少女が怪死……極寒の先住民族保留地でいったい何が? アメリカの矛盾が見える『ウインド・リバー』

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ライター:大倉眞一郎
少女が怪死……極寒の先住民族保留地でいったい何が? アメリカの矛盾が見える『ウインド・リバー』
『ウインド・リバー』©2016 WIND RIVER PRODUCTIONS, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

インディアン・リザベーション

「インディアン居留地」と呼ばれることもあるが、「Indian Reservation」を正確に訳せば「インディアン保留地」である。いや、もっと正確を期すならば「先住民族保留地」となる。有力部族の地は強い自治権を持っており、国家にも等しいほどの権限を有している。だがそれは例外的であり、ごくわずか。

西部開拓時代に入植して来た白人たちの安全を守るために、白人がリザーブし、インディアン(アメリカ先住民族)の故国として土地を“分けて”いた。リザーブの意味は“保留”である。持ち越す、判断を差し控える、という意味となる。保留なのだから、いずれ決着をつける時が来るとも解釈できる。白人はなんだかんだと理由をつけ、あるいは騙し、リザベーションを削り取っていった。そもそも保留地は農業には向かない荒れた地であったため、農耕は不可能。産業は育たない。アルコールに浸り、麻薬で自らの命を縮めるインディアンも少なくない。

『ウインド・リバー』©2016 WIND RIVER PRODUCTIONS, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

雪原殺人

そんな先住民族保留地で、18歳の少女が10キロ以内には家一軒ないマイナス30度の雪原の中、血を吐いて死んでいるのを発見される。雪の上に残されたのは少女の足跡のみ。誰かが追って来た形跡もない。素足に軽装。しかし、事件性がないわけがない。発見したのは家畜を狙う狼、ピューマを狩るハンター。

保留地内の事件は殺人事件以外は保留地内警察の手によってのみ処理される。殺人の場合はFBIの管轄となる。少女は殺された可能性が非常に高いが、死因は肺の破裂によるもので、“他殺”ではない。FBIが出る幕はあるのか、判断が分かれるが、若い女性捜査官が派遣されて来る。

『ウインド・リバー』©2016 WIND RIVER PRODUCTIONS, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

フロリダ生まれの彼女には、猛烈な吹雪の中で捜査を行う手段がない。発見者であるハンターが捜査協力を依頼されるが、インディアンである前妻との娘もまた数年前に同様の死に方をしており、迷宮入りとなっている。彼が発見した少女は娘の親友だった。複雑に人間関係が交錯する。ほぼ雪の中の物語は淋しく、悲しく展開していく。

ハンターを演じるジェレミー・レナーは、娘を失った絶望から立ち直ることのできない男をうまく演じ切っており、好感が持てる。私は『ハート・ロッカー』(2008年)以上に評価している。

『ウインド・リバー』©2016 WIND RIVER PRODUCTIONS, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

インディアン、忘れられた存在

ウインド・リバー、なんという美しい地名だろう。“風の河”――インディアン独特の表現であろう。アメリカにはインディアンの言葉を起源にした地名が多い。州名では50州のうち25州がそうである。

アラバマ、アリゾナ、アーカンソー、コネチカット、アイダホ、イリノイ、アイオワ、カンザス、ケンタッキー、マサチューセッツ、ミシガン、ミネソタ、ミシシッピ、ミズーリ、ネブラスカ、ノースダコタ、オハイオ、オクラホマ、オレゴン、サウスダコタ、テネシー、テキサス、ユタ、ウィスコンシン、ワイオミング……。しかし、その名をつけたインディアンに思いを馳せるアメリカ人は極めて少ない。

『ウインド・リバー』©2016 WIND RIVER PRODUCTIONS, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

この『ウインド・リバー』をスリラー映画とカテゴライズした解説を見つけたが、どうなるとそういう解釈になるんだろう。深い精神性を持ったインディアンが、ヨーロッパから渡って来たピューリタン、それを追って新天地を求めた白人に騙され、殺され、放逐され、閉じ込められ、アイデンティティを失っていった過程を知らずにこの映画を観ると、あまりにも可哀想な内容だったよ、ということになるのだろうが、実はインディアンの置かれた状況を細かく丁寧に描いている。黒人差別問題と同様に、アメリカの根本的な矛盾に気が付く。

黒人の公民権運動を取り上げた作品は数限りなくあるが、さらに少数となってしまったインディアンについて語られたものは多くない。いろいろな意味で観ておいていただきたい一本。

『ウインド・リバー』©2016 WIND RIVER PRODUCTIONS, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

文:大倉眞一郎

『ウインド・リバー』はCS映画専門チャンネル ムービープラスで2020年5~6月放送

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『ウインド・リバー』

雪深いアメリカ中西部ワイオミング州。ネイティブ・アメリカンの保留地“ウインド・リバー”で少女の凍死体が見つかった。新人FBI捜査官ジェーンは、遺体の第一発見者で地元のベテランハンター、コリーに案内を要請。だが不安定な気候と慣れない雪山で捜査は難航し……。

制作年: 2017
監督:
出演:
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