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キャリー・マリガンは“闘う”表現者だ! アカデミー賞有力候補『プロミシング・ヤング・ウーマン』に至る道のり

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ライター:#SYO
キャリー・マリガンは“闘う”表現者だ! アカデミー賞有力候補『プロミシング・ヤング・ウーマン』に至る道のり
『プロミシング・ヤング・ウーマン』©2020 Focus Features

新境地であり真骨頂『プロミシング・ヤング・ウーマン』

闘う表現者、キャリー・マリガン。間もなく36歳の誕生日(2021年5月28日)を迎える彼女が、渾身の主演作『プロミシング・ヤング・ウーマン』(2021年7月16日公開)で2度目のアカデミー賞主演女優賞にノミネートを果たした。本作は作品賞・監督賞・脚本賞・編集賞にもノミネートされており、日本国内でもにわかに注目を集めている。

『プロミシング・ヤング・ウーマン』

驚かされるのは、そのセンセーショナルな内容だ。『プロミシング・ヤング・ウーマン』は、一言でいうと「復讐劇」。夜な夜な酒場に赴き、酔ったふりをして男性に声をかけられるのを待つ女性。彼女の心には、激しい憎悪が渦巻いていた――。

異性からも、そして同性からも“搾取”される女性が逆襲を図る姿を、デコラティブな映像と衝撃的な描写・展開を織り交ぜて叩きつける本作。ただ、「キャリー・マリガンの新境地」という評はある面では正しく、ある面ではそうではない。ルックや演技は新鮮だが、彼女の“精神”や“信念”は、キャリアの初期出演作から一貫しているのだ。そしてその姿勢が、冒頭に述べた「闘う」へとつながってゆく。

『プロミシング・ヤング・ウーマン』© Universal Pictures

今回は、改めてキャリー・マリガンのフィルモグラフィをプレイバック。オスカー獲得に期待がかかる『プロミシング・ヤング・ウーマン』に至る道のりを、紹介していく。

“弱さ”を貪る“理不尽な現実”との闘い

2005年の『プライドと偏見』で映画デビューを飾ったマリガンは、2009年の『17歳の肖像』で第64回英国アカデミー賞(BAFTA)の主演女優賞に輝き、第82回アカデミー賞でも主演女優賞候補に。一気に国際的に注目される。この作品は、16歳の少女が、30代の男性に心惹かれていくさまをほろ苦く描いた成長ドラマ。優等生が恋の喜びと痛みを経験することで人生経験を積む――といった内容ではあるのだが、この作品の中で主人公に起こることを考えてゆくと、決して看過できない要素が多々含まれている。

年上の男性が、うら若き女性の人生を変えてしまうストーリーは、責任感の有無を含めて、議論を呼ぶものといえるだろう。要は、権力や財力、発言力、様々な“力”を持つ者が、他者を食い物にするという構造が根底に流れているのだ。そしてマリガンは、そうした“理不尽な現実”を描いた作品に、多く出演してきた。

2010年の『わたしを離さないで』は、のちに日本でドラマ化もされたカズオ・イシグロのベストセラーを映画化したもの。アンドリュー・ガーフィールド、キーラ・ナイトレイと共に、「臓器提供のために生かされる子どもたち」を演じた。こちらも、“力”を持つ者に支配される者たちの悲しみが描かれる。しかも本作に登場する子どもたちは、そういう運命のもとにプログラムされているため、抗うすべを知らない。美しくも、残酷な物語といえる。

2011年の『ドライヴ』『SHAME -シェイム-』でも、マリガンの作品選びの傾向は強く感じられる。『ドライヴ』では夫が服役中のため、辛酸を舐めさせられる妻を演じた。夫の出所後も事件に巻き込まれ、幼い息子を護ろうと苦心する悲劇的なキャラクターだ。『SHAME -シェイム-』で扮したのは、セックス依存症の兄のもとに身を寄せる妹。情緒不安定で破滅的なキャラクターは、作品の内容と共に観る者に衝撃を与えた。こちらも、他者に依存せざるを得ない“弱さ”を描いている。

虐げられ、そして立ち上がるーーその生き様と強いメッセージ

2012年の『華麗なるギャツビー』では、支配的な夫と暮らす妻を好演。力がある者になびいて生きていく残酷さやしたたかさも持ち合わせた、複雑な人物像を見事に見せきっていた。2013年の『インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌』はやや毛色が違う作品にも見えるが、「甲斐性のない男性の子どもを身ごもり、窮地に陥る」という設定は、これまでの作品とも共通する特徴だろう。

2018年の『ワイルドライフ』は、夫との不和からどんどん有力者に媚びていく妻を痛々しくもリアルに演じ切った。「仕方ないこと」と言いたげな表情で責任逃れを図る卑屈さを持ち、「良い生活」に憧れるキャラクターは、2017年の『マッドバウンド 哀しき友情』にも重なるところがあるかもしれない。こちらは、人種差別をテーマにした骨太な1本。「女性の立場の弱さ」を初期作から一貫してきたマリガンが出演するからこそ、大きな意味を持つ作品でもあった。

出演順は前後するが、2015年の『未来を花束にして』はマリガンの活動における象徴的な映画といえるだろう。本作は、1910年代の英国で、参政権を得るために闘った女性たちの物語。虐げられる人物を(おそらく、かなり意図的に)演じ続けてきたマリガンが、「立ち上がる」まで歩を進めたところに、大いなる意義を感じる。そしてその道の先に、『プロミシング・ヤング・ウーマン』があったということも――。

キャリー・マリガンがこれまでの作品を通して表現し続けてきたのは、理不尽さに従わざるを得なかった女性たち。いわば、社会や時代の被害者たちの“受け皿”となり続けてきた彼女が、エグゼクティブプロデューサーと主演を務めて「反旗を翻す革命家」を描いたということ。彼女の生きざまと強いメッセージが込められた『プロミシング・ヤング・ウーマン』は、アカデミー賞に風穴を開けられるのか。期待を込めて、見守りたい。

文:SYO

『プロミシング・ヤング・ウーマン』は2021年7月16日(金)より公開

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『プロミシング・ヤング・ウーマン』

キャシーは【明るい未来が約束された若い女性(プロミシング・ヤング・ウーマン)】だと誰もが信じて疑わなかった。ある不可解な事件によって不意にその有望な前途を奪われるまでは。平凡な生活を送っているかに見えるキャシーだったが、実はとてつもなく頭がキレて、クレバーで、皆の知らない“もうひとつの顔”を持っていた。夜ごと出掛ける彼女の謎の行動の、その裏には果たして一体何が―?

制作年: 2020
監督:
脚本:
出演: