J・アイゼンバーグ「拷問というより浄化に似た経験」『沈黙のレジスタンス ~ユダヤ孤児を救った芸術家~』独占インタビュー【後編】

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ライター:BANGER!!! 編集部
J・アイゼンバーグ「拷問というより浄化に似た経験」『沈黙のレジスタンス ~ユダヤ孤児を救った芸術家~』独占インタビュー【後編】
『沈黙のレジスタンス~ユダヤ孤児を救った芸術家~』©2019 Resistance Pictures Limited.

ジェシー・アイゼンバーグ独占インタビュー【後編】

「パントマイムの神様」と称えられたマルセル・マルソーの知られざる青年時代を、ジェシー・アイゼンバーグ主演で映画化した『沈黙のレジスタンス ~ユダヤ孤児を救った芸術家~』が2021年8月27日(金)より公開となる。マイムの芸術性を高めた偉人マルソーが、かつて第二次世界大戦時にナチスと協力関係にあったフランス政権に対抗したレジスタンス期の真実を描く、感動の実録ヒューマンドラマだ。

『沈黙のレジスタンス~ユダヤ孤児を救った芸術家~』©2019 Resistance Pictures Limited.

マルソーと同じくユダヤ人であり、他にも多くの共通点があることを知ったというアイゼンバーグは、マルソーの半生/自身のルーツといかに向き合い、何を学び、どのように還元していったのか? BANGER!!!独占インタビューの後編をお送りする。

『沈黙のレジスタンス~ユダヤ孤児を救った芸術家~』©2019 Resistance Pictures Limited.

「拷問というよりは、カタルシス(浄化)に似た体験だと思っている」

―劇中には、かなり強烈な場面もありました。実生活では、役者としてどのように精神的なバランスを保っていますか? 特に、感情的に疲弊するような場面を撮影するときなど。現場でその強烈な場面を演じてから、現場を離れて自分の普通の私生活に戻る、その繰り返しなんですよね?

これは、筋肉みたく鍛えられるものだと思う。その筋肉を稼働させることも、休ませることもできる。偉大な劇作家デビット・マメットが、確か「脚本の中に書かれたシーンが本当に起きていると信じ込むのは、サイコパスだけだ」と言っていた。脚本の中に書かれたことが本当に起きていると信じる役者はいない。もしそういう役者がいたとすれば、わざとそのようなことを言って、人の注目を浴びようとしているだけだと思う。デヴィッドの言葉には共感するよ。

『沈黙のレジスタンス~ユダヤ孤児を救った芸術家~』©2019 Resistance Pictures Limited.

ホロコーストに関する映画をドイツで撮影した。だからこそ、リアルに感じられる部分があった。たとえば『ゲーム・オブ・スローンズ』(2011~2019年)は、ファンタジー映画だから設定そのものがファンタジーであり、現実に基づいたものじゃない。だからこそ、脚本に書かれていることを信じられるものにするために役者は努力しなければならないんだ。

本作ではドイツで撮影したことや、自分の親戚にホロコーストを生き延びた人間がいること、3~4歳のころから聞いてきた戦争の悲惨な話など、自分の中にある小さなことを拡大していった。でも、基本的に拷問というよりは、カタルシス(浄化)に似た体験だと思っているよ。

『沈黙のレジスタンス~ユダヤ孤児を救った芸術家~』©2019 Resistance Pictures Limited.

「当時、実際に正体を隠していたひとりのユダヤ人のように考え、あの場に立っていた」

―電車でのシーンについて伺いたいです。あのいかにも悪そうな悪役(クラウス・バルビー:ナチス・ドイツの親衛隊大尉)を人間らしく描いた、とてもユニークな場面です。あなたにとって、あの特別なシーンはどんな印象でしたか? 映画の中で非常に重要な場面であることは明らかですが。

うん、不可解だよね。今の時代、僕らが読んで知っている残忍な悪人にも人間性が垣間見られるというのは深い解釈だと思う。当時をさかのぼってみれば、彼らは歴史の悪い側に存在していたわけで極悪非道。彼らがしたことはことごとく非倫理的、非道徳的で、非難されて然るべきだし、何十年、何世代にわたって彼らの思考様式を自ら責め苛むべきなのは明白だよ。それでもあのときの僕に、そういう感情はなかった。だから、あの体験についてもう少し何か言葉を付け加えるとしたら、僕は直感的に、できるかぎり頭の中を当時、実際に正体を隠していたひとりのユダヤ人の考え方にして、あの場に立っていたってことだ。

『沈黙のレジスタンス~ユダヤ孤児を救った芸術家~』©2019 Resistance Pictures Limited.

僕は役者だから、職業柄、そういうふうに役になりきって彼を見つめていた。実に魅力的な男だったよ。彼には理屈抜きに他人を当惑させるような性質があって、会話していると認知的不協和(※矛盾する複数の認知が自身の中に生じたときの不快感)を感じてしまうんだ。でも、その表情や社交性、身振り手振りは正常に見えるし、寛容さや弱い一面すら感じさせる。それでも認知的不協和感に圧倒されてしまうのは、もし正体がばれたら、この男が僕を“どうするのか”分かっているからだろうね。

だから、そう、身がすくむような怖さと同時に不可解さを覚えるんだ。それにもちろん、僕は現実にその状況に直面したわけではないから、想像力を駆使して実際にそういう遭遇があったとしたら、当然味わったに違いない絶対的な恐怖、戦慄、それに混乱状態を想像するんだ。

『沈黙のレジスタンス~ユダヤ孤児を救った芸術家~』©2019 Resistance Pictures Limited.

「各シーンに盛り込まれた要素が実に楽しくて、演技者としての鍛錬も求められた」

―映画の中で、特にご自身が実際に撮影したり演じたり、製作したいと思ったお気に入りのシーンがありましたか? この映画には非常に重要な緊迫した状況のシーンがありますが、逆に何かとても愉快で、製作過程で大いに楽しめた、活気に溢れるようなシーンがあったら聞かせてください。

あったよ。たとえばアクション映画の場合、物語がアクションシーンによって複数に分割されているように見えるけれど、この映画にも同様の要素がある。僕の場合だけど、役者として物語を辿っていくと、パントマイムのシーンで分割されているように感じたんだ。だから僕にとって、パントマイムのシーンは映画に刻まれた目印のようなものだった。そういうシーンがすごく気に入ってね。

『沈黙のレジスタンス~ユダヤ孤児を救った芸術家~』©2019 Resistance Pictures Limited.

ひとつには、パントマイムの練習を何ヶ月もしてきて、それを実演する機会を得たからだけど、それとは別に、マイムのシーンがこの物語と登場人物を、会話や他のアクションではできないような方法で表現したからなんだ。特に、さっきあなたが話題にしたパットンの部隊のために演技をするシーンは、とても……楽しめると同時に胸を締め付けられるようでもあったな。僕は、恋をしていた女性を失うことになった、マルソー自身の戦争の物語を演じているから。彼は未熟なのに銃を持たされ、技能訓練もなしにいきなり戦闘に駆り出される。だから、あれはいいシーンだった。

『沈黙のレジスタンス~ユダヤ孤児を救った芸術家~』©2019 Resistance Pictures Limited.

それから、まだ駆け出しのマルソーがパントマイムするシーンも好きだよ。はじめは場末の酒場でマイムをしている。すると、そこへ父親がこっそり様子を見に来て、肉屋を継がずに演技者になろうとする息子を叱るんだ。このシーンは愉快でもあるんだよ。なぜなら、マルソーは映画の序盤では、いかにもチャップリンのファンですって感じで、彼を真似て一連のルーティーンを演じているからさ。そういうシーンに盛り込まれた色々が実に楽しくて、それだけに僕としては演技者としての鍛錬も求められた。

『沈黙のレジスタンス~ユダヤ孤児を救った芸術家~』©2019 Resistance Pictures Limited.

―最後に少し趣向を変えた質問を。若い俳優にどんなアドバイスをしていますか? また、若かった頃の自分にどんなアドバイスをしますか?

若かった頃の自分にアドバイスするなんて、そんな暇はないよ。ただ若い俳優に対して常に言っていることは……少々やる気を削いでしまうように聞こえるかもしれないけれど、そうならないことを祈りながら……プロとしての器で芝居することを追求するのであれば、ノーギャラでも芝居がしたいと考えるべき。大半の俳優はノーギャラか、少なくとも最低賃金以下で働いているんだ。舞台やショーが、いかにうまくいくかが必然になるわけだから。

『沈黙のレジスタンス~ユダヤ孤児を救った芸術家~』©2019 Resistance Pictures Limited.

演じることが本当に好きなら、意義深いこととして自分自身のやり方で追求していくだろう。役をもらえなければ、友達と動画を撮影するのもありだね。ノーギャラでも追求したいと心底思えるなら、そうすべき。であれば、想像していたようなキャリアに結びつかない時でも惨めな気持ちにはならない。それから、別のことに興味を持つのもいいと思う。僕の場合、大学で人類学を勉強した。その後、脚本を書いては、それを演じてみたり、自分が演じるための脚本を書いたりするようになった。すばらしい原作をもとに脚本を書いてみたりね。その際に大学で学んだことが役立った。僕はいつも、皆にこの2つのことを伝えている。幸運を願うよ。

『沈黙のレジスタンス~ユダヤ孤児を救った芸術家~』©2019 Resistance Pictures Limited.

『沈黙のレジスタンス ~ユダヤ孤児を救った芸術家~』は2021年8月27日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほか全国公開

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『沈黙のレジスタンス ~ユダヤ孤児を救った芸術家~』

1938年フランス。アーティストとして生きることを夢見るマルセルは、昼間は精肉店で働き、夜はキャバレーでパントマイムを披露していた。第二次世界大戦が激化するなか、彼は兄のアランと従兄弟のジョルジュ、想いを寄せるエマと共に、ナチに親を殺されたユダヤ人の子供たち123人の世話をする。悲しみと緊張に包まれた子供たちにパントマイムで笑顔を取り戻し、彼らと固い絆を結ぶマルセル。だが、ナチの勢力は日に日に増大し、1942年、遂にドイツ軍がフランス全土を占領する。マルセルは、険しく危険なアルプスの山を越えて、子供たちを安全なスイスへと逃がそうと決意するのだが──。

制作年: 2020
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