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笑いとバイオレンス満載!『ガンパウダー・ミルクシェイク』監督インタビュー「黒澤明やヒッチコックがアイデアの源」

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ライター:#高橋ターヤン
笑いとバイオレンス満載!『ガンパウダー・ミルクシェイク』監督インタビュー「黒澤明やヒッチコックがアイデアの源」
『ガンパウダー・ミルクシェイク』© 2021 Studiocanal SAS All Rights Reserved.

「僕はとにかく映画が大好き」

近年、女性キャストによる痛快なアクション映画が増加しているが、その中でも極めつけの作品がナヴォット・パプシャド監督の『ガンパウダー・ミルクシェイク』だ。

『ガンパウダー・ミルクシェイク』メイキング写真© 2021 Studiocanal SAS All Rights Reserved.

パプシャド監督は1980年生まれのイスラエル人で、映画ライターのアハロン・ケシャレスと共に脚本を執筆・共同監督した2010年の『ザ・マッドネス 狂乱の森』で長編映画監督デビュー。続く2013年にふたたびケシャレスとタッグを組んだ『オオカミは嘘をつく』を監督。連続幼女誘拐事件を追う刑事が悲惨な目に遭うこの作品は、クエンティン・タランティーノに“2013年最高の映画”と称賛された。その後、2014年のアンソロジー映画『ABC・オブ・デス2』を経て、本作で初の単独監督デビューを果たしている。

『ガンパウダー・ミルクシェイク』メイキング写真© 2021 Studiocanal SAS All Rights Reserved.

僕はとにかく映画が大好きで、毎日、映画を観たりゲームをして過ごしているんだ。その時に様々なアイデアが浮かんでくるんだけど、それが過去に浮かんでいたアイデアとぶつかったりして、その中でアイデアがブレンドされてジャンルを飛び越えたものになってくるんだよね。

『ガンパウダー・ミルクシェイク』の場合は、黒澤明、アルフレッド・ヒッチコック、セルジオ・レオーネという3人の素晴らしい監督の作品が源にあって、『続・夕陽のガンマン/地獄の決斗』(1966年)のエンジェル・アイが、『天国と地獄』(1963年)の世界に紛れ込んで、ヒッチコックのエッセンスをまぶしていったらどんなクレイジーな作品ができあがるだろう? ということを考えたのがスタート地点だった。その上で、本作の核になるのは「母親であるということは、どんなことなのか?」という点。主人公は自分の母に置き去りにされた暗殺者で、母を愛していながらも葛藤しながら生きてきて、やがて暗殺のターゲットである少女と出会う……というストーリーを思いついたんだ。

本作の企画ができるまでを、このように語っているパプシャド監督。自身の大好物な作品をベースにしながら新しい作品を作っていくのは、『オオカミは嘘をつく』を高評価したタランティーノ監督にも通じる所があるが、彼の作品はタランティーノよりも自身の好物をより咀嚼し、ミックスしているのが特徴的だ。

『ガンパウダー・ミルクシェイク』© 2021 Studiocanal SAS All Rights Reserved.

「ちょっと笑わせた次の瞬間、強烈な残酷描写でアゴを外させる」

そしてパプシャド監督の作品の大きな特徴は、ショッキングなシーンと笑えるシーンを交互に挿入して、観客の感情を揺さぶる手法を多用する点だろう。その辺りを監督は次のように分析している。

アジアの映画が大好きなことと関係があるんじゃないかな。今まで自分が最も影響を受けたのは、日本・韓国・香港といったアジア映画なんだけど、それらの映画はひとつのシーンの中で幅広く、様々な感情が一度に表現されていることが多いんだよね。これはアメリカやヨーロッパの映画ではあまり観たことがなかったんだ。アジア映画では怒りが暴力に変わっていく流れの中で、別のエモーショナルな感情の扉が開いていく、というシーンをいくつも観た。すごく感銘を受けたよ。ハリウッドの映画は大好きだけど、そんなシーンはほとんど観たことが無かったからね。

こうした形の感情爆発はすごく面白いし、そういう表現をすることで観客がより映画に没入しやすくなると思った。ちょっと笑わせた次の瞬間、強烈な残酷描写で笑っていた顎を外させるような、予測不能な展開を次々と出していく。ある種、五感を揺るがすような映画作りが面白いんじゃないか、そうすることで観客が緊張感をもって映画の一部になることができるんじゃないか、そう思っているんだ。そうした映画作りは、やはりアジア映画から学んでいるね。

『ガンパウダー・ミルクシェイク』メイキング写真© 2021 Studiocanal SAS All Rights Reserved.

「大虐殺、からの“最後の晩餐”みたいにしたら面白いんじゃないか」

そしてパプシャド監督は、『ガンパウダー~』で初めて本格的なアクション演出をするにあたり、新『ジュマンジ』シリーズ(2017年~)のカレン・ギラン、『ゲーム・オブ・スローンズ』(2011~2019年)のレナ・ヘディ、『ブラックパンサー』(2018年)のアンジェラ・バセット、『スパイキッズ』シリーズ(2011年ほか)のカーラ・グギーノ、そしてご存じミシェル・ヨーという女性スターたちをキャスティングし、スローモーションを多用。特に、クライマックスでは芸術的なスローモーションを見せてくれているのだが、監督は改めてジョン・ウーなどアジアの映画監督からの影響を認めた上で、次のように語っている。

ジョン・ウーは大きなインスピレーションを受けた監督だよ。クライマックスのシーンは脚本の段階で、すごく考えたんだ。最後のヤマ場なので感情面でインパクトを残さなければならないんだけど、このクライマックスの10分前には、オペラ調の曲が流れる中でサム・ペキンパー作品のような大虐殺シーンがあったわけで、それ以上に壮絶なシーンを持ってくるのが難しいと思っていた。だから、逆の方向を突き詰めることにしたんだ。前のシーンが凄惨なものであったなら、クライマックスは逆に「最後の晩餐」のような、まるでルネッサンス期の絵画みたいにしたら面白いんじゃないか?と思ったんだ。

『ガンパウダー・ミルクシェイク』© 2021 Studiocanal SAS All Rights Reserved.

そしてこのシーンが生まれたのは、本作の主要キャストが全員女性だから。彼女たちから出てくるエネルギーを感じたし、ミシェル・ヨーもアンジェラ・バセットも激怒しているんだけど、観ている側はなぜか笑顔になるし、強い女性たちの姿を見てカタルシスを感じるようなシーンになっていると思う。このシーンは血糊以外CGも使わず、5テイクしか撮れなくて大変だったんだ。すべてのアクションを入念に設計して臨んだんだけど、スタッフもすごい緊張感の中で撮影したシーンだったよ。でも撮影していて、とても楽しかったね。

『ガンパウダー・ミルクシェイク』メイキング写真© 2021 Studiocanal SAS All Rights Reserved.

パプシャド監督渾身の『ガンパウダー・ミルクシェイク』は、強い女性たちが理不尽な組織に立ち向かう痛快なアクション映画でありつつ、母と子の物語であり、主人公の成長物語でもある。すでに続編の話も出ているようだが、まずは本作を劇場で楽しんでいただきたい。

『ガンパウダー・ミルクシェイク』メイキング写真© 2021 Studiocanal SAS All Rights Reserved.

取材・文:高橋ターヤン

『ガンパウダー・ミルクシェイク』は2022年3月18日(金)より全国公開

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『ガンパウダー・ミルクシェイク』

ネオンきらめくクライム・シティ。サムはこの街の暗殺組織に属する腕利きの殺し屋。だが、あるターゲットの娘を匿ったことで組織から命を狙われるハメに。殺到する刺客たちを次々と蹴散らし、サムと娘は、かつて殺し屋だった3人の女たちが仕切る図書館に駆け込んだ。図書館秘蔵のジェーン・オースティン、ヴァージニア・ウルフの名を冠した銃火器を手に、女たちの壮烈な反撃が今始まる!

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