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怪僧ラスプーチン登場!『キングスマン:ファースト・エージェント』は全ての始まりの物語!! マシュー・ヴォーン監督作

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ライター:#稲垣貴俊
怪僧ラスプーチン登場!『キングスマン:ファースト・エージェント』は全ての始まりの物語!! マシュー・ヴォーン監督作
『キングスマン:ファースト・エージェント』© 2021 20th Century Studios. All Rights Reserved.

すべての始まりの物語

2014年『キングスマン』、2017年『キングスマン:ゴールデン・サークル』。マーク・ミラー&デイヴ・ギボンズのコミックを実写映画化した『キングスマン』は、スタイリッシュなアクション&ユーモアの融合と痛快なストーリーテリングで世界中の映画ファンの心をつかみ、世界興行収入は累計900億円を突破する超人気シリーズだ。

待望の3作目となる『キングスマン:ファースト・エージェント』は、その邦題が示唆するように、シリーズ初の前日譚映画である。“キングスマン”といえば、表の顔は高貴な英国紳士、裏の顔はスマートだが超強力なスパイ組織。本作はその誕生を描く物語とあって、前2作の主役であるコリン・ファースとタロン・エジャトンは一切登場しない。すなわち、ここからシリーズに入ってもよいという親切設計で紡がれる、“すべての始まりの物語”なのだ。

舞台は1914年。貴族社会を倒そうと企む“闇の狂団”の面々が、世界大戦を引き起こすべく欧州各国にスパイを送り込んでいた。イギリス、ドイツ、ロシア3国間の緊張感が高まる中、事態を察知したオーランド・オックスフォード公(レイフ・ファインズ)は戦争を阻止すべく動き始める。しかし戦争は容赦なく幕を開け、オックスフォード公の息子・コンラッドは、その正義感ゆえに戦場の最前線に出たがっていた。親子と仲間たちは力を合わせ、大戦を終局に向かわせることができるのか?

『キングスマン:ファースト・エージェント』© 2021 20th Century Studios. All Rights Reserved.

これが『キングスマン』なのか!?

第一次世界大戦を背景に、イギリス国王ジョージ5世やロシア皇帝ニコライ2世、ドイツ皇帝ヴィルヘルム2世、アメリカ大統領ウッドロウ・ウィルソン、そして怪僧グリゴリー・ラスプーチンといった実在の人物を多数登場させつつ、そこにキングスマン設立に繋がるキャラクターを登場させる今回の脚本は、実際の史実と虚構を絡み合わせた、いわば“偽史”エンターテインメント。従来の作品がシリアスな社会的テーマを骨格に持ちつつも、あくまで荒唐無稽なスパイ・アクションを徹底してきたことを鑑みれば、今回は大きな作風の変化がある。

『キングスマン:ファースト・エージェント』© 2021 20th Century Studios. All Rights Reserved.

あえて言えば、本作は『1917 命をかけた伝令』(2019年)をダイレクトに想起させる戦争映画であり、国家間の緊迫を描いたポリティカル・サスペンス映画であり、まぎれもなく『キングスマン』シリーズの最新作と言えるスパイ・アクション映画である。マシュー・ヴォーン監督作品としてもチャレンジングな試みだが、物語は必然的にシリアスなものとなっており、過去2作のファンであればあるほど、「これが『キングスマン』なのか……?」という戸惑いを覚えることになるかもしれない。

しかし『キングスマン』シリーズしかり、『キック・アス』(2010年)しかり、マシュー・ヴォーンは〈緊張〉と〈緩和〉のバランスを鮮やかに操ってきたフィルムメーカーである。本作では思い切って戦争映画のテイストにシフトする時間もあれば、サスペンスに軸足を置こうとする時間もあるが、そのぶん『キングスマン』らしいテイストに作品が戻ってくる瞬間の快感はたまらない。とりわけ、アクションシーンのカメラワークやコレオグラフィーは過去2作に決して負けない切れ味だ。また、シリーズの熱心なファンが思わずニヤリとする要素もきちんと用意されている。

『キングスマン:ファースト・エージェント』© 2021 20th Century Studios. All Rights Reserved.

野心的な世界観を支える俳優陣たち

新たな(しかし物語としては最古の)『キングスマン』の世界観を支えるのは、揃いに揃った豪華俳優陣だ。主演・製作総指揮のレイフ・ファインズはオックスフォード公の軽やかさと苦悩を鮮やかに演じ分け、またアクション俳優としての意外な魅力もアピールした。その右腕である執事・ショーラ役のジャイモン・フンスー、1人3役で英・露・独の指導者を演じたトム・ホランダー、エネルギッシュな魅力を放つ紅一点のジェマ・アータートンのほか、チャールズ・ダンスやダニエル・ブリュール、アーロン・テイラー=ジョンソンも出演時間こそ少ないが作品に説得力をもたらした。

『キングスマン:ファースト・エージェント』© 2021 20th Century Studios. All Rights Reserved.

しかしながらMVPは、本作を『キングスマン』シリーズとして、あるいは偽史映画として立脚させるに至らしめたラスプーチン役のリス・エヴァンスだろう。他の人物とはトーンもテンションも異なる人物造形を破綻ギリギリのところで成立させ、『キングスマン』らしい荒唐無稽さ(“デタラメさ”と言い換えてもいい)を担うとともに、これが史実をどのような手つきで扱う物語なのか、そのリアリティの線引きを体現した。出番のすべてが見どころと言っても過言ではなく、スピンオフ作品の実現を待ちたくなるほどだ。

マシュー・ヴォーンによる“ユニバース実験”

『キングスマン:ファースト・エージェント』は、作風の面でも、または物語の面でもシリーズの常識を覆し、その領域を押し広げる作品となった。マシュー・ヴォーンにとって新境地と言えるシーンも多く、その意味でも極めて野心的・意欲的だと言える。今後、『キングスマン』シリーズはコリン・ファースとタロン・エジャトン主演によるメインシリーズ第3作が製作され、そちらの物語は次回で完結する模様。本作はそれに先駆け、“『キングスマン』ユニバース”の拡大を狙った映画でもあるのだ。

ちなみに別の角度から言えば、第一次世界大戦を背景に「表向きは紳士であるスパイたちが実在人物の中で暗躍する偽史スパイ・アクション」というコンセプトは相当にマニアックなものだ。いまやヒットメーカーのマシュー・ヴォーンとはいえ、これを完全オリジナルの脚本で、これほどの規模で実現することは難しかっただろう。同じく2021年、ジェームズ・ガン監督がハードコアな戦争強盗映画をDCのブランドで実現した『ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結』と同様、本作もまた『キングスマン』だからこそ叶った、マシュー・ヴォーンによる“ユニバース実験”だったのだとも言えるはずだ。

文:稲垣貴俊

『キングスマン:ファースト・エージェント』は2021年12月24日(金)より全国公開

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『キングスマン:ファースト・エージェント』

──1914年。世界大戦を密かに操る謎の狂団に、英国貴族のオックスフォード公と息子コンラッドが立ち向かう。 人類破滅へのタイムリミットが迫る中、彼らは仲間たちと共に戦争を止めることができるのか?

制作年: 2020
監督:
出演: