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戦時中公開の戦意高揚映画ながらバリバリの娯楽作『サハラ戦車隊』は“三階建て戦車”もリアルな戦場ロードムービー

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ライター:#大久保義信
戦時中公開の戦意高揚映画ながらバリバリの娯楽作『サハラ戦車隊』は“三階建て戦車”もリアルな戦場ロードムービー
『サハラ戦車隊』©1943,RENEWED 1971 COLUMBIA PICTURES INDUSTRIES,INC.ALL RIGHTS RESERVED.

戦車でロードムービー

映画には、複数の登場人物が共に旅する過程でのドラマを見せる、ロードムービーというジャンルがあります。

――1942年6月、激戦続く北アフリカ戦線に取り残された1両のアメリカ軍M3中戦車。車長(車両指揮官)のガン軍曹はイギリス兵、スーダン兵、自由フランス軍兵、イタリア兵捕虜、撃墜したドイツ空軍パイロットを拾い上げつつ、井戸の確保と本隊への合流を試みる――という『サハラ戦車隊』は、M3中戦車に乗り込んだ兵士たちを核に物語展開する、戦場ロードムービーなのです。

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価格:¥1,410+税
発売・販売元:(株)ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント

“三階建て”戦車M3

もう一人の主役と言えるM3中戦車は、車体右前部に75ミリ砲を固定式に装備し、車体中央上面に37ミリ砲装備の回転式砲塔、その37ミリ砲塔の上に7.62ミリ機関銃装備の回転式銃塔を載せた、奇妙な形をしています。その外見から「三階建て戦車」と呼ばれることもあったとか。

なぜこんな形になったのでしょうか? それは早急に75ミリ砲装備の戦車を実戦配備するためでした。

『サハラ戦車隊』で活躍するM3中戦車(写真:U.S.ARMY/pubilc domain)

1939年9月に第二次世界大戦が始まると、味方歩兵部隊を火力支援するには、75ミリ級砲が必須ということが判明します。実は、戦車の主任務は歩兵戦への火力投入なのです。もちろん、その過程で敵戦車が出てきたら戦車が撃破します。当時も今も、戦車が徹甲弾(装甲を貫通する弾)と榴弾(爆発する弾)を半々で搭載しているのはそのためなのです。

が、当時のアメリカには75ミリ砲搭載の回転式砲塔機構を量産する技術がありませんでした。そこで車体に75ミリ砲を取り付けたM3中戦車が、真の主力戦車M4中戦車ができるまでの“つなぎ役”として開発生産されたのです。回転式砲塔に装備した37ミリ砲は軽戦車なら撃破できましたし、またキャニスター弾(散弾)による敵歩兵掃討にも使えました。

主力戦車の本命、M4中戦車(写真:U.S.ARMY/pubilc domain)

もっともその複雑な構造のため、他の戦車が4~5名の乗員だったのに、M3中戦車は車長・操縦手・通信手・75ミリ砲手・75ミリ装填手・37ミリ砲手・37ミリ装填手、の7名という大所帯となってしまいました。『サハラ戦車隊』では、ガン軍曹と操縦手と通信手以外は戦死してしまった、ということにして上手く登場人数を整理しています。

おっと、アメリカ陸軍には同じ「M3」でも「M3“軽”戦車」もあるので御注意ください。太平洋戦争緒戦期、このM3軽戦車に日本陸軍の97式中戦車がまるで歯が立たなかったのは有名なお話……。

M3軽戦車。使い勝手が良かったのでイギリス兵は「ハニー(可愛い子ちゃん)」と呼んでいた(写真:U.S.ARMY/pubilc domain)

戦意高揚映画であり娯楽作

『サハラ戦車隊』が公開されたのは1943年11月(日本公開:1951年)。そう、この映画はバリバリの戦時中映画、つまり戦意高揚映画だったのです。「黙って俺について来い」的にリーダーシップを発揮するガン軍曹は、もちろんアメリカ合衆国そのものです。

けれども映画として面白くなければ国民も関心を持たず、戦意高揚にもなりません。その点、本作はさすがハリウッド映画、戦闘シーンを挟みつつ多国籍なキャラクターの思惑が交差して、孤立~反目~信頼~決断とストーリーがグイグイと展開する娯楽作品に仕上がっています。

『サハラ戦車隊』©1943,RENEWED 1971 COLUMBIA PICTURES INDUSTRIES,INC.ALL RIGHTS RESERVED.

戦闘描写も、カモフラージュしたM3戦車と機関銃兵そして小銃兵を組み合わせた急造陣地構成など、しっかりとしています。小銃は機関銃で制圧し、機関銃は迫撃砲で制圧し、迫撃砲は戦車砲で制圧するという戦術もちゃんと描かれています。一方で、ドイツ兵の軍装が大雑把だったりM3中戦車の性能が誇張されていますが、これは仕方ないでしょう。

むしろ当時のアメリカ軍の新型中戦車を、よくここまで見せたものだと感心します。もっとも、すでに本命のM4中戦車の生産が1941年末に始まっていて、M3中戦車は編成からフェードアウトしていく時期でもあったのですが。

映画終盤、「エル・アラメインで勝った!」という会話がありますが、これは1942年7月の第一次エル・アラメイン攻防戦のことです。同年11月の第二次エル・アラメイン攻防戦でもイギリス軍が勝利し、北アフリカ戦線におけるドイツ軍の退勢は決定的となります。

でも、アメリカ軍が初めてドイツ軍と本格的に戦ったチュニジアのカセリーヌ峠の戦い(1943年2月)では、アメリカ軍は経験不足から大損害を出して敗退してしまいます……。ちなみに『パットン大戦車軍団』(1970年)は、この敗戦直後から始まっています。そんな史実を念頭に、この作品を観るのも興味深いのではないでしょうか。

なお本作は1995年にジム・ベルーシ主演でリメイク(邦題『デザート・ストーム/新・サハラ戦車隊』)されていますが、こちらも十分に楽しめる作品になっています。

――最後に。生水は飲んではいけません。駄目、ゼッタイ。ラストシーンの後、生き残った兵士たちは腹下しや感染症に苦しんだのではないでしょうか。

文:大久保義信

『サハラ戦車隊』はCS映画専門チャンネル ムービープラスで2021年9月放送

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『サハラ戦車隊』

1942年の北アフリカ戦線。ガン軍曹率いる米国戦車分遣隊第5部隊は、軍の指令に従いサハラ砂漠を南下し続けていた。途中出会った連合軍兵士や捕虜を乗せ、僅かに水の出る廃墟に辿り着くが、ドイツ軍も水を求めてそこへ接近していた。ガン軍曹たちは、水を餌にドイツ軍を足止めさせる作戦を企てる。

制作年: 1943
監督:
出演: