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【追悼・若山弦蔵】コネリー版ボンド初体験は若山ボイスだった ~吹替版『007』年末一挙放送に寄せて~

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【追悼・若山弦蔵】コネリー版ボンド初体験は若山ボイスだった ~吹替版『007』年末一挙放送に寄せて~
『007は二度死ぬ【地上波吹替版】』(C) 1967 Danjaq, LLC and Metro-Goldwyn-Mayer Studios Inc. All Rights Reserved./CS映画専門チャンネルムービープラスで2021年12月放送

初めて聞いたボンドの声は若山弦蔵だった

初めて映画館で『007』シリーズを見たのは1979年の『007/ムーンレイカー』だった。つまり筆者は完全にロジャー・ムーア世代である。しかし、初めて見たボンドはテレビの洋画劇場で放送されていた初代ショーン・コネリー。よって、なんとかコネリー世代の仲間に入れて欲しいと密かに願っている。

DVDソフトやCATVで字幕版を見るのが当然の現代と違い、当時は市販のビデオもなく、二番館でリバイバル公開されない限り昔のボンド映画をオリジナル音声で見ることは不可能だった。そう、筆者と同じ時代に生きたボンドファンは、テレビの吹替放送でコネリーの勇姿を初めて見た世代だ。それまでコネリーの声なんて聞いたことがなく、興味もなかった。それでもとにかくカッコ良かったし、違和感なくのめりこめた。それは、ひとえに若山弦蔵さんのおかげである。残念ながら2021年5月に鬼籍に入られたが、親しみとボンド愛をこめて“弦さん”と呼ばせてもらうことをご容赦願いたい。

そんな弦さんのコネリーがいなかったら、筆者はボンドに夢中になっていなかったかもしれない。それくらい当時の少年たちに大きなインパクトを与えたのである。

コネリーが日本語を喋っているかのように錯覚させる若山ボンド

吹替版は圧倒的に情報量が多いので、物語を理解するには格好のテキストになるし、思わぬ場面にジョークが隠されていることを知るきっかけにもなる。しかし、オリジナル音声にこだわる洋画ファンの中にはセリフのちょっとした違和感が気になって吹替版に集中できない、という話もよく聞く。決して声優陣の技術が劣っているせいではないが、残念なことだ。

外国俳優の地声と日本人の声優さんとで声質が異なるのは珍しくない。言語も骨格も違うので似て非なる声になって当然だと思うが、概して日本人の声が高いと言えるだろう。クリント・イーストウッドと山田康雄さんが良い例だ。逆に、女性は外国人の方がハイトーンで日本の声優さんの声が低いことが多い。これは比較的若い役柄でもベテランの声優さんをキャスティングされるためだろう。

ところが弦さんは違った。セクシーな低音なのにクリアでインテリジェンスに溢れ、どこか狡猾で女たらしのジェームズ・ボンドの声を完璧に演じていた。スコットランドの労働者階級出身のコネリーは、ボンドとして登場した頃はやや気取ったトーンでセリフを発していたが、ボンド役者として円熟してきた後半、及び演技派として再生した後年は、そのくぐもったスコティッシュ・アクセントを隠そうともしていない。

それに比べると弦さんの声は、本当にジェームズ・ボンドが日本語を喋っているような錯覚を覚える。英語と日本語という全く異なる言語を唇の動き、言葉の切れ目、息遣いまで完全にシンクロさせる弦さんの技術は、もはやアートの域だ。一方で、集中できないからとアフレコは共演者と同席することを嫌い、いつも単独で収録したと聞く。映像のソフト化の際にテレビ放送でカットされた部分を後年追加で収録するのはよくある話だが、その際はあくまで全編新録にこだわったそうだ。それぞれの時代で自身の声質も微妙に異なるだろうから、一つの作品を作り上げる際に完璧を目指したかったのだろう。こうした弦さんのプロフェッショナル魂を垣間見るエピソードは枚挙にいとまがない。

コネリー×若山は『007』だけじゃない!

ボンドの声で一躍声優として有名になった弦さんだが、コネリーの吹替を初めて担当したのは、コネリーが『007』シリーズの合間に(アルフレッド・)ヒッチコック監督に招かれて出演した『マーニー』(1964年)だったとは意外だ。非ボンド作品といえば、のちに『スタートレック』として有名になった『宇宙大作戦』(1966〜1969年)のオープニング・ナレーション、「宇宙……それは人類に残された最後の開拓地である……」を思い出すファンもいることだろう。

ブリヂストン・レグノのCMでは弦さんの染みるような語りのあと、コネリーの「ダイナミック・エレガンシュ(ス)、レグノ」と、声の共演を果たしたのも懐かしい。今回、CS映画専門チャンネル ムービープラスで一挙放送される『007』でも聴くことができる弦さんの声は、いつの時代に収録したものだろうか。初期の頃の若くてハリのある声も円熟味が増した後期の弦さんの声も、どちらもコネリーに見事にフィットしているはずだ。

初めて弦さんの声に触れる若い方は、吹替放送が何故我々オールドファンを夢中にさせたのか理解できるだろう。そして当時のテレビ放送を知るファンは、弦さんの『007』シリーズを見直すと「あの頃」にタイムスリップして初心に帰ることができるに違いない。

文:村井慎一

『007』シリーズ24作品+番外編2作品(地上波吹替版)はCS映画専門チャンネル ムービープラスで2021年12月25日より一挙放送

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