劣等感ティーンのロックな思春期爆弾!『ビルド・ア・ガール』は“本当の自分”を信じてあげたくなるエンパワーメント映画

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劣等感ティーンのロックな思春期爆弾!『ビルド・ア・ガール』は“本当の自分”を信じてあげたくなるエンパワーメント映画
『ビルド・ア・ガール』©MONUMENTAL PICTURES, TANGO PRODUCTIONS, LLC,CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION, 2019

自分にとって本当に大事なのは?

思春期に、どんなふうに振る舞えば、どんな服を着ていれば、どんな音楽を聴いていれば良しとされるのか、人それぞれの判断基準が明確になることがある。しかも面倒なことに、他の人よりも自分の方が趣味が良いと思い込んで自己肯定を高める人もいる。この話は過去の自分への戒めだ。いつか他人の趣味嗜好を貶すことなく、というか気にもせず、自分は自分だと自由に物事を判断できるようになると考えていた。

でもまあ、そんなのは無理なもんで。20代を終えて2年ほど経つ今も、選択を迫られた際に、自分にとっての適切な選択を対外的な見られ方を含めて決定することは往々にしてある。いや、どっちが良い/悪いというより、間違った選択をしてしまった自分になりたくない、という消去法で生きているような気がする。

映画『ビルド・ア・ガール』も思春期真っ只中にいる高校生が、90年代当時のUKロックとの出会いによって自分の才能や魅力を意識しはじめ、広がっていく人間関係の中で、自分にとって本当に大事なことは何なのか? という価値観や判断基準を身につけていく、というストーリーだ。

『ビルド・ア・ガール』©MONUMENTAL PICTURES, TANGO PRODUCTIONS, LLC,CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION, 2019

才能を信じフルスイングする主人公、ちょっと羨ましい

スクールカーストに入ることもできない劣等感まみれの主人公・ジョアンナ(ビーニー・フェルドスタイン)は、その文才と想像力(妄想力?)に気付いていた兄、クリッシー(ローリー・キナストン)の助言で大手音楽情報誌<D&ME>に、ミュージカル「アニー」の楽曲レビューを送る。

『ビルド・ア・ガール』©MONUMENTAL PICTURES, TANGO PRODUCTIONS, LLC,CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION, 2019

なんとか面接のチャンスを得たジョアンナはロンドンの編集部へ向かい、意気揚々と扉を叩くも、彼女の文章は当時の最先端を追うイケイケの音楽編集者たちにブラックジョークのネタにされてしまっていた。

『ビルド・ア・ガール』©MONUMENTAL PICTURES, TANGO PRODUCTIONS, LLC,CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION, 2019

それでも家族が肯定してくれた自身の才能を信じ、猛アピールの末にマニック・ストリート・プリーチャーズのライブレビューの仕事を貰ったジョアンナ。その瑞々しいレビューが評価されると、みるみるうちに“音楽ジャーナリスト”として軌道に乗っていく。

『ビルド・ア・ガール』©MONUMENTAL PICTURES, TANGO PRODUCTIONS, LLC,CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION, 2019

自身の文章がD&MEに掲載されて浮つく彼女は、周りからの視線や助言には脇目も振らず、常に全力フルスイングで直線的に行動し続ける。そんな彼女の向こう見ずな部分は、何かにつけ周りの目を気にしながら選択している人間には、とても逞しく健全であるようにも見える。

『ビルド・ア・ガール』©MONUMENTAL PICTURES, TANGO PRODUCTIONS, LLC,CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION, 2019

ジョアンナは次第に学校内でもてはやされ、加速する自意識は家族にも影響を及ぼしていく。高校生の自分が一家の経済的支柱となった結果、家庭内での信頼関係も崩れ、居場所を失ってしまう。

『ビルド・ア・ガール』©MONUMENTAL PICTURES, TANGO PRODUCTIONS, LLC,CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION, 2019

自分が16歳だったら? もっと調子に乗っちゃう!

人は多面的な生き物だ。誰もが何かしらに影響を受けて自己を形成していく。価値観は一つではないし、“こうでなければいけない”という考えも、それが道徳や倫理に基づいていれば、思考の余白を生み出しやすいとも言える。

『ビルド・ア・ガール』©MONUMENTAL PICTURES, TANGO PRODUCTIONS, LLC,CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION, 2019

しかし、いつしか彼女の精神は傲慢さや利害関係に乗っ取られ、一番近くにいた家族への感謝や愛情、大切な人への敬意を、どこかへ置いてきてしまう。結果、分かりやすい“外の世界”に居場所や刺激を求めてしまうのだけれど、そりゃあ高校生なんだからしょうがないよ。自分が16歳で、ジョアンナと同じ状況だったら、もっと調子に乗っちゃう。

『ビルド・ア・ガール』©MONUMENTAL PICTURES, TANGO PRODUCTIONS, LLC,CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION, 2019

過去の自分では考えられなかった交友関係、狭い世界では体験し得なかった刺激や裏切りを経験し、精神的なパワーを身につけていくジョアンナ。105分間、画面の中で、あまりにも全力で立ち向かい、全力で傷を負い、また立ち上がるジョアンナに勇気づけられる、まさにエンパワーメントムービーだ。

文:巽啓伍(never young beach)

『ビルド・ア・ガール』は2021年10月22日(金)より全国公開

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『ビルド・ア・ガール』

1993年、イギリス郊外に家族7人で暮らすジョアンナは、底なしの想像力と文才に長けた16歳の高校生。貧しくも優しい両親や兄弟に囲まれているが、学校では冴えない子扱い。あふれる表現欲求や自己実現を持てあまして悶々とした日々を送っている。

「わかってる。定番のヒロインと私は全然違うよね」

そんな環境を変えたい彼女は、音楽マニアの兄クリッシーの勧めで大手音楽情報誌「D&ME」のライターに応募。単身で大都会ロンドンへ乗り込み、仕事を手に入れることに成功する。

そして大切な髪を赤く染め、奇抜でセクシーなファッションに身を包んだジョアンナは“ドリー・ワイルド”へと生まれ変わり、ロックの世界に引き込まれていく。音楽ライターとしてその才能を開花させ人気者となったジョアンナだったが、インタビュー取材で出会ったロック・スターのジョン・カイトに夢中になってしまい、冷静な記事を書けずに大失敗。

「生き残りたいなら、全て蹴散らせ!」という編集部のアドバイスにより“いい子”を捨て、“嫌われ者”の辛口批評家として再び音楽業界に返り咲くジョアンナ。過激な毒舌記事を書きまくる“ドリー・ワイルド”の人気が爆発する。地位と名声、お金も手に入れるが、しかし彼女はだんだん自分の心を見失っていき……。

制作年: 2019
監督:
出演:
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