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『ハウス・オブ・グッチ』を語る! リドリー・スコットとアダム・ドライヴァー「グッチ一族の内幕はシェイクスピア劇のよう」

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ライター:#斉藤博昭
『ハウス・オブ・グッチ』を語る! リドリー・スコットとアダム・ドライヴァー「グッチ一族の内幕はシェイクスピア劇のよう」
『ハウス・オブ・グッチ』© 2021 METRO-GOLDWYN-MAYER PICTURES INC. ALL RIGHTS RESERVED.  

「ファッションの世界に戻ってきたのは運命かもしれない」

リドリー・スコットといえば、『エイリアン』(1979年)や『ブレードランナー』(1982年)でSFアクション映画に革命をもたらした監督というイメージが強い。実際に『エイリアン』に関しては、続編の『エイリアン2』(1986年)の監督をオファーされずに複雑な思いを抱えたままシリーズから一旦は身を引いたものの、『プロメテウス』(2012年)、『エイリアン:コヴェナント』(2017年)と自ら監督として復活させ、さらなる継続にも意欲をもっている。

あるいはリドリーの作風なら、男たちの壮絶な運命と闘いのドラマが目に浮かぶ人も多いだろう。アカデミー賞作品賞に輝いた『グラディエーター』(2000年)を筆頭に、『ブラック・レイン』(1989年)、『ブラックホーク・ダウン』(2001年)、『アメリカン・ギャングスター』(2007年)など傑作が揃っている。

しかしリドリーのフィルモグラフィーを振り返れば、その多様なジャンルに気づくはずだし、とくに近年はますますその多様化が進んでいる印象だ。日本でもヒットした『オデッセイ』(2015年)は、火星での生活というSF要素もありながら、ヒューマンな感動に軽やかさまで織り込み、「これはリドリーの監督作なのか?」と、いい意味で映画ファンを裏切るような作品も送り出している。巨匠の意欲と作品への柔軟な対応力には、ますます磨きがかかっている。

そして最新作『ハウス・オブ・グッチ』も、GUCCIという巨大ファッションブランドの内幕というテーマが、これまでのリドリー作品の中では新鮮だ。

『ハウス・オブ・グッチ』© 2021 METRO-GOLDWYN-MAYER PICTURES INC. ALL RIGHTS RESERVED.

ただ、リドリーとファッションブランドとの関係といえば、時代をさかのぼること40年以上前、シャネルN°5のCMを監督していたことが思い出される。そのことに話を向けると、リドリーは次のように振り返る。

シャネルか、なつかしいね。4年にわたって4回のキャンペーンで仕事したのだが、香水の広告における従来の概念を変えることができたと今でも思っているよ。そういえば大学を卒業する頃、私の夢はファッション・フォトグラファーになることだった。そんな風に過去を振り返ると、『ハウス・オブ・グッチ』でファッションの世界に戻ってきたことも、運命だったのかもしれないね。

「リドリーの現場では皆、即興的で前のめりに演技してしまう」

「ビジュアリスト」と称されることも多いリドリー・スコットなので、ファッションブランドとの相性も良いことを、この『ハウス・オブ・グッチ』は証明する。ただ、本作は完成までに長い時間がかかった。リドリーも、なかなかタイミングをつかめなかったようだ。

私の妻でプロデューサーのジャンニーナが、20年前にこの企画を私に持ちかけてきて、いろいろ文献や素材もあったが、なかなか脚本化に至らなかった。しかし3年前、脚本家のロベルト・ベンティヴェーニャに出会い、彼がミラノ出身で、母親がファッション業界の人だとわかり、適任者なので脚本を依頼した。ロベルトは6週間で脚本を仕上げてくれたので、私もすぐさま製作に取りかかったんだ。

『ハウス・オブ・グッチ』© 2021 METRO-GOLDWYN-MAYER PICTURES INC. ALL RIGHTS RESERVED.

『ハウス・オブ・グッチ』に占い師のピーナ役で出演したサルマ・ハエックも「私はジャンニーナ・スコットと親しかったので、彼女が20年間、この企画に情熱を注ぎ、脚本家探しに奮闘している姿を見守ってきた」と語るように、ハリウッドでは多くの人がこの企画の行方を気にしていた。

『ハウス・オブ・グッチ』© 2021 METRO-GOLDWYN-MAYER PICTURES INC. ALL RIGHTS RESERVED.

こうして『ハウス・オブ・グッチ』はようやく撮影が開始されるも、世界は新型コロナウイルスのパンデミック下に入っていた。「ワクチンを打って、マスクを着けるという、私の常識を超える状況での撮影だった」と話すリドリーだが、壮大なイタリアロケをこなしながら、現場での感染はゼロでクリア。撮影日数も43日間という、リドリーの現場としても異例のスピードだった。この現場について、GUCCIの創業者の孫で、最終的に妻のパトリツィアの計画で殺害されるマウリツィオ・グッチを演じたアダム・ドライヴァーは次のように振り返る。

リドリーの現場はテイク数が少ないうえに、カメラの数が多く、あちこちの方向から一度で撮ってしまうので、僕ら俳優は映画というより、舞台で芝居をしている感覚になります。つまりカメラに撮られているという意識が少ない。ある俳優に30分集中して、その後に休憩を挟んで……ということもないので、みんな即興的で前のめりに演技してしまうんです。

『ハウス・オブ・グッチ』© 2021 METRO-GOLDWYN-MAYER PICTURES INC. ALL RIGHTS RESERVED.

アダム・ドライヴァーは『最後の決闘裁判』(2021年)に続いてのリドリー作品だが、2作の役柄はまったく違う。リドリーもアダムについて「現代で最高のカメレオン俳優」と賛辞を惜しまない。

パトリツィア役のレディー・ガガの熱演が話題だが、本作には、ジェレミー・アイアンズ、アル・パチーノ、ジャレッド・レトというオスカー俳優が集結。誰もが、リドリーの現場での演じやすさを認めている。マウリツィオのいとこで、独自のデザイン感覚でGUCCIのイメージを一新させようとするパウロ役のレトは、本人とはわからないほどの特殊メイクが課せられたが、「メイクには毎日、6時間かかったけれど、その時間を利用し、瞑想しながらキャラクターの内面に入り込むことができた」と告白する。

『ハウス・オブ・グッチ』© 2021 METRO-GOLDWYN-MAYER PICTURES INC. ALL RIGHTS RESERVED.

「グッチ一族の内幕は現代のシェイクスピア劇のよう」

ミラノの美しい街並みや、風光明媚な湖など、イタリアでの壮大なロケによる映像、背景となる1970〜90年代のカルチャーの変化をファッションで表現するなど、リドリー・スコットのビジュアリストとしての才能が発揮される『ハウス・オブ・グッチ』。しかしリドリー本人は「美術や衣装の仕上がりは、最高のスタッフに任せたので、彼らの功績。私の才能ではない」と、あくまでも謙虚だ。

『ハウス・オブ・グッチ』© 2021 METRO-GOLDWYN-MAYER PICTURES INC. ALL RIGHTS RESERVED.

時代の再現という点では、音楽も効果的で、ドナ・サマー、ユーリズミックス、ブロンディなど、いい意味でのベタな選曲が観ているこちらのテンションを上げる。この選曲も誰かに任せたのか尋ねると、リドリーはあっさりと否定する。

私は映画監督だ。使用する曲のチョイスは監督の仕事だよ。今回の舞台はイタリアが中心で、しかも物語も劇的なので、オペラの曲を使うと早くから決めていた。それを各時代のヒット曲と併用する。つまりこれは、ニードル・ドロップ(レコードに針を落とすように既成曲を使う)に適した作品なんだ。パトリツィアがマウリツィオと愛を交わし、結婚式へ移るシーンは、「椿姫」の「乾杯の歌」からジョージ・マイケルの「Faith」をつなぎ、最高の組み合わせになった。ラストに使った、パヴァロッティとトレイシー・チャップマンのデュエット「Baby Can I Hold You Tonight」では、大いなる“後悔”を表現したよ。

この『ハウス・オブ・グッチ』について、リドリー・スコットは「グッチ一族のドラマチックな内幕劇は、現代のシェイクスピア劇のようだ」と語る。映像や演技、美術、衣装、音楽と、すべての要素を「映画らしく」デコレーションしながら、時代を超えて人々の本能を刺激する物語を、現在84歳の巨匠は目指したのである。

『ハウス・オブ・グッチ』© 2021 METRO-GOLDWYN-MAYER PICTURES INC. ALL RIGHTS RESERVED.

取材・文:斉藤博昭

『ハウス・オブ・グッチ』は2022年1月14日(金)より全国公開

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『ハウス・オブ・グッチ』

貧しい家庭出身だが野心的なパトリツィア・レッジャーニは、イタリアで最も裕福で格式高いグッチ家の後継者の一人であるマウリツィオ・グッチをその知性と美貌で魅了し、やがて結婚する。しかし、次第に彼女は一族の権力争いまで操り、強大なファッションブランドを支配しようとする。順風満帆だったふたりの結婚生活に陰りが見え始めた時、パトリツィアは破滅的な結果を招く危険な道を歩み始める……。

制作年: 2021
監督:
出演: