聖職者による性的虐待を告発! 世界的スキャンダルを真正面から描く『グレース・オブ・ゴッド 告発の時』

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ライター:野中モモ
聖職者による性的虐待を告発! 世界的スキャンダルを真正面から描く『グレース・オブ・ゴッド 告発の時』
『グレース・オブ・ゴッド 告発の時』©2018-MANDARIN PRODUCTION-FOZ-MARS FILMS–France 2 CINÉMA–PLAYTIMEPRODUCTION-SCOPE

現在も裁判進行中!「プレナ神父事件」を仏の俊英フランソワ・オゾンが映画化

ここ数年、長きにわたって隠蔽されてきた権力者による性暴力を白日の下に晒し、その責任を追求する動きが世界のあちこちで勢いづいている。ハリウッドから#MeToo運動が大きな広がりを見せはじめたのが2017年。カトリック教会の聖職者による児童への性的虐待が大スキャンダルとして明るみに出され、ローマ法王庁がそれを事実と認めたのも2010年代の出来事だ。『グレース・オブ・ゴッド 告発の時』は、そうした動きのひとつ、フランスで少年時代にカトリックの神父から受けた性的虐待について声をあげた人々の実話に基づいた作品である。

『グレース・オブ・ゴッド 告発の時』©2018-MANDARIN PRODUCTION-FOZ-MARS FILMS–France 2 CINÉMA–PLAYTIMEPRODUCTION-SCOPE

監督・脚本はフランソワ・オゾン。『8人の女たち』(2002年)など、ちょっとコミカルに奇妙な味つけで女優の魅力を引き出す手腕に定評のある彼が、今回は過去の性暴力被害のトラウマに苦しみながら教会という大きな権力機構を相手に闘う男たちのシリアスなドラマで新境地を切り拓いた。映画の元になった「プレナ神父事件」は法廷に持ち込まれ、被告も容疑を認めているものの、教会側の責任をめぐって2020年7月現在もなお係争中だという。ひとりの勇気ある告発をきっかけに、80人以上の被害者が名乗りをあげたというから衝撃的だ。

子供たちを守るために――幼少時代の性的虐待を告発した勇気ある人々

フランス南東部の街リヨンで妻と5人の子供たちと暮らす銀行員アレクサンドル(メルヴィル・プポー)が、過去の性的虐待について加害者の処罰を求め教会に働きかけはじめたのは2014年のこと。彼は幼い頃、教会の礼拝やボーイスカウト活動に参加していた際に、ベルナール・プレナ司祭からたびたび虐待を受けていた。プレナが現在でも教会で高い地位に就いており、子供たちを相手に聖書を教えていることを知ったアレクサンドルは、若い世代を守るために声をあげようと決意する。

『グレース・オブ・ゴッド 告発の時』©2018-MANDARIN PRODUCTION-FOZ-MARS FILMS–France 2 CINÉMA–PLAYTIMEPRODUCTION-SCOPE

すでに中年となったアレクサンドルが少年時代に受けた被害は、法的には時効を迎えていた。彼は自分と同じように被害を受けていた人々を探し、証言を集めようと動き出す。教会の落ち度を公に指摘することはさまざまな軋轢を生み、現在の生活が脅かされるリスクを伴う。

『グレース・オブ・ゴッド 告発の時』©2018-MANDARIN PRODUCTION-FOZ-MARS FILMS–France 2 CINÉMA–PLAYTIMEPRODUCTION-SCOPE

だが、地道な交渉と説得によって「被害者の会」が立ち上げられ、最初は「過ぎたこと」として関わろうとしなかったフランソワ(ドゥニ・メノーシェ)やエマニュエル(スワン・アルロー)も変わっていく。「被害者の会」はプレナ神父だけでなく、彼が小児性愛者だと知りながら何の対処もしなかった教会の責任を問い、時効の延長を呼びかけるのだった。

『グレース・オブ・ゴッド 告発の時』©2018-MANDARIN PRODUCTION-FOZ-MARS FILMS–France 2 CINÉMA–PLAYTIMEPRODUCTION-SCOPE

映画は語り手がアレクサンドル、フランソワ、エマニュエルとバトンをつなぐように交代していく構成によって、それぞれに異なる来歴や宗教観を持つ被害者たちのさまざまな葛藤を見せ、現在進行形の社会運動の困難と希望を浮かび上がらせる。本作で3人は揃って第45回セザール賞にノミネートされ、エマニュエルを演じたスワン・アルローが助演男優賞に輝いた。ちょっとうさんくさくて危うい雰囲気を纏い、大きなアーモンド型の瞳が雄弁に語る注目株だ。

“特権”を享受する側の責任とは? 権力に立ち向かうには支援や連携が不可欠

カトリックの壮麗な儀式や現在でも街の中心にそびえ立つきらびやかな教会建築は、フランスの歴史に染み渡ったその強大な権力を伝える。そんな手強い相手に対して最初に声をあげることができたのは、しっかりした経済的基盤と理解ある家族に支えられているアレクサンドルだった。安定したキャリアも家族も持たず、おそらく神経疾患を抱えているエマニュエルは、最初のうち協力を拒む。このように被害者間にも格差があるからこそ、力を合わせてより大きな権力に立ち向かうことが必要だというのは、時宜を得たメッセージであるように感じられた。

『グレース・オブ・ゴッド 告発の時』©2018-MANDARIN PRODUCTION-FOZ-MARS FILMS–France 2 CINÉMA–PLAYTIMEPRODUCTION-SCOPE

プレナ事件は多くの被害者および支援者たちの連携によって世に広く知られることになった。世間から認められている “立派な” 白人男性たちが深く傷つき壊れていたことを示す例だ。これは現代社会に蔓延する性暴力の氷山の一角であり、女性や有色人種、障害者、貧困層などのマイノリティが受けている被害がどれだけ無かったことにされているのだろうか、と考えると恐ろしい。この映画が「社会的な特権を持つ者は、それを持たざる者のために利用して、共によりよい社会を築くことが求められている」という考え方を広める助けとなることを望まずにはいられない。

『グレース・オブ・ゴッド 告発の時』©2018-MANDARIN PRODUCTION-FOZ-MARS FILMS–France 2 CINÉMA–PLAYTIMEPRODUCTION-SCOPE

文:野中モモ

『グレース・オブ・ゴッド 告発の時』は2020年7月17日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷ほかロードショー

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『グレース・オブ・ゴッド 告発の時』

妻と子供たちと共にリヨンに住むアレクサンドルは、幼少期に自分を性的虐待したプレナ神父が、いまだ子供たちに聖書を教えていることを知り、家族を守るため、過去の出来事の告発を決意する。

最初は関りを拒んでいたフランソワ、長年一人で傷を抱えてきたエマニュエルら、同じく被害にあった男たちの輪が徐々に広がっていく。しかし、教会側はプレナの罪を認めつつも、責任は巧みにかわそうとする。

また、アレクサンドルたちは沈黙を破った代償――社会や家族との軋轢とも戦わなければならなかった。果たして、彼らが人生をかけた告発のゆくえは――?

制作年: 2019
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