藤井道人監督が『余命10年』を語る! 小松菜奈と坂口健太郎の「もっと」を引き出した“藤井組”への感謝

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ライター:SYO
藤井道人監督が『余命10年』を語る! 小松菜奈と坂口健太郎の「もっと」を引き出した“藤井組”への感謝
『余命10年』メイキング©2022映画「余命10年」製作委員会

映画『ヤクザと家族 The Family』(2021年)、TVドラマ『アバランチ』(2021年)ほか、新作を発表するたびに話題を集める藤井道人監督。当代きっての売れっ子へと駆け上がった彼の最新作『余命10年』が、2022年3月4日に劇場公開を迎える。

『余命10年』©2022映画「余命10年」製作委員会

発症率が数万人に一人という不治の病に侵された茉莉(小松菜奈)と、同窓会で再会した和人(坂口健太郎)のかけがえのない日々をつづった本作。原作者の小坂流加さんは、自身も病と闘いながら本作を書き上げた。

そのような背景を持った小説の映画化にあたり、約1年をかけて撮影を実施した藤井監督。単独インタビューで、こだわりの数々を紐解いていく。

『余命10年』藤井道人監督

「この映画を絶対に完成させたい」という想い

―今回、原作や企画のどういった部分にご興味を持たれたのでしょう?

3年前にオファーをいただいたときに、まずはメジャー映画を撮らせてもらえる機会がうれしかったです。そして『余命10年』というタイトルを聞いたときに恋愛もの&余命ものかなと感じて、最初は葛藤がありました。自分自身がチャレンジしたことのない企画でしたし、そういった題材の日本映画を選んで観たことがなかったので。

ただ、後押ししてくれる理由が2つありました。ひとつは、プロデューサーが「『余命10年』という小説だけでなく、小坂流加さんが生きたということ、つまりフィクションとノンフィクションの融合を目指したい」と言ってくれたことです。そのお話を聞いたときに、大変そうだけどやる意味があるのかなと感じました。

そしてもうひとつは、脚本を作っているときに、小坂さんのご遺族にお会いさせていただいたこと。すごく長い時間、僕の質問に答えてくださって、小坂さんについてお話しされるご家族の姿を見たときに「この映画は絶対に完成させなきゃいけない」と強く思いました。ご家族の皆さんと天国にいる小坂さんが、「この映画を藤井に預けてよかったな」と思ってくれるような映画にしたいなと感じて、「やります」と伝えました。

『余命10年』©2022映画「余命10年」製作委員会

―映画を拝見して、リアリティある描写が印象に残りました。原作のどういった部分を抽出し、フィクションとノンフィクションの融合を創出していったのでしょうか。

僕がいただいたものは、小坂さんが初版で書かれたものに加筆した文庫版でした。小坂さんご自身が闘病のなか加筆した部分に「生きたい」という想いが強く込められていて、ご本人の心境の変化の生々しさ、人間らしさに惹かれました。彼女が遺した本心や、想いをちゃんと映画でも出したい、という気持ちが大きかったですね。

『余命10年』©2022映画「余命10年」製作委員会

数分の中に、どれだけの月日を入れ込めるか

―約2時間という映画の尺の中に収めるのは非常に大変なことだと感じると同時に、時間の経過をフラッシュバック的に見せていく“点描”など、映像ならではのテクニックを駆使していると感じました。

自分の作品は、時期を分けたり長い期間を描いたものが多いんです。『青の帰り道』(2018年)もそうですし、『ヤクザと家族 The Family』(2021年)もそう。そして今回の「10年」をどう描けばいいのか――今回は、1年に1回しか映画館を訪れることのない方にも観てほしいし、そういった方が観たときにすごく感情が動く映像って、どういうものなんだろう? と葛藤しながら、脚本作りの段階からトライ&エラーを繰り返しました。

たとえばSYOさんともよく話すA24の作品、トレイ・エドワード・シュルツ監督の『WAVES/ウェイブス』(2019年)は、時間の経過や感情の変化を様々な手法を用いて表現していますよね。ただ日本だと「MVやCMっぽいね」と毛嫌いされてしまうことが多い。とはいえ僕の中にはそんな感覚は一切ないので、10年を描くなかで2~3分の間に、どれだけ年月を落とし込めるかはチャレンジした部分です。僕の作品には点描演出が多いですが、その一個の集大成をちゃんと見せたいと思い、ふんだんに盛り込みました。

『余命10年』©2022映画「余命10年」製作委員会

―観る側にとっては短時間で感情を揺さぶられるものですが、これだけの素材を撮らなければならないのは大変ですよね。

海に行くシーンがありますが、そのためだけに3時間くらい車で走って伊豆の端っこの方に行ったり、花火大会のシーンも道路を封鎖して撮りました。コロナ禍だから花火大会はやっておらず、感染対策を遵守したうえで、撮影のために屋形船を出していただいたんです。桜のシーンもそうですが、花見や花火大会など、僕たちがコロナ禍でできなかった体験をしっかり映像の中に入れ込みたいと思っていました。

同時に、茉莉と和人がスーパーに買い物に行ったり、ただ寝ているだけといったような、僕たちが日常で見落としがちな風景・感情もちゃんと入れるようには心がけました。

『余命10年』©2022映画「余命10年」製作委員会

役者から「もっと」を引き出す粘りの演出

―茉莉と和人を演じた小松菜奈さん・坂口健太郎さんの“変化”も、観た方の記憶に残るのではないかと思います。おふたりの演技に、しっかりと重ねた年月が乗っていました。

ふたりとはクランクイン前からコミュニケーションをとらせてもらいました。小松さんとは一緒に医療の取材やお墓参りに行ったり、長い時間を一緒に過ごさせてもらったことが大きかったかもしれませんね。撮影期間の1年間の最初は夏からでしたが、初めはある種の探り合いだったと思うんです。どんな監督なんだろう? とか色々なことがあったかと思いますが、冬編を撮り始めたときにはもう完全に自分の思い描いていた茉莉になっていました。

また、僕は本作において和人に自分の感情を乗せて書いていったところがあって、坂口くんとは「和人だったらこうなるよね」と毎回コミュニケーションを重ねながら撮っていきました。この10年は茉莉が生きた時間であると同時に、和人がどう成長したか? でもある。メイクなど外側のチューニングは我々スタッフがやりますが、内面や感情の変化は坂口くん自身がものすごく考えてやってくれました。素晴らしかったですね。

『余命10年』メイキング©2022映画「余命10年」製作委員会

―藤井監督は現場を拝見していても、役者の方々と同じ目線で話したり、寄り添うイメージがあります。どのような言葉をかけて、人物像を共に作り上げていったのでしょうか。

これは役者さん全般に言えることですが、感情がグッと入り込みすぎて“自分”を忘れてしまう瞬間があるんです。そういったときに「いまのテイクはすごく良かったけど、もうちょっと『このセリフを言っちゃった自分』に感情を持っていくとどうなりますか?」といったような調整を行う感じですね。

僕よりも茉莉や和人のことを考えているのは小松さんや坂口くんだから、それを否定するのではなく、もっともっと引き出す意識です。ちょっと疲れさせてしまう瞬間もありましたが(苦笑)、もっといいものが出る! と信じてやりました。

『余命10年』©2022映画「余命10年」製作委員会

「妥協しなくていい」藤井組への感謝

―粘りの演出があったわけですね。

そうですね。僕は毎回「この作品が遺作になってもいい」と思いながらやっているのですが、今回はその感情がことさら強く、責任と重圧のなか闘っていた1年でした。それを助けてくれたのはキャストやスタッフだったなと、いま改めて感じますね。

藤井組のみんなは、見えないところに手が届く存在です。「藤井さんがこういう画を撮りたがっているから、ここまで映るだろうな」と感じて、僕が言う前にはもう“人止め”をしてくれていたり、その態勢をとってくれていたりする。僕の一挙手一投足をちゃんと見てくれている人たちが多いから、僕も適当な演出をつけるなんてできないし、「何がいいだろう」って悩み続ける。みんなが僕の「OK」という言葉を待ってくれているというプレッシャーを感じつつ、良い芝居を引き出してあげたいという想いが全スタッフにある幸せを感じていました。妥協をしなくてもいい人たちが集まった感覚があります。

『余命10年』©2022映画「余命10年」製作委員会

―素晴らしい関係性ですね。そういった座組でシーンを作っていくなか、特に苦労した思い出はありますか?

今回は、全部がぴたりと合わないといけないシーンも多かったと思うんです。茉莉と和人のスキー場のシーンがありますが、辺りがぼんやりと明るくなり、朝日が出るまで1時間くらいしかない。「その光が撮りたい」となったときにみんなが早起きして、1時間で撮り切る! と緊張感をもって真剣に取り組みました。そのほか、雨や雪、銀杏、桜を降らせるシーンも大変でした。とにかく色々降らせましたね……(笑)。

あとは病院です。コロナ禍だったので、撮影できる病院がないんです。都内もしくは関東近郊で使用できるのは廃病院ばかりで、ただそこで撮ると最先端医療を行う場所にはどうしても見えない。そんなとき、制作部がこれからオープンする仙台の病院を見つけてきてくれて、よくぞ見つけてくれた! と思いました。本当に有り難かったですね。

『余命10年』©2022映画「余命10年」製作委員会

「一生忘れられない映画」を目指す

―その「降らせる」にも通じますが、原作を読まれた際に「四季折々の自然の変化が印象に残った」とコメントされていたかと思います。藤井監督は普段から文章を読む際にビジョンが浮かぶのでしょうか。

浮かべるようにしていますね。小説を読むときもそうですし、絵画を見るときなども「自分がこの中に入ったらどういうアングルなのか? ここではどういう対話が生まれるんだろう」と考えるんです。そういった意味では、アングルも画もしっかり決まっている漫画が一番大変ではありますね。

『余命10年』だと、最初にプロデューサーから提案していただいた際に僕からお伝えした一つ目の条件は、「1年かけて四季を撮りたい」でした。めちゃくちゃ無謀なことを言っているのは理解したうえで(笑)。

役者さんというのは何年も先までスケジュールが埋まっていて、その中で「この作品と1年間向き合ってください」というのは事務所からしてもハードルが高いことだとは思うのですが、お願いします! というのはその時点で伝えていました。

『余命10年』©2022映画「余命10年」製作委員会

―今回の取材の序盤で「1年に1回しか映画館を訪れることのない方」のお話がありましたが、藤井監督がこれまで手掛けられた映画の中で、最もマスに向けた作品でもあるかと思います。その辺りの想い、ぜひ教えてください。

僕は予算10万円くらいの自主映画から活動を始めて、そのころは自分たちで劇場でもぎりをしてチラシも作り、45席くらいしかない劇場になんとか来てもらおうと必死でした。あの頃からずっと続く願いは、「どれだけ多くの人に見てもらうか」。だから映画がヒットしないとすごく悔しいし、何が足りないか散々悩みもします。

そういった僕が今回こういったチャンスをいただいたときに、日常的に映画に触れている方々だけじゃなく、住んでいる町には映画館がなく、近隣の大きな映画館まで足を運ぶ方々や中高生……そういった多くの方々が観に行きたいと思えて、実際に観てから家に帰ってきて「あの映画を観たけど面白かったよ」と言ってくれる作品にしたいという想いは、当初からありました。

ただ、だからといってセリフを過剰に説明的にしたくはない。映像に従事する者としては画や、美術、動き、音、全てでちゃんと伝えたいし、映画館がない町の人でもこの映画をイベントとして観に行ったときに、一生忘れられないものにしたかったんです。僕らが思春期に映画館で「これすげぇ!」と思った映画の感じを自分の作品でもできないかなというのは目標ですし、そう届いてくれることを願っています。

『余命10年』©2022映画「余命10年」製作委員会

取材・文:SYO

『余命10年』は2022年3月4日(金)より全国公開

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『余命10年』

数万人に一人という不治の病で余命が10年であることを知った二十歳の茉莉。彼女は生きることに執着しないよう、恋だけはしないと心に決めて生きていた。そんなとき、同窓会で再会したのは、かつて同級生だった和人。別々の人生を歩んでいた二人は、この出会いをきっかけに急接近することに——。
もう会ってはいけないと思いながら、自らが病に侵されていることを隠して、どこにでもいる男女のように和人と楽しい時を重ねてしまう茉莉。——「これ以上カズくんといたら、死ぬのが怖くなる」。
思い出の数が増えるたびに失われていく残された時間。二人が最後に選んだ道とは……?

制作年: 2021
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