不穏なアメリカど田舎サスペンス『すべてが変わった日』ケビン・コスナー&ダイアン・レイン(スーパーマンの両親コンビ!!)

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ライター:大倉眞一郎
不穏なアメリカど田舎サスペンス『すべてが変わった日』ケビン・コスナー&ダイアン・レイン(スーパーマンの両親コンビ!!)
『すべてが変わった日』©2020 Focus Features LLC. All Rights Reserved.

予定調和が狂う日

ケビン・コスナーダイアン・レインのペアとなると、どんなジャンルの作品にしろ大方流れの予想はつくとみんな思うでしょ。私もそう思った。もう一通り大きな役はこなしてきたし、あとは依頼のあったもので、気に入ればやってみるか、くらいのノリで引き受けるんじゃないか、上手くこなしているだろうし、間違いないだろうけど、それが限度、と勝手に決めてかかっていた。

『すべてが変わった日』©2020 Focus Features LLC. All Rights Reserved.

私は観ていないが、二人は『バットマン VS スーパーマン ジャスティスの誕生』(2016年)と『ジャスティス・リーグ』(2017年)でクラーク・ケントの両親役で共演しているくらいだから、良きかな的な映画に仕上がっているはずだった。あまりハードルを上げず、でも、かつて輝いていた二人をじっくり楽しめればいい。そんなつもりで『すべてが変わった日』を観に出かけた不届きな私。

試写室を出た時の顔を撮っておいてもらえば良かった。予定調和的ぬるま湯平和が、完全に覆されてしまった。

『すべてが変わった日』©2020 Focus Features LLC. All Rights Reserved.

1963年、モンタナ州の牧場

モンタナ州はカナダと接するやたらでかい州であるにも関わらず、人口は100万人に満たない。人口密度は2.51人/㎢。現在の数字なので、1963年当時はもっと少なかったはず。つまり、町は小さく、名前を挙げれば「ああ、あいつなら」と答えてくれる。そんなバックグラウンドを頭に置いていると状況が早めに飲み込める。

牧場を営む家族。息子を落馬事故で亡くして、二人は義理の娘と孫と暮らしている。ダイアン・レイン演ずる妻は、息子が生きていた頃から“嫁”との折り合いは悪い。嫁が気分よく過ごしているとは思っていなかったが、再婚すると言って家を出られると、孫可愛さに寂しさは募る。しかし、嫁はまだ若い。新しい人生を選ぶのは当然のことだから、寂しいからといって何度も新婚宅に押しかけるわけにもいかない。

『すべてが変わった日』©2020 Focus Features LLC. All Rights Reserved.

保安官だった夫(ケビン・コスナー)は口数が少なく、孫が心配だと訴えても取り合わない。そんなモヤモヤが募っていた時に、町の駐車場で義理の娘と孫が些細なことで再婚相手に殴られているのを目撃してしまう。

夫は「内政干渉はやめておけ」と抑えようとするが、もう止まらない。ところが夫を連れて訪ねて行ったら、すでに家を引き払っている。一言も告げずにいなくなるとは、どういう了見だ。私を怒らせたらどういうことになるか思い知らせてやらなければ。孫は引き取る。いや、取り戻す。銃だって夫に黙って持ってきた。待ってろ、野郎ども。

『すべてが変わった日』©2020 Focus Features LLC. All Rights Reserved.

どうやら隣のもっと人口が少ない州、ノースダコタの実家に戻ったらしいが、誰も待ってない。しかし、町といっても苦労はしない。誰がどこに住んでいるなんてことは、少し聞き込めば簡単にわかる。

よし、居場所はわかった。あとは出たとこ勝負。やることは決まっているのだ。

『すべてが変わった日』©2020 Focus Features LLC. All Rights Reserved.

“あの時代”のリアリティを絶妙にすくい上げる

ここから先は映画館に足を運んでいただかねばならないが、公式サイトでは「サイコスリラー」と謳われている。そうかな。サイコ的な要素は確かにある。スリラーと言われれば、違うとも言い難い。でも、私には当時のノースダコタ州の田舎町の現実が描かれているようにしか思えなかった。

『すべてが変わった日』©2020 Focus Features LLC. All Rights Reserved.

マフィアが跋扈するような大都市の話ではない。ブルーカラー労働者がなんとか暮らしを立てている町に、マッチョな男で固めた家族がいて、そこに君臨するのは彼らの母親。そういう家族がいてもなんら不思議ではない。何かおかしなことが起きていることは察せられても、シェリフ(保安官)も迂闊には近づけない。そこに乗り込んでいったのは、自分の正義は他人の理屈がどうあろうが貫き通すと鼻息の荒いダイアン・レイン(すみません。この方がわかりいいので)、そして真面目一本で多くは語らないが、いざという時には頼れるケビン・コスナー。

この不穏な取り合わせは、ある意味必然的な結末に転がっていくのである。サイコスリラーというよりも、私はあの時代のリアリティを絶妙にすくい上げたサスペンスと受け取った。

『すべてが変わった日』©2020 Focus Features LLC. All Rights Reserved.

元はネイティブ・アメリカンの土地

本当に元々のことを語れば、アメリカはネイティブ・アメリカンの国である。そこへやって来た連中が騙し、殺し、懐柔しアメリカという国を作った。いまでもモンタナ州の人口の6%はネイティブ・アメリカンが占めている。ノースダコタ州もネイティブ・アメリカンの土地だったが、1874年に金鉱が発見されてから、白人が押し寄せ、激しい抗争があったところである。もう少し正確に言えば、白人が奪い取った場所。なぜこんな話を持ち出したか疑問に思う人もいるだろう。

『すべてが変わった日』©2020 Focus Features LLC. All Rights Reserved.

義理の娘、孫を探す過程で、ネイティブ・アメリカンの少年が登場する。物語の展開に大きな意味を与える存在ではないが、親はいない。施設から逃げて一人きりで暮らしている。満足な教育を受けていないが、夫婦とは会話が成立し、また、彼らのことを心配もしてくれる。ただ、怯えた表情が印象に残る。

この少年が当時のモンタナ、ノースダコタの独特の雰囲気を象徴的に背負っている。おそらくこの作品を見終わると、私の書いていることの意味がわかっていただけると思う。

『すべてが変わった日』©2020 Focus Features LLC. All Rights Reserved.

文:大倉眞一郎

『すべてが変わった日』は2021年8月6日(金)よりTOHOシネマズ シャンテ、渋谷シネクイントほか公開

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『すべてが変わった日』

1963年、モンタナ州の牧場。元保安官のジョージ・ブラックリッジは、妻のマーガレット、息子のジェームズ、その妻のローナ、生まれたばかりの孫のジミーと幸せに暮らしていた。しかしある日、ジェームズが落馬して首の骨を折り、この世を去るという悲劇に見舞われてしまう。

3年後、ローナはドニー・ウィーボーイという若者と再婚。マーガレットはスーパーの駐車場で、ジミーがアイスクリームを落としてしまったことに苛立ったドニーがローナの頰を叩いているのを目撃してショックを受ける。心配したマーガレットはケーキを焼いてローナたちが住む家を訪ねるが、3人はすでに引っ越していた。胸騒ぎを感じたマーガレットは、ノースダコタ州にあるドニーの実家に向かったというローナとジミーを取り戻すことを決意する。反対していたジョージだが妻を説得することができず、ともに車に乗り込み救出の旅に出るのだった。

マーガレットが密かに銃を忍び込ませた車に乗り込み、ノースダコタ州に向かって美しい景色のなかを進んでいくふたり。旅の途中では孤独なネイティブアメリカンの青年、ピーターとの思いがけない交流もあった。街の保安官事務所や馬具店でウィーボーイ家についての情報を得て、ついにマーガレットとジョージは、一家の用心棒的な存在であるビル・ウィーボーイと出会う。

制作年: 2020
監督:
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