酩酊女性を狙うクズどもに制裁! アカデミー賞受賞作『プロミシング・ヤング・ウーマン』はシリアスとポップの究極コラボ

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ライター:斉藤博昭
酩酊女性を狙うクズどもに制裁! アカデミー賞受賞作『プロミシング・ヤング・ウーマン』はシリアスとポップの究極コラボ
『プロミシング・ヤング・ウーマン』©2020 Focus Features, LLC.

異彩を放つアカデミー受賞作

2021年の第93回アカデミー賞で作品賞など5部門にノミネート。脚本賞を受賞したということで、『プロミシング・ヤング・ウーマン』が傑作なのは間違いない。しかし、作品賞ノミネートの他作に比べると、明らかに異彩を放っているし、観た人に与える印象が多様な点が傑出している。

『プロミシング・ヤング・ウーマン』©2020 Focus Features

他のノミネート作品を振り返れば、『シカゴ7裁判』『ユダ&ブラック・メシア 裏切りの代償』は過去の事実を映画化し、社会問題を提起する、いかにもアカデミー賞好みのジャンル。『ミナリ』も多様化社会と家族のドラマ。『Mank マンク』はハリウッドの歴史を再現しており、こちらもアカデミー賞らしい。作品賞に輝いた『ノマドランド』はテーマ性といい、全体の作りといい、受賞作として申し分ない。やや先鋭的なのが、認知症、そして聴覚を失ったミュージシャン、それぞれの主人公の視点で描いた『ファーザー』と『サウンド・オブ・メタル 聞こえるということ』だが、この2作も「病」というアカデミー賞で評価されやすいテーマ。何より、以上の7作が基本的にシリアスな作りであるのに対し、『プロミシング・ヤング・ウーマン』だけは明らかに映画のムードが違うのである。

『プロミシング・ヤング・ウーマン』© Focus Features

扱っているのは、シリアスな問題だ。主人公のキャシーは、医大の学生時代、人生を一変させるほどの悲劇に見舞われ、大学も中退。そこから男たちに復讐を続けることが、人生の目標となる。夜な夜なバーで泥酔したフリをして、声をかけてきた男に制裁を下すのだ。具体的な制裁がどんなものであるのかは、映画を観て確認してほしいが、キャシーは手帳に制裁した数を記録し続けており、その膨大な数に目を疑う。つまり、それだけ男たちは泥酔した女性に軽率な行動をとっているわけで、キャシーの学生時代の悲劇も含め、明らかにセクシャル・ハラスメント、ミソジニー(女性蔑視)という、社会派のメッセージが貫かれている。つまりテーマとしては、現実の問題も反映させるアカデミー賞にふさわしい、ということ。

『プロミシング・ヤング・ウーマン』©2020 Focus Features, LLC.

シリアスながらコミカル、ブラックで皮肉たっぷりな演出に脱帽

タイトルにある「プロミシング」とは「将来を嘱望された」という意味。本来なら医師としてのキャリアが待っていたはずのキャシーが、なぜこうした過激な日々を送るようになったのか? 現在はカフェの店員として働くキャシーが、たまたま客として来店した医学生時代のクラスメートと再会。小児科医となった彼との間に思いがけないロマンスが育まれることで、学生時代の悲劇の“元凶”と向き合うことになる。そこからの展開は、予想のはるか上を行く衝撃的な流れだ。

『プロミシング・ヤング・ウーマン』© Focus Features

このように物語やシチュエーションだけ紹介すると、ひたすらシリアスな『プロミシング・ヤング・ウーマン』だが、最初に書いたとおり、そのノリはポップで軽快。そして、とぼけた味わいの瞬間やコミカルな要素も多く、テーマと作品のムードの鮮やかなコントラストにぐいぐい吸引されていく感覚だ。

『プロミシング・ヤング・ウーマン』© Focus Features

カフェでのキャシーの客への態度や、キャシーと両親の超かみ合わない会話など、セリフ自体、そしてセリフの“間合い”がとにかく絶妙。軽やかなノリというオブラートに包み、観る者を知らず知らずシリアスで過激な世界に夢中にさせる。これは高難度の演出と脚本であり、その点に成功したことが今回のアカデミー賞脚本賞につながったのだろう。

『プロミシング・ヤング・ウーマン』©2020 Focus Features, LLC.

看護師のコスプレをしたキャシーの髪が、ピンクやライトブルー、イエローなどパステルカラーで彩られているように、全編にさまざまな色が際立って使われ、そのあたりも作品のポップなノリを加速する。使用される音楽も、パリス・ヒルトンのヒット曲、ブリトニー・スピアーズの人気曲のアレンジ、ミュージカルの名曲など、明るい曲調のセレクトが目立つ。それらをあえてシビアなシーンに被せたりと、観ているこちらに少しだけファンタジックな気分も与えるのだが、歌詞の内容を重ねるとブラックで皮肉たっぷりだったりして、エメラルド・フェネル監督の才気に恐れ入るばかり。

『プロミシング・ヤング・ウーマン』© Universal Pictures

『キル・ビル』との共通点、『狩人の夜』へのオマージュ

このブラック・コメディのような感覚と、女性から男性への復讐ストーリーという点で、クエンティン・タランティーノ監督の『キル・ビル』(2003年)も思い出す。同作のヒロイン、ザ・ブライドの復讐の情念とその手口は凄まじさを極めていたが、『プロミシング・ヤング・ウーマン』のキャシーは、そこに巧みな策略と日常性が加わった印象。キャリー・マリガンの“何食わぬ”表情も絶妙で、常軌を逸した復讐行動も痛快に見えてくるという映画のマジックを、『キル・ビル』同様に達成した感じ。同じく女性から男性への復讐映画では『危険な情事』(1987年)も頭をよぎるが、主人公がモンスター化することはなく、キャシーはつねに冷静である。

『プロミシング・ヤング・ウーマン』©2020 Focus Features

また、過去の映画へのオマージュでは『狩人の夜』(1955年)がある。キャシーの両親がテレビで観ているほか、同作からの曲も流れる(作品の中でキャシーが最も混乱しているシーン)。『狩人の夜』は福音伝道師を装った殺人鬼が、大金目当てに未亡人と結婚して殺害。逃げた子供たちを追う物語だが、男性から女性へのいわれのない暴力を描いた古典的名作ということで、フェネル監督の強い思いも伝わってくる。

『プロミシング・ヤング・ウーマン』© Focus Features

『狩人の夜』は、ロバート・ミッチャムが演じる殺人鬼の右手の指に「LOVE」、左手の指に「HATE」というタトゥーが入っているのが有名。このタトゥーは後の多くのカルチャーで引用されたが、「愛」と「憎しみ」という相反する感情が、『プロミシング・ヤング・ウーマン』に濃密に、強烈に盛り込まれており、クライマックスへ向けて両極の感情がハイレベルで交錯して、巨大なうねりを起こしていく。

『プロミシング・ヤング・ウーマン』© Focus Features

そして、衝撃のクライマックス(それでも描き方は軽やかだったりする)を通り過ぎた後、あまりにピュアでまっすぐな「愛」の物語だったと、パンチを食らう人も多いのではないか。

『プロミシング・ヤング・ウーマン』© Focus Features

文:斉藤博昭

『プロミシング・ヤング・ウーマン』は2021年7月16日(金)よりTOHOシネマズ 日比谷&シネクイントほか全国公開

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『プロミシング・ヤング・ウーマン』

30歳を目前にしたキャシーは、ある事件によって医大を中退し、今やカフェの店員として平凡な毎日を送っている。その一方、夜ごとバーで泥酔したフリをして、お持ち帰りオトコたちに裁きを下していた。ある日、大学時代のクラスメートで現在は小児科医となったライアンがカフェを訪れる。この偶然の再会こそが、キャシーに恋ごころを目覚めさせ、同時に地獄のような悪夢へと連れ戻すことになる……。

制作年: 2020
監督:
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