信友直子監督が語る『ぼけますから、よろしくお願いします。~おかえり、お母さん~』90歳超え両親の老老介護とその後

  • Facebook
  • Twitter
  • LINE
ライター:石津文子
信友直子監督が語る『ぼけますから、よろしくお願いします。~おかえり、お母さん~』90歳超え両親の老老介護とその後
『ぼけますから、よろしくお願いします。~おかえり お母さん~』©2022「ぼけますから、よろしくお願いします。~おかえり お母さん~」製作委員会

20万人の涙を絞り取った『ぼけよろ』続編

2018年に公開され、ドキュメンタリー映画としては異例の大ヒットを記録した信友直子監督の『ぼけますから、よろしくお願いします。』。アルツハイマー型認知症の診断を受けた母親と、耳の遠い父親。広島県呉市で老老介護をする両親に、一人娘である監督がカメラを向けた前作は、多くの人が“自分ごと“として受け止めた。その続篇『ぼけますから、よろしくお願いします。~おかえり、お母さん~』が2022年3月25日(金)より公開中だ。

『ぼけますから、よろしくお願いします。~おかえり お母さん~』©2022「ぼけますから、よろしくお願いします。~おかえり お母さん~」製作委員会

母、文子さんは認知症だけでなく、脳梗塞を発症。だが常に前向きで明るい父の良則さんは毎日1時間かけて入院中の母に会いに行き、体力作りのため98歳にして筋トレを始めた。信友監督は「悲しい話ではなく、希望がある映画です」と語る。

信友直子監督

「皆さんがこの映画を“自分ごと”として観てくださった」

―前作の反響を受けて、続編を作ろうと決意されたのでしょうか? それとも監督は最初から2部作として作るおつもりでしたか?

2作目というか、どういう形であれ、父と母のことはずっと撮り続けていこうと思ってはいました。撮らないという選択肢は私の中ではなかったですね。父も当然のことだと思っていたようだし。たくさんの方が「この続きが観たい」と言ってくださったので、乗り掛かった船として、私の使命なんだなと思いました。今の時点では、父が亡くなるまでは撮ろうと思っています。実は、自分の老後のことも撮ろうかなと考えていて。母も、祖母も認知症だったので、私も将来なるかもしれない。そうであれば、自分自身のことも撮っていくのがいいんじゃないか。これは私のライフワークというか、生きている限り続くプロジェクトですね。

前作を公開する時、実は自信がなかったんです。無名の広島の年寄りである私の両親の姿を、お金を払って映画館に観に来る人というのが想像がつかなくて、私の友達しか来なかったらどうしよう? って(笑)。でも、プロデューサーの大島新さんはかなり勝算があると思っていたようで、それが結果的には正しかったんですね。結局、皆さん私の両親をスクリーンで観ながら、ご自身の親御さんやご伴侶のことを投影して、“自分ごと“として観てくれていたんです。上映後に私に声をかけてくださる方も、映画の感想だけでなく「うちの親もね……」と、自分のお話をされる。いわゆるドキュメンタリー映画が好きな人だけではなく、今までの人生でドキュメンタリー映画を観たことがないような田舎のおじさん、おばさんも含めて広がったので、これだけブームになったのかなと思います。

―コロナ禍ということもあり、もう少し経ってから続編が出るのかな、とも思っていました。

実は、私も「父と母が亡くなってからかな」とは思っていたんですが、父が元気すぎて(笑)。だから、父が亡くなるまで待っていたら10年以上空いてしまうだろう、と思ったというのもありました。このタイミングで完成させたのは、母が元気だった頃の映像が出てきたことが大きかった。別のカメラマンが撮ってくれていたものなんですが、あの映像があったことで、1作目とは少し違う、より叙情的で映画的なものができるだろうという読みもありました。前作は私のカメラだけでしたから、ゴリゴリのドキュメンタリーという感じもあったので。今回はもっと映画的な要素が出るのでは、と。

あの映像は、コロナ禍でステイホームになって、家で掃除していたら見つかったんです。母が買い物をしているところとか、二人でコーヒーを飲んでいたりする。あれは私の乳がんの闘病記(『おっぱいと東京タワー 〜私の乳がん日記~』[2009年])をテレビで放送した時、カメラマンさんに父と母の呉での様子などを撮ってもらっていたものなんです。自分でカメラを回していなかったから、そのテープの存在をすっかり忘れていて、掃除していたら押入れの奥深くから出てきました。今回、母が私に「あんた、忘れとるじゃろ?」って教えてくれたような、はからいのような気もしましたね。

『ぼけますから、よろしくお願いします。~おかえり お母さん~』©2022「ぼけますから、よろしくお願いします。~おかえり お母さん~」製作委員会

―現在もお父さまを撮影されているんですか? どんなタイミングでカメラを回すのでしょうか?

撮っています。長年、ドキュメンタリーの仕事をしていると、ここは多分使うことになりそうだ、という勘がなんとなく働くんです。例えば、この間の選挙の時は「101歳で投票に行くお父さん」という感じでカメラを回しました。最近だと、確定申告のために計算をしていたりとか。そういうのは面白いなと思うし、役所や近所の人たちに父がお世話になっているのもわかりますね。

―確定申告を自分でできる101歳って、すごいですね!

父は経理畑だったので数字に強くて、全部自分でできるんです。私は全く疎いので、税理士さんに丸投げですが(笑)。

『ぼけますから、よろしくお願いします。~おかえり お母さん~』©2022「ぼけますから、よろしくお願いします。~おかえり お母さん~」製作委員会

「親の映像は撮っておいたほうがいい。写真よりも楽しい思い出が蘇ってくる」

―今回は、お母さまを看取るという大きな流れがありますが、カメラを回し続けるのはお辛かったのではないですか?

やっぱり撮るということは、弱っていく母、もう死相が出ている母をじっくり見ないといけないことなので、それは辛かったですね。でも撮らないと、後から撮っておけば良かったと思っても、カメラが回っていないとどうしようもない。だから辛いけれども、カメラは回していました。父に「回してもいい?」とは聞きませんでしたが、「これは直子のライフワークなんだ」と思っていたんじゃないかなと。

母が危篤になってから、何度も父と二人で病院に行きましたが、カメラを回していることを咎められたことは一度もありませんでした。さすがにお葬式で私がカメラを回すのは顰蹙を買うと思ったのでカメラマンにお願いして、私は参列者として被写体になりました。お葬式にカメラマンを入れるのも、どうかと思われるかもしれませんが。

―でも最近は、葬儀所によっては葬儀の撮影を提案されることもあるようです。

自分でもちょっと業が深いなと思ったのは、あれは葬儀所も、撮影が可能なところを事前に探していたんです。母が亡くなる2ヶ月ほど前に一度、生死の境を彷徨ったので、そのタイミングで。もっと近所にビルの中にある葬儀所もあったんですが、外観を撮る時のことを考えて、ちょっと遠いけれど雰囲気の良いところを選んでしまったんです。

でもそれとは別に、親の映像は撮っておくといいですよ。今はスマホで簡単に撮れますから。特別なイベントよりも、普段の何気ない様子を撮ることをお勧めします。母がいなくなった後、写真を見ると寂しい気持ちになるんですが、動画だと楽しい思い出が甦ってくるんです。

『ぼけますから、よろしくお願いします。~おかえり お母さん~』©2022「ぼけますから、よろしくお願いします。~おかえり お母さん~」製作委員会

「人が死んでいく話ではあるけれど、暗い映画ではない」

―ライフワークとして自分の将来の姿も撮る、というのはいつ頃から考えていたのですか?

まだ本当に撮るかどうかは分からないですが。でも、ずっと自分が認知症になるかもしれないということが怖かったんですが、考え方を変えて、もしそんな兆候があったら自分で自分にカメラを回そうと考えたんです。今まで認知症の人が自撮りしたドキュメンタリーはないから、私が最初になるかもしれないぞ、と思って。この話を今回の編集さんにしたら、「じゃあ撮ってくれれば、後は俺がまとめるよ」って言ってくれましたし、プロデューサーの濱潤さんも「その時は僕がお金を出して映画にするから」と言ってくれたので、「これでいけるな」と思っています(笑)。そう思うと、ぼけるのも怖くはないし、ちょっと楽しみにもなってきた。自分のメンタルを安定させるためにも、そういう道があるのも良いなと思いましたね。

私は計画性がある方ではないのですが、父がいなくなったら天涯孤独になってしまうのも少し不安。でも例えば将来は撮影可の老人ホームに入って、おじいさん、おばあさんたちの人間関係とか、恋愛模様のグチャグチャが撮れたら面白いんじゃないかな(笑)。将来を悲観しても仕方ないから、そういうふうに前向きに考えるようにしているんです。それに、歳をとってもみんな枯れるわけじゃないし、欲もある。うちの父だって、100歳のお祝いで5万円をもらった時が映画の中で一番良い顔をしていましたから(笑)。そういう人間らしさ、おかしみも観てもらえたらと思っているんです。『ぼけますから〜』は人が死んでいく話ではあるけれど、暗い映画ではないんです。むしろ明るく、笑えるところもあるし、明日も頑張ろうという気持ちになれる映画になっていると思います。

認知症のお婆さんが亡くなっていく話は暗そうだ、なんて思わず、騙されたと思って観て欲しいですね。前作と違い、今回は認知症介護だけではなく、人を亡くすこと、終活、延命治療などテーマも広がっているので、より多くの人に観てほしいと思っています。

『ぼけますから、よろしくお願いします。~おかえり お母さん~』©2022「ぼけますから、よろしくお願いします。~おかえり お母さん~」製作委員会

―前作は、当初テレビ番組として作られていましたが、ドキュメンタリーの撮り方に映画とテレビで違いはありますか?

私は撮り方は一緒だと思っていますけれど、テレビはチャンネルを変えられてしまう恐れがあるから、どうしても編集の仕方に違う部分はあります。映画のほうが、余白を作ることを怖がらなくてすむ。やはりお金を払って映画館の暗闇に来てくださる方々ですし、じっくり観てもらえるし、帰らせない映画を作った自信もあります。

テレビだと、もっとナレーションが多くなると思います。実際、『ぼけますから〜』の1作目がヒットした後にテレビで短縮版を放送したんですが、そちらはナレーションをいっぱい入れました。どうしてもご家庭の中でテレビを観ている時は、誰かが話しかけてきたり不測の事態が生じて集中できない可能性がありますから。民放の場合はコマーシャルも入りますし。

『ぼけますから、よろしくお願いします。~おかえり お母さん~』©2022「ぼけますから、よろしくお願いします。~おかえり お母さん~」製作委員会

「老老介護だからって、暗い映画では全くない」

―今後は映画の撮影が中心になりそうですか?

映画をやるというより、“娘業”を優先するために、現時点では新規のテレビのお仕事はお断りしているんです。うちの父が元気とはいえ101歳になったので、呉の実家にいる時間を多くしています。今まで、父が身を挺して私の取材対象になってくれていたので、今度は私が恩返しをする番だと思って。でも父は120歳まで生きるかもしれないから、そうすると私ももっと働かないとですね(笑)。

―ずっと離れていた親と一緒に暮らすと、どんなに仲が良い親子でも揉めたりしないですか?

やっぱり最初は少しギクシャクしましたよ(笑)。たとえば私が朝なかなか起きてこないので父はイライラしてたんですが、今は「直子が起きんのなら、わしは先にご飯を食べておく」となったし、私も最初は父に気を遣って何でもお伺いを立てていたんですが、耳が遠いから何度も言わないとならなくて、これもイライラしてしまった(笑)。それをやめたら楽になった。お互い好きにしているのが良いみたいです。

『ぼけますから、よろしくお願いします。~おかえり お母さん~』©2022「ぼけますから、よろしくお願いします。~おかえり お母さん~」製作委員会

―お父さんのいつも前向きで明るい姿に、本当に元気をもらえますね。

映画を作って本当に良かったと思うのは、父が呉の街の人気者になったこと。外に出ると「お父さん、元気?」と声をかけてもらえるし、私がいない時も街全体に見守ってもらえている感じなんです。作った時はそんなことを意図してはいなかったんですが、副産物としてとても良かった。

地域の人に支えられて、呉の人みんなに顔を知られたので、私のSNSに「今日お父さんを見かけました」とか書き込みがあったり、結果として見守ってもらえるようになったこと、そして父も声をかけてもらえることでハリが出てきて、どんどん若返ってきたんです。チヤホヤされるのは誰でも嬉しいんですよ(笑)。残念なのは、1作目を公開した時に母はもう入院していたので、もう少しだけ早く公開できていたらな、とは思います。

信友直子監督

―本当は有名にならなくても、地域でお年寄りや、子育て世代は見守るべきなんですよね。私は東京の下町の出身ですが、子供の頃は、ご近所さんがお節介を焼いてくれることも多かったので。

そういうのって案外いいことなのに、今は難しくなっているのが残念ですね。今後、高齢者がどんどん増えるのだから、やはりご近所で見守る体制はあった方がいいし、お互いさま精神でみんなで助け合わないと。ちょっとお節介なくらいで良いなと思います。そうしたことも含め、この映画を観ていろいろと考えてもらえたらと思うし、広い世代の方に観てもらいたいです。“老老介護”だからって、暗い映画では全くないので。

皆さんコロナ禍で気持ちが沈んでいたり、イライラしたりしている時に、うちの父と母のほっこりとした姿を見て、ちょっとでも日常の嫌なことを忘れられたり、癒しになったらいいなと思います。

取材・文:石津文子

『ぼけますから、よろしくお願いします。~おかえり、お母さん~』は2022年3月25日(金)より全国順次公開

Share On
  • Facebook
  • Twitter
  • LINE

『ぼけますから、よろしくお願いします。~おかえり、お母さん~』

東京で働くひとり娘の「私」(監督・信友直子)は、広島県呉市に暮らす90代の両親を1作目完成後も撮り続けた。

2018年。父は家事全般を取り仕切れるまでになり日々奮闘しているが、母の認知症はさらに進行し、ついに脳梗塞を発症、入院生活が始まる。外出時には手押し車が欠かせない父だったが、毎日1時間かけて母に面会するため足を運び、母を励まし続け、いつか母が帰ってくるときのためにと98歳にして筋トレを始める。その後、一時は歩けるまでに回復した母だったが新たな脳梗塞が見つかり、病状は深刻さを極めていく。そんな中、2020年3月に新型コロナの感染が世界的に拡大。病院の面会すら困難な状況が訪れる。それでも決してあきらめず奮闘する父の姿は娘に美しく映るのだった――

令和元年度文化庁映画賞、文化記録映画大賞を受賞するなど、高い評価を得たドキュメンタリー映画『ぼけますから、よろしくお願いします。』(18)。今回は前作で始まった介護生活の、その後を描く。

認知症とともに生きることの大変さや家族の苦労など日本全体が抱える高齢化社会の問題を含みながらも、映し出されるのは、こんな風に生きられたらと憧れを抱かせてくれるような、幸せな夫婦の姿。現実を冷静に映し出そうとする監督としての立場と、実の娘であるというふたつの立場で葛藤しながら撮り続けた。老いや介護を扱った作品は数多くあるが、どの家庭にも起こりうる宿命を優しく見つめた本作は、家族でなければ撮れない貴重な人生の記録である。前作を上回る深い感動を与え、新型コロナの影響で家族と容易に会うことができなくなった今という時代に、多くの人が“自分の物語”として受け入れることができるだろう。

監督:信友直子

制作年: 2021
  • BANGER!!!
  • 映画
  • 信友直子監督が語る『ぼけますから、よろしくお願いします。~おかえり、お母さん~』90歳超え両親の老老介護とその後