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森山未來&伊藤沙莉の“背中を押された言葉”とは? Netflix『ボクたちはみんな大人になれなかった』の背景に迫るインタビュー

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ライター:#SYO
森山未來&伊藤沙莉の“背中を押された言葉”とは? Netflix『ボクたちはみんな大人になれなかった』の背景に迫るインタビュー
森山未來 伊藤沙莉

初共演! 森山未來&伊藤沙莉

人は思い出にとらわれて、生きている。それが良いものでも悪いものでも、全てがいまの自分を形成してくれた糧なのだ――。観終えた後、そんな気持ちに包まれる映画が誕生した。作家・燃え殻のベストセラー小説を、森山未來伊藤沙莉の共演で映画化した『ボクたちはみんな大人になれなかった』(2021年11月5日より劇場公開&Netflix独占配信)だ。

『ボクたちはみんな大人になれなかった』©2021 C&I entertainment

物語は、2020年から1995年へと遡る構成となっている。現代の東京に生きる46歳の佐藤(森山未來)が、かつての友人と再会し、25年間の半生を振り返る。仕事のこと、友人のこと、そしてずっと好きだったかつての恋人・かおり(伊藤沙莉)のこと――。

劇中で一人の人物の21歳から46歳を演じた森山と、主人公の思い出の中に蘇る“忘れられない人”に扮した伊藤。本作で初共演を果たしたふたりに、話を聞いた。

森山未來 伊藤沙莉

「私をヒロインに置く感覚が面白いと思った」

―森山さんは<アクターズ・ショート・フィルム>で監督も務め、伊藤さんはナレーションやMC等も務めるなど、どんどん活動の幅が拡大している印象です。お二人がいま現在惹かれる企画は、どんなものなのでしょう?

伊藤:私は新しいものが好きなんです。やれないこと・やらないことはあるけど、そこにカテゴライズしていないものはお声がけいただければやってみたいなと思いますし、「知らない世界を見てみたい」という興味が強いですね。

『ボクたちはみんな大人になれなかった』だと、私をヒロインに置こうと思った感覚を面白いと思いました。ヒロインをやりたくないという気持ちは全くないんですが、「なんで私なのかだけ教えて?」とは思っちゃって(笑)。それがないと、どう立っていればいいか分からなくなっちゃう(笑)。でも色々とお話を聞いて、かおりが凝り固まったわかりやすいヒロイン像じゃなく、ひとりの男性にとって特別な存在ということがわかりました。私が勝手に思い描いていたヒロイン像じゃないところでヒロインにしてもらったことが、嬉しかったですね。

伊藤沙莉

森山:いま現在の企画で言うと、表に出ているものとまだ出ていないものがありますが、今年1年で関わったパフォーマンスや演劇、映画が大体全部“生死”に強くまつわるものでした。自分が作るものもそうでしたし、意図して引き寄せているつもりは全くないのですが、2021年はそういう年でしたね。

―それは、これまでのキャリアの中でも珍しい現象だったのでしょうか。

森山:そうですね。今年表に出たものでいうと、仕事のオファーを受けてコンセプトを立ち上げて作品にしていく、その始まりが去年くらいからなんですよ。そういった意味では、ある種、この1、2年でそういったことを考えさせられる作品に出逢い続けている部分はあるのだと思います。

2021年6月の舞台『未練の幽霊と怪物』に参加させていただいた流れで夢幻能というものに興味が惹かれていったり、3月に総合演出をさせていただいた『Re: Incarnation』というパフォーマンスでは、神社や仏教という儀式、つまりフィジカルとしての様式に興味を持ったんですが、それらをリサーチしていくと必然的に幽玄の世界になる。夢幻能なんて、そこに存在しているはずのないものが立ち上がってきて、それが舞や言葉になるものじゃないですか。そうすると、自分自身もそういった“生死”というものに目が向きがちになっていくんですよね。

森山未來

互いの緊張感が導き出した、出会いのシーン

―“新しさ”でいうと『ボクたちはみんな大人になれなかった』は現在から過去に逆行していく、かつそれぞれのシーンが断片的な思い出である、というつくりになっていますが、順撮り(脚本通りの撮影順)だったのか時系列順だったのか、どういった形式で撮影したのでしょう?

森山:できるだけ順撮りで撮りました。髪を少しずつ短くして、映画全体の最後になる2020年のシーンには一番短い状態になるように持っていったり。

伊藤:私のパートは時系列順の1995年から撮っていただきました。

『ボクたちはみんな大人になれなかった』©2021 C&I entertainment

―2020年のシーン、夜から明け方にかけて新宿や渋谷、原宿といった思い出の地を歩いていく様子がとても印象に残りました。

森山:今年の2月くらいに、深夜から明け方にかけて撮影していました。普段だったら夜中の2時、3時でも渋谷は人が多くてぐちゃぐちゃしているのですが、すごく静かで不思議な体験でしたね。

―撮影順についてお聞きしたかったのは、各シーンは断片的なものであっても、演じるうえでは役の思考を含めて連結させていかねばならず、非常に大変だったのでは? と思ったからです。

伊藤:そういったところも加味して、なるべくやりやすい形で撮影してくれたのはありがたかったですね。例えば私のクランクインのシーンは、佐藤(森山未來)と初めて会ったあと、喫茶店で会話するところだったんです。私自身も緊張していましたし、その状態がかおりとリンクしたところがあって。

『ボクたちはみんな大人になれなかった』©2021 C&I entertainment

伊藤:その前にWAVEの袋を持って初めて会うシーンは、ラブホテルのシーンを1日挟んでから撮ったので時系列順ではないのですが、ラブホテルを挟んだことで、また緊張しちゃって(笑)。そういった部分も含めて、個人的にはやりやすかったですね。

森山:今回のお話って、全部かおりから始まっているようなところがあると思います。現代に近いシーンでも、佐藤の中にはかおりの言葉や存在がずっと引っかかっている。それもあって、沙莉ちゃんとどうコミュニケーションを取ったらいいのか、僕も緊張していました。喫茶店のシーンは、そこが上手く作用したかもしれません。

森山未來 伊藤沙莉

作り手の想いが詰まった、異例の衣装合わせ

―先ほど森山さんが「佐藤の年齢が上がるごとに髪が伸びて、最後に短くなる」というお話をされていましたが、その演出がとても面白かったです。どういう話し合いの中で、この形になったのでしょうか。

森山:前髪を作る人って、表情自体を前髪とセットで作るところがあると思うんです。また髪が長いとアレンジが色々できるぶん、年齢的なごまかしも効くんですね。2020年の髪が一番短い時は、もっとも顔の輪郭が際立つ。そのぶん素直な年齢が出てくるだろう、というような話をした記憶があります。

『ボクたちはみんな大人になれなかった』©2021 C&I entertainment

―ビジュアル面だと、かおりは登場するごとに服装が変わりますね。

伊藤:衣装合わせ、5回ぐらいやりました(笑)。

森山:そうなんですよ(笑)。

―5回! 多いですね……!

森山:普通は多くても2、3回ですからね。

伊藤:異例ですよね。でもそれは、衣装で表現したいものが明確にあったからこそだと思います。もっともっと追求しなくちゃいけないとみんなが思ったから、何回も集まって考えることになったんですよね。「これでいいか」と済ませたくない気持ちが、すごく強かった現場でした。

森山未來

背中を押してくれた、共演者からの言葉

―劇中の「キミは大丈夫だよ。おもしろいもん」という言葉に救われる人は多いのではないかと思います。お二人にとって、長く心に残っている“背中を押された言葉”はどんなものでしょう?

伊藤:小学生の時に出演した『みんな昔は子供だった』(2005年)の打ち上げのときに、永山瑛太さんから言われた言葉ですね。私が演じていたのが瑛太さんの役に恋するキャラクターだったんですが、打ち上げのときとかって子役は先に帰らされちゃうんですよ。それでご挨拶に行ったら「頑張ってね」と声をかけてくれたあと、突然「いや、頑張らなくていい。そのままでいてくれたら嬉しい」と言って下さって、それで今日まで、そのままでい続けられました。シャカリキになって頑張りすぎず、楽しんでお仕事をできたらいいなという“軸”を作ってくれた言葉ですね。

伊藤沙莉

森山:それ、後から瑛太に確認した?(笑)

伊藤:いや、していないです。覚えてないんじゃないかな……酔っぱらってたし(笑)。

森山:そういうときって、往々にして覚えてないんだよね……(笑)。

僕は16歳くらいのときに、大阪松竹座でミュージカル『火の鳥』(2000年)に出ていたのですが、そのときに同じ楽屋だった山内圭哉さんから言われた言葉を覚えています。なんでそういう話になったのかは忘れてしまったのですが、「僕ってどうなんですかね」みたいなことを質問したら、「20歳になったときにどういう芝居をして、どういう役者になっているかやな」みたいなことを言われたんです。

自分の中にその言葉がずっと残っていて、でも30歳くらいのときに山内さんと久しぶりに会ってその話をしたら、一切覚えてなかった(笑)。

伊藤:(笑)。

森山未來 伊藤沙莉

取材・文:SYO

撮影:川野結李歌

『ボクたちはみんな大人になれなかった』は2021年11月5日(金)よりシネマート新宿、池袋シネマ・ロサ、アップリンク吉祥寺ほかロードショー&Netflix全世界配信開始

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『ボクたちはみんな大人になれなかった』

1995年、ボクは彼女と出会い、生まれて初めて頑張りたいと思った。「君は大丈夫だよ。おもしろいもん」。初めて出来た彼女の言葉に支えられがむしゃらに働いた日々。

1999年、ノストラダムスの大予言に反して地球は滅亡せず、唯一の心の支えだった彼女はさよならも言わずに去っていった――。

志した小説家にはなれず、ズルズルとテレビ業界の片隅で働き続けたボクにも、時間だけは等しく過ぎて行った。そして2020年。社会と折り合いをつけながら生きてきた46歳のボクは、いくつかのほろ苦い再会をきっかけに、二度と戻らない“あの頃”を思い出す……。

制作年: 2021
監督:
出演: