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姉が死んだ。24歳の僕は7歳の姪の親代わりになった。TIFFグランプリ『アマンダと僕』は喪失の哀しみ、責任と心の再生を描く感動作

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ライター:#大倉眞一郎
姉が死んだ。24歳の僕は7歳の姪の親代わりになった。TIFFグランプリ『アマンダと僕』は喪失の哀しみ、責任と心の再生を描く感動作
『アマンダと僕』©2018 NORD-OUEST FILMS – ARTE FRANCE CINÉMA
東京国際映画祭でグランプリ&最優秀脚本賞をW受賞! フランスの新鋭ミカエル・アース監督が贈る『アマンダと僕』が2019年6月22日(土)より公開される。突如として愛する母/姉を失った2人による、姪と叔父という関係を超えた“家族の再生”を描く感動作だ。

人の人生を左右するような悲劇は、なんの前触れもなく訪れる

戦争であれ、事故であれ、災害であれ、病気であれ、近親者が突然亡くなるということは、とんでもなく非日常のことではあるが、そういう悲しい出来事は世界中で毎日起きている。日常の生活に戻るには、人の力を借りることはあっても、おそらく最終的には個人で解決するしかない。

『アマンダと僕』©2018 NORD-OUEST FILMS – ARTE FRANCE CINÉMA

遺族の心の葛藤と前進を丁寧に描く

『アマンダと僕』の監督、ミカエル・アースは本作が長編3作目で、今回私は初めて彼の作品に触れたが、同監督作『サマーフィーリング』(2019年7月6日(土)公開)も似た設定で、大事な人を失った人間がどのように事実を受け止め、そこから前に進むのか、立ち止まってしまうのか、その間の心の揺れを丁寧にすくい上げて物語に仕立てている。

『アマンダと僕』©2018 NORD-OUEST FILMS – ARTE FRANCE CINÉMA

『アマンダと僕』では主要登場人物に思いもよらぬ出来事が起きるが、その描写は極めて抑制されており、観る者は一瞬なにが起きたのかわからないほど。世界を震撼させる悲劇であっても、そこは描かない。大きな事件を強調してしまうと、それに巻き込まれた人の遺族の個人的な戸惑い、悲しみがどこかに飛んでしまい、社会性のみを追求することになってしまう。それでは監督が伝えたかったものが表現できなくなると考えたのだろうが、かなり思い切った手法である。しかし、それが観る者に展開を予想させない効果を生んで、見事なフィニッシュに繋いでいる。

悲しみを“乗り越える”ということ

肉親を失う悲しみを乗り越える。“乗り越える”というのは、どういうことなんだろう。そもそも乗り越える必要があるのか。忘れることでなく、忘れないことが人を癒すこともある。悲しみを自分の中に取り込んで、それを抱えて生きていくことが本筋ではなかろうか。

この原稿を書きながら、数ヶ月前に出版された、ソナーリ・デラニヤガラが自分の身に起こったことを書いた「波」(新潮社刊)が頭に浮かんできた。忘れないこと、細かに思い出すことが彼女を救った。興味のある方は、是非ご一読を。

ショウは終了「エルヴィスはすでにビルを出た」

『アマンダと僕』©2018 NORD-OUEST FILMS – ARTE FRANCE CINÉMA

主要登場人物の一人アマンダは、母から「Elvis has left the building.」の意味を教えられる。私はこの作品を見るまでこの言い回しは知らなかった。「エルビスはすでにビルを出た」、なんのことだかわからない。

アメリカで使われているのではないかと思うが、かつてエルビスの公演が終わった後も会場を出ようとしなかったファンに対してアナウンスしたフレーズらしい。「ショウは終了しました」と転じ、イベントの後によく使われるという。
アマンダの母はさらに転じて、「お楽しみは終わり」「望みはない」「おしまい」という意味だとアマンダに教える。まさかこのフレーズに涙するとは思わなかった。

あえて非ドラマチックに描く

アマンダも、彼女の叔父ダヴィッドも、母/姉の死をどう受け止めていいのかわからない。それを淡々と「日常」の中でカメラは追う。カメラは「決め」の絵を作らない。「どうだ!」という画角でなく、いかに日常が「普通」であるかを映し出す。そんな普通の生活の中に数えきれないほど悲劇は潜んでいるが、皆、それを外に向かって嘆き続けるのではなく生きている。そうするしかないのである。いくらでもドラマチックな仕立てにできるのだが、あえてそれをしようとしない。

『アマンダと僕』©2018 NORD-OUEST FILMS – ARTE FRANCE CINÉMA

私はこの原稿を書きながら、この作品のあるシーンを思い出して泣いてしまった。悲しみを無理に乗り越える必要はない、思い出を静かに胸の内に抱きしめながら笑顔になれるのだと、この作品から学んだ。

「Elvis has left the building.」
もう一度転じて、「また次回のショウをお楽しみに」とはならないだろうか。

ちなみに、この作品は第31回東京国際映画祭でグランプリと脚本賞を受賞している。良い作品を選んだと思う。

文:大倉眞一郎

『アマンダと僕』は2019年6月22日(土)よりシネスイッチ銀座ほか全国順次公開

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『アマンダと僕』

大切な姉を亡くした青年ダヴィッドは、身寄りがなくなってしまった姪アマンダの世話を引き受けることになる。
親代わりには荷が重く、戸惑いを隠せないダヴィッドと、母親を失ったことを受け入れられないアマンダ。
愛する人を奪われ遺された2人は、どのように現実に折り合いをつけ、その先の人生を生きてゆくのか…。

制作年: 2018
監督:
出演: