少年の背中を押すのはブルース・スプリングスティーン! 80’s青春音楽映画『カセットテープ・ダイアリーズ』【先行配信中/1.20パッケージ版発売】

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少年の背中を押すのはブルース・スプリングスティーン! 80’s青春音楽映画『カセットテープ・ダイアリーズ』【先行配信中/1.20パッケージ版発売】
『カセットテープ・ダイアリーズ』© BIF Bruce Limited 2019

最後のカセットテープ世代

僕はカセットテープがノスタルジーではない最後の世代だと思う。記憶にある一番古い父親の車は、いすゞのジェミニ。映画『カセットテープ・ダイアリーズ』の主人公ジャベドの父親の車ほどオンボロではなかったけど、もちろんCDは聴けなくて、カセットテープだけだった。

『カセットテープ・ダイアリーズ』© BIF Bruce Limited 2019

父親がレンタルショップで借りてきた音源で作ったミックステープのことを、いまでもよく思いだす。フィル・コリンズやエリック・クラプトン、ボブ・ディラン、B’zなんかも最初に聴いたのは、その頃だったかもしれない。

『カセットテープ・ダイアリーズ』© BIF Bruce Limited 2019

僕が自分の意思で音楽に触れたのは13歳になった頃だ。当時、学校から帰ると必ず見ていたMTVに出ていたザ・ストロークスから受けた衝撃は、ジャベドがブルース・スプリングスティーンと出会ったときと同じような、脳味噌に鳥肌が立つような体験だったと思う。

『カセットテープ・ダイアリーズ』© BIF Bruce Limited 2019

ネバヤン巽、ザ・ストロークスに影響されまくった思春期の想い出

80年代のイギリスで移民2世として生きてきたジャベドと比べるのはおこがましいけど、僕はこの島国で日本人として生まれて育ち、環境的に差別もほとんど受けることがない恵まれた状況にも関わらず、10代の頃は不満しかなかった。不満というより、劣等感。そこから脱却する方法も探さずに、ただ環境のせいにしていた。

『カセットテープ・ダイアリーズ』© BIF Bruce Limited 2019

そんな状況で音楽を聴くことは、漠然とした焦りや孤独に毛布をかけるような行為だった。イヤホンをつけて、ストロークスのアルバム「Is This It」の再生ボタン押して歩けば、刺激のない街でも開放されたような気分になったものだ。でも、そこからの僕は“見様見真似”に徹してしまい、自分を見失っていたようにも思う。

『カセットテープ・ダイアリーズ』© BIF Bruce Limited 2019

シャキール・オニールが好きだったごく普通のバスケ少年は、肩幅や身長が足りないことも気にせずに、ヴォーカルのジュリアン・カサブランカスが着ていたようなナポレオンジャケットにスキニーパンツ、コンバースのオールスターというスタイルや、ギタリストのアルバート・ハモンド・Jrの全身白のスタイルを、近所のリサイクルショップで似たようなものを買って真似ていた。

憧れのアーティストに勇気をもらった少年の感動物語という“だけ”では終われない

いま思い出すと本当に恥ずかしい、隠したい過去です。ただ、誰しも憧れってあるじゃないですか。その時は東洋人が西洋人をただ真似るということの滑稽さを理解していなかったんです。でも、少しずつ理解していくんですよね。外面を真似るのではなく、本質を知ることが大事だと。なぜ彼らがそのスタイルを選んでいるのか? と想像するようになり、アティテュードの重要性、自分の中の正しさや美学を貫く必要があることなどに気づいていく。だから「ジャベドの気持ち、分かるよ」ってなるんです。

『カセットテープ・ダイアリーズ』© BIF Bruce Limited 2019

目に見える範囲の情報だけでスプリングスティーンの真似をしたり、影響されることも悪くない。けど、そうじゃないよねって、時が経つにつれて彼も気づいていく。

『カセットテープ・ダイアリーズ』© BIF Bruce Limited 2019

先入観を避けるために、僕は敢えて何にも情報を入れずに『カセットテープ・ダイアリーズ』を鑑賞しました。あとから英ガーディアン紙でジャーナリストとして活動していた方の実話ベースということ、『ベッカムに恋して』(2002年)などで知られるインド系イギリス人の女性監督グリンダ・チャーダが映画化したことを知って、より一層、内容に対して合点がいきました。

『カセットテープ・ダイアリーズ』グリンダ・チャーダ監督(左)、ブルース・スプリングスティーン(右)©Bend It Films

現在にも通じる移民、家庭、スクールカースト問題などが盛り込まれていること、それらをグリンダ・チャーダが監督した意味。これは対岸の火事などではないし、2020年現在も進行形の問題でしょう? と改めて突きつけられるような。

『カセットテープ・ダイアリーズ』© BIF Bruce Limited 2019

なので、スプリングスティーンとの出会いを通して問題解決にチャレンジし、美学を貫こうとしたジャベドの姿勢に感動する“だけ”で終わってはいけないと思うんです。本作のテーマの奥行きや理由を鑑賞後に、いま一度考える必要があるのでは、と。そういった意味でも、あんまり湿っぽくなりすぎずユーモアもプラスして描いている本作から、とても強い意志を感じました。

『カセットテープ・ダイアリーズ』© BIF Bruce Limited 2019

文:巽啓伍(Never Young Beach)

『カセットテープ・ダイアリーズ』は先行デジタル配信中、2020年1月20日(水)ブルーレイ&DVD発売。ブルーレイ&DVDの特典映像にはインタビュー&メイキング他が収録。ブルーレイは初回限定でスリーブケースが付属する。

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『カセットテープ・ダイアリーズ』

舞台は1987年、イギリス。地方ルートンで暮らすパキスタン系の高校生ジャベドは、保守的な町、人種差別、厳格な父親との関係……などの悩みから鬱屈した日々を過ごしていた。そんな彼にとって唯一の楽しみは、音楽を聴くことと詩を書くこと。ある日彼は、同級生から2本のカセットテープを渡される。愛用のウォークマンから流れたブルース・スプリングスティーンの音楽を聴いた瞬間、彼の世界が180度変わる。音楽に背中を押され、友情、恋愛、そして将来の夢へと、現実と向き合いながらひたむきに駆け抜けるジャベドの青春を描く。

制作年: 2019
監督:
出演:
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