『ガンパウダー・ミルクシェイク』はタランティーノやペキンパーの様式美を受け継ぐ、華麗かつ残酷なデス・バレエ

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ライター:尾崎一男
『ガンパウダー・ミルクシェイク』はタランティーノやペキンパーの様式美を受け継ぐ、華麗かつ残酷なデス・バレエ
『ガンパウダー・ミルクシェイク』© 2021 Studiocanal SAS All Rights Reserved.

彼女たちが通ったあとには屍体の山

ターゲットの娘をかくまったために、組織の上層部から命を狙われてしまう殺し屋・サム(カレン・ギラン)。次々と送られてくる刺客を母親ゆずりの戦闘能力で返り討ちにしていく彼女だったが、尽きぬ追っ手を振り払うべく、元・殺し屋の3人の女たちが仕切る図書館に飛び込むことに……。

『ガンパウダー・ミルクシェイク』© 2021 Studiocanal SAS All Rights Reserved.

2022年3月18日公開の『ガンパウダー・ミルクシェイク』は、母親と同じ道を選んだヒットウーマンの受難と、そんな彼女が凄腕の先輩たちで管理された図書館仕様の武器庫に救いを求める、クレイジーなバイオレンスムービーだ。ジューシーでポップなプロダクションデザインと、ファンキーでスタイリッシュなガンバトルを最大の特徴とするが、そこには1980年生まれのナヴォット・パプシャド監督が浴したであろうアクション映画の様式が詰め込まれ、それらを華麗にアップデートさせている。女性を主要キャラクターとして展開させていくストーリーも爽快で、彼女たちの戦いの後には愚かな男たちの死体が山となって築かれていくのだ。

『ガンパウダー・ミルクシェイク』© 2021 Studiocanal SAS All Rights Reserved.

伝統を受け継いだガンフーで魅せる華麗かつ残酷なデス・バレエ

『ガンパウダー・ミルクシェイク』のガンアクションは、いわゆる「ガンフー」の申し子といえる。ガンフーとは銃(ガン)と功夫(カンフー)を合わせた造語で、銃撃戦を発展させたアクション描写の新標準だ。1980年代後半の香港アクション映画を起点に、そこにはジョン・ウーという偉大な監督の存在がある。ダブルハンドによる銃さばきにスローモーションを加え、瞬時の動作を引き延ばすことでシークエンスに美をもたらし、『ワイルドバンチ』(1969年)や『わらの犬』(1971年)で知られる名匠サム・ペキンパーが実践してきたデス・バレエ(舞うように被弾し倒れるスロー描写)を受け継いでいる。

『ガンパウダー・ミルクシェイク』© 2021 Studiocanal SAS All Rights Reserved.

パプシャド監督はこうしたガンフーを応用し『ガンパウダー・ミルクシェイク』で展開させている。しかも彼の場合、その出典のヒントを劇中で明かすので、オマージュの出元が分かりやすい。たとえば劇中、少女エミリー(クロエ・コールマン)に銃撃音を聞かすまいと、図書館員の一人マデリン(カーラ・グギーノ)がヘッドフォンで彼女の耳をおおう場面があるが、これは先のジョン・ウーが自作『ハード・ボイルド/新・男たちの挽歌』(1992年)で同様のシチェーションを設け、子どもをバイオレンスの喧騒から守ったシーンを彷彿とさせる。こうした引用を提示することで、この映画がガンフーの系統にあるのだと主張しているのだ。

『ガンパウダー・ミルクシェイク』© 2021 Studiocanal SAS All Rights Reserved.

他にも前掲したペキンパーの『ワイルドバンチ』にも目配りがなされており、同作のクライマックスに出てきたようなガトリング砲が組織の車に載せられて登場し、華麗かつ残酷なデス・バレエを繰り広げるのである。

『ガンパウダー・ミルクシェイク』© 2021 Studiocanal SAS All Rights Reserved.

また設定を拝借したということならば、サムと母スカーレット(レナ・ヘディ)がダイナーでミルクシェイクをすするイントロは、クエンティン・タランティーノ監督の『パルプ・フィクション』(1994年)冒頭、ダイナーで現金強奪を目論むカップルの会話シーンと同工異曲だ。ご丁寧なことにクライマックスの、同じ舞台で銃を付き合わせる環状構成まで踏襲している。

『ガンパウダー・ミルクシェイク』© 2021 Studiocanal SAS All Rights Reserved.

タランティーノからの影響は他にも多く見られ、たとえばボーリング場でサムが3人組の襲撃者と戦う場面は、ネオンを背後に影だけの戦闘を演出する『キル・ビル』(2003年/2004年)の花嫁(ユマ・サーマン)と暗殺集団クレイジー88との戦いを連想させるし、図書館員の(ミシェル・ヨー)が愛用している武器はチェーンという、同じく『キル・ビル』で栗山千明が演じたGOGO夕張のフライング・チェーンソーを即座に思わせる。

『ガンパウダー・ミルクシェイク』© 2021 Studiocanal SAS All Rights Reserved.

『マトリックス』以上に気合の入ったスーパースローモーション

加えて本作のアクションのレイアウトを語るにあたり、かのリュック・ベッソンの存在も露骨に見え隠れしている。『ガンパウダー・ミルクシェイク』のガンバトルに流儀を指摘するならば、昨今の映画が陥りがちな手持ち撮影と、ショットを小刻みにして迫真性を出すカオス編集にその全てを依存ぜず、流れるようなカメラワークも特徴的で、それらはきわめてベッソン的といえるものだ。なにより女性や少女に物語を主導させるプロットが大枠で『ニキータ』(1990年)や『レオン』(1994年)といったキャリア初期のベッソン監督作をなぞっており、ブレンドが心憎い。

『ガンパウダー・ミルクシェイク』メイキング写真© 2021 Studiocanal SAS All Rights Reserved.

そんな流麗なカメラワークとスローモーションを融合させた、クライマックスのダイナーにおける銃撃戦は本作最大の見せ場といっていいだろう。同シーンは240フレーム/秒のワンショットで展開されるスーパースローモーションだが、こういった高速度撮影によるアクションは『マトリックス』シリーズ(1999年~)のウォシャウスキー姉妹や、『300〈スリーハンドレッド〉』(2007年)、『マン・オブ・スティール』(2013年)のザック・スナイダーらが得意とする視覚的芸当といえる。しかし、前者は姉のラナ・ウォシャウスキーが単独で監督した『マトリックス レザレクションズ』(2021年)では控えめ傾向にあったので、近年ここまで気合の入ったスーパースローモーションのガンバトルを見るのは、じつに気持ちがいい。

『ガンパウダー・ミルクシェイク』© 2021 Studiocanal SAS All Rights Reserved.

とはいえ影響の指摘に終始しては、この作品がまるで借り物だけで構成されているような先入観を与えてしまう。だが決してそうではない。『ガンパウダー・ミルクシェイク』は過去のガンバトルとアクション映画の古典に広範囲でオマージュを捧げ、自分の表現としてそれらを昇華し、2020年代の最新型といえるようなガンフーを展開している。その継承性は、まるで本作におけるサムとスカーレットの、切っても切れぬヒットウーマン道を見るかのようだ。

『ガンパウダー・ミルクシェイク』© 2021 Studiocanal SAS All Rights Reserved.

文:尾崎一男

『ガンパウダー・ミルクシェイク』は2022年3月18日(金)より全国公開

Presented by キノフィルムズ

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『ガンパウダー・ミルクシェイク』

ネオンきらめくクライム・シティ。サムはこの街の暗殺組織に属する腕利きの殺し屋。だが、あるターゲットの娘を匿ったことで組織から命を狙われるハメに。殺到する刺客たちを次々と蹴散らし、サムと娘は、かつて殺し屋だった3人の女たちが仕切る図書館に駆け込んだ。図書館秘蔵のジェーン・オースティン、ヴァージニア・ウルフの名を冠した銃火器を手に、女たちの壮烈な反撃が今始まる!

制作年: 2021
監督:
脚本:
出演:

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