼ばれた青年の〈生活〉と〈彷徨〉の日々。母は彼を「普通」の若者として人生を謳歌してほしいと願う一方、父は将来を案じ出来る限りのケアをしようと努めている。サーフィンに憧れている彼は、ボードを買うために庭の芝刈りの訪問営業を始める。そんなある日、ヘレンという女性と出会う……。

監督:ジャスティン・カーゼル
脚本:ショーン・グラント

出演:ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ
   ジュディ・デイヴィス エシー・デイヴィス
   ショーン・キーナン アンソニー・ラパリア

制作年: 2021