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戦車がスゴイ映画2選!! ティーガーやM4シャーマンほか見どころ解説『バルジ大作戦』『フューリー』

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ライター:#大久保義信
戦車がスゴイ映画2選!! ティーガーやM4シャーマンほか見どころ解説『バルジ大作戦』『フューリー』
『フューリー』© 2014 Norman Licensing, LLC. All Rights Reserved.

本物の戦車が大暴れ!『バルジ大作戦』

『バルジ大作戦』は、1944年12月16日にドイツ軍がベルギー南部で開始した大攻勢を基にした、1965年製作の戦車バトル活劇です。「ヒトラー最後の賭け」とも言われるこの攻勢初頭、ドイツ軍は連合軍戦線の一部を破って突出しました。それで、この攻防戦は「バルジ(出っ張り、突出部)の戦い」とも呼ばれているのです。

『バルジ大作戦』
DVD特別版 ¥1,429 +税
ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント
© 2010 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.

またこの映画は、登場人物も戦闘展開も史実から離れた自由奔放なつくりの、まさに60年代的な単純明快な戦争アクションでもあります。

見所は、ゾロゾロと登場する本物の戦車。スペイン軍の全面協力により、同軍が装備していたアメリカ製戦車M47がドイツ軍重戦車ティーガーⅡ役、そしてM24軽戦車がM4シャーマン中戦車役で大量出演!(一部にミニュチュア撮影も有り)。何十トンもの鋼のカタマリが、エンジンの唸り声とともに履帯(キャタピラ)を軋ませて動くさまは迫力満点、ある意味、CG全盛の昨今では考えられない贅沢な映画とも言えるでしょう。

『バルジ大作戦』© 2010 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.

ティーガーⅡ(役のM47)の装甲が、アメリカ軍戦車が放った砲弾を「バイ~ン」という反響音と共に跳ね返すシーンも、本物の戦車を使ったゆえに生きた映画的演出です。

戦車ファンならここを見逃すな!

演出でもうひとつ。映画では動きの方向を整えるためや、登場するメカの数を多く見せるためにフィルムを反転(裏焼き)させることがあります。例えば『ターミネーター2』(1991年)の用水路でのチェイスシーンは、一部が反転映像になっているのは、有名なお話。

そして『バルジ大作戦』でも、ティーガーⅡ(役のM47)が反転映像になっているカットがいくつもあります。砲塔上面右側にある車長ハッチ(=上半身を乗り出している車長の位置)が左側になっているので、すぐに分かります。

実は本物のティーガーⅡの砲塔の乗員配置は、砲塔の左側に砲手、その後方に車長、そして砲塔右側に装填手、となっています。これは砲手が照準し易いようにとの配置でしたが、主砲が大口径化するにつれてその意義は薄れ、なにより装填手は大型化した砲弾を左手で薬室に押し込むことに。

『バルジ大作戦』© 2010 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.

そこでアメリカはM4シャーマン戦車から装填手の作業効率向上を図り、砲塔の左側に装填手、右側に砲手と車長を配置、これは戦後の西側戦車のスタンダートとなっています。

つまり反転映像のM47の砲塔ビジュアルは、マニアが馴れ親しんだ(?)ティーガーⅡの近似形となっているのです、結果的に。ちなみに反転映像では車体前面右側の車体機関銃も、車体左側になっています。

『バルジ大作戦』© 2010 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.

本物のティーガーⅠが出演!『フューリー』

ブラッド・ピットが主演する『フューリー』(2014年)は、イギリスのボービントン戦車博物館が保存している本物のティーガーⅠ重戦車を使った撮影が話題となった映画です。

終戦直後は、本物のドイツ軍戦車を惜し気もなく壊して撮影した映画が何本もありました(例えば、本物のティーガーⅠを撮影で燃やしてしまった傑作戦車兵映画『撃滅戦車隊3,000粁』[1950年]など)が、2000年代においては奇跡的な試みでした。

『フューリー』
価格:¥1,410+税
発売:KADOKAWA/ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
販売:株式会社ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント

ティーガーⅠのみに話題が集中した感がありますが、アメリカ軍のM4シャーマン中戦車も「よくぞ動くM4を集めてくれた」と感動です。“ウォー・ダディ”ことドン・コリアー(ブラッド・ピット)らが乗り込むM4A3E8をはじめ、M4A1、M4A2、M4A4が超時空的に同じ小隊に配備されていますが、そこはスタッフ、そしてボービントン戦車博物館とマニア(好事家)の熱意に感謝しつつ鑑賞すべきでしょう。

『フューリー』© 2014 Norman Licensing, LLC. All Rights Reserved.

ただし当時の本物の戦車を使っているからといって、戦闘シーンが“リアル”なわけではありません。ドイツ軍歩兵陣地への攻撃でもティーガーⅠとの戦闘でも、あるいは市街への突入でも“歴史再現ショー”的です。

『フューリー』© 2014 Norman Licensing, LLC. All Rights Reserved.

例えば、伏撃してきたティーガーⅠに対しては映画のように突撃などせず、停止したまま最大発射速度で主砲弾を撃ち込めば、もう1両ぐらいは生き残れたのではないでしょうか。M4シャーマンは、効率的な砲塔内配置の効果もあって、古参の砲手と装填手のコンビなら最初の1分で20~30発の75/76㎜砲弾を発射可能でした。その全弾がティーガーⅠの装甲に跳ね返されてしまうかもしれません。それでも着弾衝撃は相当のもので、主砲や走行メカが故障したり乗員が脳震盪になって戦闘不能になることも多かったのです。

真に描きたかったのは醜悪なる戦争の姿

おそらくデヴィッド・エアー監督の意図は戦車戦術の再現ではなく、勝敗は決しているのに終わらない戦争に対する両軍将兵の恐怖、そして破壊と暴力という戦争の実態、そこでの人間の赤裸々な姿(戦友が戦闘単位としては優秀でも人としては下劣な人物という部分に注目)の再現だったのではないでしょうか。

『フューリー』© 2014 Norman Licensing, LLC. All Rights Reserved.

たとえ意義ある戦争(“意義のある”戦争というものがあったとして)でも、それは現場の将兵の精神を傷つけ蝕むという、戦争の真の姿を描いているからです。

『フューリー』© 2014 Norman Licensing, LLC. All Rights Reserved.

文:大久保義信

『フューリー』はCS映画専門チャンネル ムービープラスで2020年6月放送

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