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現役探偵がジェームズ・ボンドのガジェットを解説!『007/ダイヤモンドは永遠に』の世界が現実に?

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ライター:#小山 悟郎
現役探偵がジェームズ・ボンドのガジェットを解説!『007/ダイヤモンドは永遠に』の世界が現実に?
UNITED ARTISTS / Allstar Picture Library / Zeta Image

探偵業歴30年の現役探偵が映画について語ります

今回は人気シリーズ最新作の公開を記念して、ショーン・コネリー主演『007/ダイヤモンドは永遠に』(1971年)で使われているガジェットについてご紹介します。

スパイ活動では、襲撃や破壊活動などの特殊工作も任務に含まれます。現実の探偵業では、襲撃や破壊活動は行いませんが、ターゲットの所在や行動を確認するための情報収集の部分はスパイと共通しています。そして、情報収集には偽装工作がつきもので、探偵業でも、それは避けて通れません。

『007』のガジェット

『007』シリーズでは、ガジェット専門のQ(Quartermaster/秘密兵器補給係)が登場します。同シリーズは1962年の『007/ドクター・ノオ』から、2021年10月1日より公開中の最新作『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』まで25作品ありますが、そのうち22作品にQが登場しています。

アナログ機器が全盛の時代は、小型のスパイレコーダーやスパイカメラが最先端のガジェットでした。ただし現在では、スマートフォンやスマートウォッチ等の民生品が、昔のスパイガジェットと同等の役割を果たします。また、AIを使ったフェイク動画の技術が発達し、一般人が著名人になりすましたり、1人で10ヶ国語以上を話すフェイク動画を作ることもできるようになりました。

『007/ダイヤモンドは永遠に』

5作目『007は二度死ぬ』(1967年)の後、初代ボンド役を引退したショーン・コネリーが、高額なギャラを提示されボンド役に復活したシリーズ7作目が『007/ダイヤモンドは永遠に』(1971年)です。その間の6作目『女王陛下の007』ではジョージ・レーゼンビーが2代目ボンド役をやりましたが、1作限りで引退しました。

この映画で、ジェームズ・ボンドのミッションは、南アフリカのダイヤモンド密輸事件の真相究明です。ボンドは実在する密輸業者になりすまして、ダイヤモンドの密輸ルートへ潜入します。捜査を進めていくうちに、宿敵である悪の秘密結社スペクターの親玉ブロフェルドの影が見えてきます。

果たしてブロフェルドがダイヤモンド密輸の黒幕なのか、過去に妻を殺したブロフェルドに、ボンドは復讐できるのか……ストーリー展開に引き込まれて行きます。

50年前のディープフェイク技術

本作には、何種類もの変装ガジェットが登場します。悪人側も、スパイ側も、これらの技術を使って、別人になりすまします。

現代では丁度、GANの技術を使ったディープフェイク(AIのディープラーニングを使った人物偽装テクニック)の問題が浮上しています。著名人の顔や声を偽装したフェイク動画によるフェイクニュース等、犯罪に利用される場合もあれば、母国語以外の数カ国語を話すPR動画や学習動画を人工知能で作成する等、マーケティングツールとして利用される場合もあります。50年前の虚構の技術が、現代で実現していることは興味深いところです。

指紋クローンシール

ボンドは、実在するダイヤモンド密売人のピーター・フランクスになりすまし、アムステルダムで密売ルート仲介役のティファニー・ケースに接触します。ティファニーは用心深く、最初の顔合わせの際に、フランクスの身分証のみならず、指紋でも本人確認することがわかっていました。

そこでQが開発した指紋クローンシールでフランクスの指紋を偽装し、ティファニーの信用を勝ち取ります。しかし、後に本物のフランクスがティファニーの潜伏先に現れたため、ボンドは彼を殺して死体にボンドの身分証を抱かせ、自分が死んだことにします。更に、死体にダイヤモンドを入れて密輸します。

特殊作戦にはトラブルがつきもので、その都度、臨機応変にトラブル回避の対策をしていかなければなりません。探偵業でもトラブル回避に神経を使い、ハラハラ・ドキドキしながら作戦を遂行しています。その意味で、映画を見ていても、つい自分に置き換えてハラハラしていることに気づきます。

探偵と指紋

亡くなった親族の生保や銀行等の資産確認のため、遺品のスマートフォンやPCの指紋認証の解除が必要な案件があります。ピースサイン等で指が写っている記念写真から、VefiFinerという指紋センサーを使って、指紋を復元することも不可能ではありません。ちなみに、コップ等に付着した指紋は2週間経過すると消えますが、写真に写った指紋は消えません。

潜入工作の際に、痕跡を消すため、指の平に瞬間接着剤でコーティングする裏技を使うことがあります。これは窃盗犯の裏技でもありますが……。

さらに探偵は、移住や国外就職の際の国外政府のバックグラウンドチェック(犯歴確認)のため、指紋採取も行います。日本の警察は犯罪捜査目的でしか指紋採取をしないので、役に立ちません。探偵がその補完サービスを提供しています。

なりすまし用ボイスチェンジャー

『007/ダイヤモンドは永遠に』では、なりすまし用ボイスチェンジャー(Voice Algorithm Recorder)が重要な役割を果たしています。

悪の枢軸ブロフェルドは、ラスベガスの富豪ウィラード・ホワイトを誘拐して幽閉します。そしてボイスチェンジャーを使って彼になりすまし、彼のホテルを乗っ取ります。更にブロフェルドは、手下に整形手術をやらせ、何人もの影武者を用意しています。悪人側も、顔や声を偽装して、悪事を進め、スパイの追っ手を逃れます。

ボンドは、ブロフェルドがホワイトを誘拐した証拠を掴むため、Qが開発した“なりすまし用ボイスチェンジャー”を使ってブロフェルドの手下のサクスビーになりすまし、ブロフェルド本人に電話しました。ブロフェルドはまんまと騙され、ホワイトの所在について口を滑らせてしまいます。

関係者しか知らない内部情報を聞き出すためには、内部関係者になりすまして、調査対象者本人(犯人)から情報収集する方法が有効です。探偵の業界用語では、これを「直調」と呼びます。

探偵とボイスチェンジャー

ボイスチェンジャーは、声の質から性別や年齢まで変えられます。探偵業務では、電話取材の痕跡を消すために声を偽装したり、異性や別の年代の声になりすまして偽装電話(偽電)することがあります。

例えば、調査対象者が、ある都市へ出張で向かったことがわかり、滞在先のホテルを事前に特定したいとします。その場合、目的地の都市のホテルをリストアップし、片っ端から予約を確認していきます。その場合、対象者の年齢や性別に合せて声を変え、本人になりすまして電話します。

「ネットで予約したはずですが、ちゃんと予約が入っているか再確認してもらえますか?」

万が一、すでに本人がチェックインしている場合、「ああ、そうですか。私は連れのものです。本人の部屋につないでください」と切り替えします。調査対象者が電話に出たら、ホテルスタッフを装って「ルームサービスですが、お飲み物やお食事が必要でしたらお気軽にフロントまでお申し付けください。ご案内でした。ありがとうございます」等と話してごまかします。

ボイスチェンジャーの限界

今では、ボイスチェンジャー機能搭載の通話アプリがあり、誰でも簡単に使えます。しかし、アプリの精度には限界があり、実用的に使いこなすには、元の声自体を変える必要があります。例えば、男性が女声を出すには、元声を裏声にしなければなりません。また、性別によって話し方のイントネーションが違いますから、その違いを研究して練習しておく必要があります。結局はボイスチェンジャーに頼らず、アニメ声優のようなスキルを磨くのが一番よいということになります。

映画は探偵実務のアイディアの宝庫

現役の探偵も、映画の中の探偵・スパイ・刑事から、調査手法や、交渉術、そして人生を学んでいます。映画では、リアルな現実も、現実離れした虚構も描かれます。探偵は現実に存在しますが、どちらかと言うと虚構の中の職業というイメージが先行します。ですから、依頼人の期待に応えるためには、無理にでも虚構の世界を現実に当てはめる努力も必要なんです。

また一方で、依頼人に虚構と現実の違いを説明して、現実にできることとできないことの違いを明確に説明する義務もあります。

ただし、探偵業をやっていると、非日常が日常化して、虚構と現実の境目が曖昧になっている自分に気づきます。映画の原作者やシナリオライターは、緻密な取材や想像力で、度肝を抜くガジェットや天才的なスパイテクニックを作り出しています。スパイ映画は、現役の探偵にとっても、実務で活かせるアイディアの宝庫なのです。

文:小山悟郎

『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』は2021年10月1日(金)より全国公開

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『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』

ボンドは00エージェントを退き、ジャマイカで静かに暮らしていた。しかし、CIAの旧友フィリックスが助けを求めてきたことで平穏な生活は突如終わってしまう。誘拐された科学者の救出という任務は、想像を遥かに超えた危険なものとなり、やがて、凶悪な最新技術を備えた謎の黒幕を追うことになる。

制作年: 2020
監督:
出演: